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私は妹のビデオを見て成長を実感した(いづみside)

 



「ただいまー」




 夕食の支度が済んだころ、継父の延明(のぶあき)さんが外出先から帰ってきた。


 継父は売れっ子の童話作家だ。普段は家にこもって原稿を書いている。たまに出版社との打ち合わせやネタ探しで外出することもあるが……今日は珍しくそれ以外の目的だったようだ。


「あら延明さんお帰りなさい! どうでした?」

「あぁ、意外と安く済んだよ。じゃあご飯食べ終わったら……」


 廊下に出てきた母の茅乃(かやの)と何やら話しているが……何の話だろう?



 ※※※※※※※



「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまなのです」


 今日は私のバイトがお休み、久し振りに家族そろっての夕食だった。食後にくつろいでいると突然茅乃が


「ねぇみんな! 今からビデオ鑑賞会しない!?」


 しない!? と一応聞いてみる素振りはするが、正確には「するよ!」という決定事項……茅乃はそういう人間だ。

 それにしても突然ビデオ鑑賞会とはどういうことだ? 何か面白い映画のDVDでもレンタルしてきたのか? 私は気になって茅乃に訊ねてみた。


「ビデオって……何見るんだよ」

「何ってほらっ、この間貴音(たかね)ちゃんの学校で体育祭あったでしょ!? そんときのビデオだよ!」



 ――げっ!?



 茅乃の言葉を聞いた私と妹の貴音ちゃんは目を見開いて固まってしまった。というのもこの体育祭は二人にとって忘れてしまいたい『黒歴史』だったからだ!


「えっそれは嫌だ!」

「見たくないのです!」


 私と妹は明確な拒否反応を示したが、このときすでにディスクはデッキへ吸い込まれTV画面が切り替わっていた。


「おっおい! DVD止めろよ」

「ざーんねん! これブルーレイなんだなー」


 何だその屁理屈……小学生か!? だが私たち姉妹の願いむなしくDVD……もといブルーレイは再生されてしまった。冒頭からいきなり「体育祭」の文字と日付のテロップが……わざわざ編集までしたようだ。


「えっ、これお継父(とう)さんが編集したの?」

「いやいや、パソコンでも編集出来るけど忙しくてそんな暇ないからね、知り合いのカメラ屋さんにお願いして作ってもらったんだよ」


 ――第三者に()()()()を見せたんかぁああああっ!?


 どうやら継父が出掛けていた先はそのカメラ屋さんらしい……最悪だ! でもさすが専門家に編集してもらっただけあってテンポよく映像は流れていった。開会式の来賓挨拶も大幅にカット……これはいいことだ!


「うわぁ……イヤなのですぅううううっ!」


 いよいよ妹が大活躍(皮肉)した全員リレーだ。妹にバトンが渡されると、まるでそこからスロー再生されたかのようにゆったりとした動きになった。

 例えるなら初めて「あんよ」ができた赤ちゃんが、拙い動きでこちらに向かってきたときのような気分だ。私がニコニコしていると……


「イテッ」


 ソファーで隣に座っている妹が、私の太ももをつねってこちらを睨みつけた。


「今、貴音をバカにしたのです」

「バカになんかしてねーよ」


 ……赤ちゃん扱いしただけだ♪


 午前の部が終わり、昼食のシーンが流れた。(てん)ちゃん(くう)ちゃんも妹と一緒に映っている……いいなぁ、この部分だけダビングしてほしいわ♥

 だが次は午後の部……保護者競技の「障害物リレー」だ! あの忌々しい記憶がよみがえってしまう!


「さっ、じゃあそろそろ次のビデオでも……」


 私がビデオを停止させようとしたらそれを止める者が……妹だ!


「ちゃんと最後まで見るのです♥」


 おい妹! 心なしかエロい目になってるように見えるのだが!?


「そういやいづみ! 一等賞取ったんだよな!? 母さん見られなかったから楽しみだわ!」


 ――そういやオマエが原因じゃねえかぁああああああああっ!!


 そもそも私が公衆の面前でノーブラを晒すという「公開処刑」を食らったキッカケは、本来出場するハズだった茅乃(コイツ)がギックリ腰になったせいだ!

 だが今、何を言ったところで後のフェスティバル……私は自らの黒歴史と向き合うことになった。

 うわぁ……ネットくぐりで完全に()()してんじゃん! 観客席の前でピョンピョン跳ねているから揺れがドアップで……これは死ぬ!


 ビデオを見終わると、妹と茅乃はニヤニヤしていた。


「おねえちゃん……ぐっじょぶなのです♥」


 ――やかましいわ!


「いづみー、何でスポブラしてこなかったんだよ!?」


 ――オマエが棄権しなきゃ必要ねぇんだよぉおおおおっ!


 ちなみに継父は……元々ボーっとしている性格のせいか、あるいは普段のサイズを見慣れているせいか私の「変化」に気づかなかったようだ。



 ※※※※※※※



「あれ? このディスクは?」


 私はリビングテーブルに置かれた別のDVDに気づいた。すると継父が、


「あぁそれは……前にみんなで昔のアルバム見たことあったよね!? そのとき一緒に見つかったミニDVも今回ついでにダビングしてもらったんだよ」


 そういえば……私が妹と「おやすみのキス」をするきっかけとなった昔のアルバムを見たとき、再生できないと言う理由で見なかったミニDVがあったな。

 まぁ今の私は家族から精神的な暴力を受けた「ミニDV(ドメスティックバイオレンス)」状態だが。


 さっそくこちらのDVDも再生した。アルバム同様、妹が赤ちゃんだったときの様子が今度は動く映像として見ることができた……もちろん亡くなった妹の実母・ノラさんもいる。だが次の瞬間、


「ほわぁああああっ! おっ、おねえちゃん! 見ないでほしいのです!」

「えっ!?」


 そこには……自宅の庭らしき場所に設置されたビニールプールの中、水着姿のノラさんと一緒に一糸まとわぬ姿で遊んでいる幼女が……つまり妹だ。

 妹は顔を真っ赤にしながら、私に映像を見ないよう訴えているが……いや、ここ最近ずっと一緒にお風呂入ってるし、むしろ自ら進んで風呂に誘ってくる(オマエ)は一体何なんだ!?



 ※※※※※※※



「ふわぁ! 貴音はとっても恥ずかしかったのです!」


 妹はまだビデオのことを引きずっているようだ。


「おねえちゃんえっちなのです! 貴音のハダカを見ないでほしいのです」

「ちょっと待て……じゃあ今の状況はどう説明するんだ?」


 ビデオ鑑賞会を終えた私と妹は今一緒に()()()……時々妹の感覚について行けないことがある。


「おねえちゃん! 背中の流しっこするのです」


 私は妹の背中を流しながら、今の方がよっぽど恥ずかしい状況だろうと心の中でツッコミを入れた。二~三歳児くらいの体型と違って今は中学生、体つきも大人に近づきおっぱいだって……



 ――あれっ!?



 いつも一緒だったので意識していなかったが、そういや妹の胸……最初見たときより確実に大きくなっているじゃないか!?


「貴音ちゃん、最近ブラの調子はどう? 体に合ってる?」

「んー……この間のリレーのとき、ちょっと揺れる気がしたのです」


 ――やっぱり!


「じゃ、今度新しいブラ一緒に買いに行こうか?」

「はいなのです♥」


 確実に妹は成長している。そして……そろそろアレも来る頃だろう。


 妹が精神的に苦しまないよう、私が助けてあげないと……。

貴音なのです。みっ見ないでほしいのですぅううううっ!

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