妹の友だちが私の家へ泊りにやって来た(いづみside)
「あっお姉さん、おじゃましまーす!」
「しまーす!」
十月も中旬になった週末の夕方……妹の貴音ちゃんの友だち・菱山天ちゃんと空ちゃんの双子が家にやって来た。
この二人が家へ遊びに来るのは珍しくない。だが今回この子たちは大きなバッグを抱えてやって来た。今夜、この子たちは妹の部屋に泊まる……つまり「パジャマパーティー」をするというのだ!
おいおい! この家がキマシタワー建設予定地になったぞ!! うわー建設作業に参加してーなぁ♥
「あっ師匠! お世話になるっす」
「だから師匠って呼び方やめてくれるかな!?」
さらに野牛島樹李ちゃんも一緒だ。最近妹はこの三人と一緒に行動することが多いが、今回はちょっと勝手が違う。
今までこういう「イベント」があるとき、妹たちは樹李ちゃんを誘わない。それでは樹李ちゃんが可哀想なので、彼女とニャインでつながっている私が誘うというパターンだったが……
今回は妹たちが彼女を直接誘ったのだ。この子たちはいつの間に仲良くなったのだろう……それはいいのだが、もし以前のようにこの子を陥れることがあったら今度はひとりの大人として妹たちを諭してやらなければいけない。
夏休みに初めて会ったとき、樹李ちゃんはいかにもギャルといった風情で髪を染めネイルまでしていたが今は二学期……髪を黒く戻しツインテールにしていた。
「そういや髪形変えたんだね」
「そりゃそうっすよ! 校則もあるし……」
根は真面目な子だ。
「それにガバ子がうるせーっすからね」
「おいちょっと待て! 何でそのあだ名を……」
ガバ子とは妹たちが通う中学校の代替教員・長沢真秀良のあだ名だ。前に妹のことでこの教師と校長室で対峙したとき、大学の先輩である母の茅乃が暴露した。
ちなみに意味は……学生時代ヤリ●ンでおまたがガバガバになって……という子どもたちに絶対聞かせてはいけない理由だ。
「あっそれはですね……貴音ママが校長室でしゃべってたのを聞いて私たちが広めたんですよ!」
「ですよ!」
「この間、二年のパイセンが本人に向かって言ったっす! そしたらガバ子、真っ青な顔してその場から逃げたっていう話っす! マジ卍っす!」
「えっ何!? マジ卍って……」
「さぁ……樹李タソもよくわからないっす」
――茅乃ぉおおおおっ! 何てことしてくれたんだよぉおおおおっ!
「ところでお姉さん、ガバ子ってどういう意味なんですか?」
「ですか?」
……答えられるワケねぇだろぉおおおおおおおおっ!
※※※※※※※
私はさっそく変なあだ名を広めた張本人、茅乃に意見してやろうかと思ったが残念ながら今日は不在だ。というのも童話作家である継父の延明さんが新作童話を書いたのだが、その出版記念パーティーに夫婦同伴で出席していたのだ。
なので現在この家は私と妹、そして天ちゃん空ちゃんと樹李ちゃんだけ……まるでマンガやラノベのようなご都合主義設定になっている。
ここまでご都合主義ならいっそのこと……みんなでお風呂に入って全員のハダカを堪能したりパジャマパーティーなどと言わず全員私のベッドで乱●パーテ……
――いかんいかん!! 全員中学生だぞ!
例え女同士でも児童に手を出したら法的にも社会的にも死ぬわ! はぁ、せっかく百合ハーレムのチャンスだったのに……相手が幼すぎる。それにこの子たちだって自分の意志がある……それは尊重しなければいけない。
「あっ、そこでアイテムを取るのです!」
「えっどこどこっ!?」
「あざーっす! 樹李タソがいただくっす!」
妹たちはさっそくリビングでゲームをしている。樹李ちゃんとも仲良くやっているようだ。私はこの子たちのために夕食の準備をしていた。
〝ジューッ〟
私がお肉を焼き始めると、その音に反応した妹たちがゲームを中断してこちらを見た。カワイイお客さんが来ているので今日の夕食はステーキを奮発した。もちろん継父の承諾は得ている……でも茅乃には内緒だ。
「あっ、お姉さん! 気が利かずにすみません」
「すみません」
「あぁ気にしなくていいよ! お客さんなんだから」
「いえ師匠! 樹李タソがお手伝いするっすよ」
うわっ、何て良い子たちなんだろう……可愛すぎて抱きしめたい♥
「じゃあゴメン、食卓の準備してくれるかな? 天ちゃんはテーブルの上を片付けてくれる? 空ちゃんは食器の準備、樹李ちゃんはお茶を用意してくれる?」
「はーい」
「貴音は……何をすればいいのです?」
「あ……じゃあ貴音ちゃんは、ステーキが冷めないようにお皿を温めてくれる?」
普段全く手伝おうとしない妹が、自ら手伝うと言ってきた。友だちと一緒に生活するとこういう自主性が養われるんだなぁ……でも、
「貴音ちゃん……お皿を抱いても温まらないよ」
「えっ、ニワトリさんは卵をこうやって温めるのです」
そこへ食卓を片付けた天ちゃんが
「貴音ちゃん、お皿にお湯を入れて温めるのよ」
と言って代わりにやってくれた……すみません、世間知らずの妹で。妹は半べそになりながら
「たっ、貴音はどうすればいいのです!?」
「……食後にコーヒー淹れてくれる?」
妹はコーヒーを淹れる腕前だけは一流だ。
※※※※※※※
「いただきまーす」
「うわぁ、このステーキ柔らかくて美味しい!」
「美味しい」
「師匠! このクラムチャウダー鬼ヤバっす!」
妹と妹の友だちの五人で夕食だ……気に入ってもらえてよかった。
この日の夕食は、牛赤身肉のステーキ・アボカドソース添えと牡蠣のクラムチャウダーだ。一見、ただ美味しいだけの夕食……と思いきや、このメニューには私の切なる思い……いや野望がこもっている。
それは、これらの食材には性欲を増強……つまり媚薬の効果が期待できる(?)ということだ。
まずはステーキ! ネットの情報だが赤身肉にはドーパミンとノルアドレナリンの分泌量を増やす作用があるらしい。ソースに使ったアボカドも性欲アップに良いと言われている。付け合わせで添えたブロッコリーも効果的なのだそう。
そしてクラムチャウダーに入れた牡蠣……想像しただけで性欲アップしそうな食材だ。こちらにもブロッコリーと、苦手な子がいるかと思いステーキの付け合わせにしなかったアスパラガスを小さく切って入れておいた。
「うわぁ、甘くて美味しい♥」
「美味しい♥」
「貴音っちが淹れてくれたコーヒー、鬼ウマっす!」
食後のデザートは、かつて媚薬として使われたというチョコレートを大量に使ったチョコレートケーキにして、妹が淹れた極上のコーヒーと共に頂いた。
まぁ普段から食べられている食材なのでそこまでの効果は期待できない。それでも……この食事によってこちらから手を出さずとも、この子たちが自主的に服脱いでくれたりキスしてくれたりベッドに入ってくれたら……♥
……何バカなこと考えてるんだ私は!?
全員が食後にくつろいでいると、突然妹が
「みんな! そろそろお風呂に入るのです」
――さっそく食事の効果か!?(※普通の言動です)
貴音なのです。本当に狙われているのは貴音たちではないのです!




