私はある事に耐えながら障害物リレーを走った(いづみside)
だったら面白れぇ……茅乃の代わりに私がコイツを倒す!!
母の茅乃がギックリ腰になってしまったため、茅乃が出場する予定だった保護者競技の「障害物リレー」に私が代理で出場することになった。
私は最終走者……つまりアンカーだ。しかも私の隣には茅乃の後輩で、かつて妹の貴音ちゃんに暴言を吐いた代替教員「長沢 真秀良」がいたのだ!
茅乃はこの長沢と勝負して完膚なきまでに叩き潰す気でいたらしい。私も妹をイジメたこのBBAを許すワケにはいかねぇ……ブッ潰してやる!
体力的にはこのBBAに負ける気がしない。だが今の私は金具が壊れかけたブラを着用している。これが外れないか……というのが唯一の心配だ。
※※※※※※※
「よーい」〝パーンッ!〟
第一走者がスタートした。走者は四人、一年生から三年生までの保護者と教職員チームだ。私がいる一年生保護者チームは序盤から出遅れてしまった。
「頑張ってくださーい!」
第二、第三走者とタスキが渡されていくたびに一年チームは遅れている。お互い誰なのかも知らない同じチームの選手に送った声援も空しく、アンカーの私は最下位でタスキを受け取ることがほぼ確定した。
「あーら残念! せっかく茅乃先輩の娘さんと競り合えると思ってましたのに」
以前茅乃に黒歴史を暴露された長沢は私たち母娘に敵意むき出しだ。教職員チームの長沢は二番手でタスキを受け取ると、私に嫌味を言い残して走り出した。
「かっちーん」
私は思わず妹みたいにオノマトペが口に出てしまった。このBBA! 絶対に追い抜いてやる!
「ごめんなさーい……ハァハァ」
同じチームの走者が息を切らせながら十秒以上遅れてやってきた。普段運動していなさそうな体型のご婦人だ……何でこの人を選手に起用したのか? そんな疑問はさておき、私はそのご婦人からタスキを受け取ると一目散に走り出した。
最初の障害物は平均台……普段運動などしていない大人たちはバランスを取って移動するだけでも大変そうだ。しかも、
「いきますよー! はいっ」
「えっ、わぁっ!」
もうすぐ渡りきる直前で、近くにいる係員からボールをもらってそれを投げ返すというオプション付きだ。
ここでほぼ全員が一度は落とされてしまう。落ちたらまた最初からやり直し……平均台なのにハードルが高い。
だが……
「早くボールよこせー!」
「えっ、あっはぃ」
「サンキュー!」
私は平均台の上を走ると、係員からのボールをバスケットボールのパス回しのように素早く返した。これには生徒たちから「おぉっ!」とどよめきが起こった。
ここで一人追い抜いた! この調子で行けば余裕だな。次は……ネットが敷いてある。これをくぐるヤツだ!
私はヘッドスライディングをするようにネットに突入すると、かき分けながら進んでいった。これも余裕じゃん! と気を許したそのとき……
〝プチッ〟
ネットを払いのけようと持ち上げた手を頭の後ろに回した瞬間、私の背中で拘束していたモノが解放される感覚がした。
――うわっ! ブラのホックが外れてしまったぁああああああああっ!!
どうしよう!? ここで動きを止めたら遅れてしまうし、かと言ってこのまま続けたら……
――最悪だぁ! ネット怖いよぉおおおおっ!
でもまぁ肩紐があるからブラが落下することはないだろう。今さらブラを締め直すことができないと悟った私はそのままレースを続行した。前方にいる長沢を何としてでも追い抜いてやる使命感からだ。ところが……
――げっ!?
次の障害物は……ミノムシ競走とも呼ばれている麻袋に入って両足飛びでピョンピョン跳ねるヤツだ!
――揺れるじゃん……おっぱいが!
しかも半袖のTシャツを着ているので、このままだと肩紐がずり落ちて袖口からはみ出す可能性も出てきた。男子中学生ならブラの肩紐が見えただけでオカズにしてしまいそうだ。
私は麻袋を掴みながら肩を目一杯持ち上げて紐の落下を防いだ。しかし両手が塞がっているため、実質ノーブラになった私の胸はピョンピョン跳ねるたびに上下運動をしてしまう……茅乃ぉおおおおっ! 私のクーパー靭帯が損傷したら一生恨んでやるからな!
私は必死におっぱいの揺れに耐え、必死に肩紐の落下にも耐え、必死にジャンプした甲斐あって現在二番手の長沢に追いついた。だが次の障害物は……
――げげっ!?
フラフープが置かれている。これを五回以上回さないと次に進めない。そんな昔の遊びやったことはないよぉ! 私が苦戦していると、
「長沢先生、オッケーです」
何と長沢はこれを一回でクリアした。昭和世代には楽勝なのか? そういやコイツは昔、ディスコで踊りまくっていたという話だ。しかもヤリ●ン……腰を振るのが得意に違いない。
「……三……四、あぁっ!」
くそっ、感心している場合ではない。焦れば焦るほど上手くいかない! ここは落ち着いて……そうだ! もうひとりのヤリ●ン、平井和がよく腰を振っていたのを思い出して、
「……四……五、よしオッケー!」
大幅に遅れを取ってしまった……マズい、このままじゃ長沢が先にゴールしてしまう! ヤツが勝ち誇った顔など見たくもない。私はわずかな可能性を信じ、次の障害物へ進んだのだが……
……うん、わずかな可能性どころか勝利を確信したわ。
「痛い痛い痛いっ……ひぃいいいいっ!」
目の前には悶絶して倒れている長沢と、「靴を脱いでくださーい」と声をかけてきた係員の姿が……ここは足つぼマットが敷き詰められた障害物だ!
「お先に―♪」
靴を脱いだ私は余裕で足つぼマットを渡り切った。剣道で足裏を鍛えていたからこのくらいの刺激は何ともない。
むしろ茅乃と同じ大学の剣道部だったという長沢の方が問題だ。コイツ、茅乃の言う通り部活に出ていなかったな!? そのツケが今ごろ回ってきたのだろう……ざまぁみろ!!
残るはトップの選手のみ! 最後の障害物は……パン食い(競走)だ!
手を使って取ってはいけない……私は両手で胸を押さえると、パンが取れず苦戦しているトップの選手を尻目に
「うぉりゃああああっ! ぱくっ」
一発でアンパンをゲット! そのまま一着でゴールした。
※※※※※※※
「完敗だわ……それにしても貴女、すごいわね」
レース後、長沢が近づくと私に声をかけてきた。私の完全勝利だ!
「まぁ鍛え方が違いますからね」
私が勝ち誇った態度をとると長沢は
「いえ、そうじゃなくて……生徒に悪影響だから早く締め直しなさい!」
そう言ってそのまま去って行った。え、締め直すって……
――!?
そういや私、ブラが外れたままだった! しかもカップは鎖骨辺りまでずり上がりB地区がTシャツの上から丸見え、とどめは袖口からブラの肩紐が出現……
――最悪だぁああああっ!!
トイレでブラを着け直してこっそり観客席へ戻ってきた私に、カメラを持った継父の延明さんが、
「あっいづみさん! リレーの活躍はバッチリ撮れて……」
「すぐに消してください……それは私の黒歴史です!」
貴音なのです。次回は貴音視点でおねえちゃんの活躍を見るのです♥




