貴音はガマンしているのです!(貴音side)前編
――貴音はガマンしているのです!
女の子だって、男の子と同じことをするのです。
……ただ、それを人前では見せないのです。
女の子が人前でそんなお下品なことをすると嫌われちゃうのです。だから女の子はずっとガマンしているのです……女の子は大変なのです。だから……
――貴音は今……リビングで『オナラ』をガマンしているのです!!
今までこの家はパパと貴音の二人暮らしだったのです。パパは童話作家で、ご飯のとき以外はずっと書斎にこもっているのです。なのでリビングは、貴音が自由に使うことができる空間だったのです。
貴音はもちろん人前でオナラなんてしないのです! 家にいるときも必ずおトイレに行ってするのです。でも、お行儀が悪いのですが……リビングに貴音ひとりだけで、ゲームやテレビに夢中になっているときには「こっそりと」してしまうこともあるのです……きゃっ! はっ、恥ずかしいのです!
――でも……今は違うのです!
四月からリビングにはもうひとり……「おねえちゃん」がいるのです!
こっそりと……できないのです! うっかりも……できないのです!
夕ご飯後のくつろげる時間が……ときどき苦痛になるのです。
この家にはママさんもいるのですが、ママさんは洗い物をしたり別の部屋でアイロンがけをしたりと忙しいのです。ときどき貴音たちがリビングに居ることすら気づかないこともあるのです。なのでママさんに聞かれる心配はないのです。
それに引き換えおねえちゃんは……
大学生なので寝る間も惜しんで勉強するのかと思ったら、自分の部屋で勉強することがほとんどないのです。いつもリビングで貴音と一緒にゲームしたりテレビを見ているのです! まぁ貴音と一緒に遊んでくれるのはうれしいのですが……
――オナラをするチャンスが無くなってしまったのです!!
今もおねえちゃんと一緒にお気に入りのテレビドラマを見ているのです。CM中もおねえちゃんが話しかけてくるので、トイレに行ってるヒマが無いのです!
貴音は一人掛けのソファーに座り、おねえちゃんは三人掛けのソファーで横向きに寝そべってテレビを見ているのですが、貴音は少し苦しくなってきたので前かがみに座り直したのです。
でもここで疑問が残るのです。おねえちゃんだって人間、オナラくらいするハズなのです。つまり条件は一緒、きっとおねえちゃんだってガマンしている……
〝ブッ〟
「おっ、わりぃわりぃ」
――ガマンしていないのですぅううううううううっ!!
おねえちゃんはいつも貴音の目の前で、平然とオナラをするのです!
デリカシーが無いのです! 何なのですか? 「親しき中にも礼儀あり」という言葉があるのですよ! もっと遠慮してほしいのです!!
「おねえちゃんっ!!」
こんなことが何日も続いたので、ついに貴音はおねえちゃんを注意したのです。
「おねえちゃん、何でいつも貴音の前でプープーするのです!? もっと気を遣ってほしいのです」
するとおねえちゃんは何も悪びれることなく……
「えっ、別にいいじゃんオナラくらい……」
「よくないのです! はしたないのです! もぉっ、おねえちゃんはそうやって人前でも平気でプープーするのですか……ぷぅ!」
おねえちゃんの開き直りが頭にきた貴音は、ふくれっ面になったのです。
「いやいや、私だって公共の場ではしないぞ……あぁでも、高校時代は教室とかでフツーにしてたなぁ……」
「えっ、教室で!? ありえないのです」
「それなー、でもほらっ私って女子校(出身)じゃん!? 別に気にする相手なんかいなかったし……クラスの連中ほぼ全員してたわ! 中にはウケ狙いで授業終了五分前になると必ずブチかますヤツもいたぞ」
……じっ、女子校って怖いのですぅううううっ!!
「えっ、何? 貴音ちゃんもオナラしたいってこと?」
――ぎっ、ぎくぅっ! おねえちゃん、カンがよすぎるのです。
「たったた貴音は……そっそんなことしっ、しないのです!」
「え~っ、ホントにぃ~!?」
マズいのです! おねえちゃんがニヤッとした顔で貴音を見てきたのです。
「ほっ、本当なのです! 貴音はオナラなんてしないのです」
「ほぉ~! じゃあ……今から貴音ちゃんのお腹を押してみようかなぁ?」
――じっ、冗談じゃないのですぅううううううううっ!
「おっ、おねえちゃんは何考えてるのですか!?」
「ん~っ? 貴音ちゃんってどんなオナラするのか聞いてみたいなぁ~♥」
「へっ! ヘンタイさんなのですか!? ヘンタイさんなのですか!?」
「そ~だよぉ、お姉さんはヘンタイさんなのだぞぉ~♥ さぁ貴音ちゃん! ヘンタイお姉さんにオナラを聞かせるのだぁ~♥」
と言うとヘンタイおねえちゃんはソファーから起き上がって、貴音に襲いかかってきたのです!
「ひぃっ!」
――イヤなのですぅううううううううっ!
貴音はソファーから立ち上がると逃げ出したのです。するとヘンタイおねえちゃんは貴音を追いかけてきたのです。そして貴音とおねえちゃんは、ソファーの周りでぐるぐると追いかけっこを始めたのです。
なぜリビングから逃げ出さないのかというと、テレビドラマがまだ終わっていなかったからなのです。貴音とおねえちゃんはテレビを気にしながら追いかけっこをしていたのです。
「こらっクララ! 遊んでいるんじゃないのです!」
ケージの中で寝ていた愛犬・クララは貴音がヘンタイおっぱいに追われている姿を見て、遊んでいると勘違いして一緒に走りまわってきたのです。
――ま、マズいのです! このままじゃ……出そう……なのです。
余計な運動をしたせいで、貴音のお腹は限界になってきたのです。今はお尻に力を入れているのですが、これ以上動くと自分の意志とは無関係に出てしまいそうなのです! と、そのとき……
……ドラマが終わってエンディング曲が流れたのです。
「もおっ、おねえちゃんなんか嫌いなのです! バカッ、ヘンタイ!」
貴音はおねえちゃんに暴言を吐いてからおトイレに駆け込んだのです。
――ふぅっ!
ギリギリセーフだったのです……あっ!?
――次回予告を見逃してしまったのですぅううううううううっ!
貴音なのです。次回は……ぜぜっ、絶対に耳をふさぐのです!




