【番外編】《小休止なのです》2
尾白姉妹によるカップ焼きそばの話に続き……今度は菱山姉妹バージョンです。
「いい、空! 今日はパパもママもお出かけしていないから、晩ご飯はお姉ちゃんが空にカップ麺作ってあげるからね」
「双子だから天はお姉ちゃんポジション主張しなくていい……あと、カップ麺くらい自分で作る」
「ダメよ! カップ麺などという庶民の食べ物を大事な妹に作らせるなど以ての外だわ! 年下の妹に熱湯扱わせて火傷したら大変だし」
「ウチはサラリーマンの家庭だから立派な庶民……それと、私たち双子だよ」
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「もぅっ何で外側にビニールがピッタリ貼ってあるのよ! 剥がしにくいわね」
「底の部分を指で押さえれば簡単に開くけど……」
「ええっと、お湯を沸かしたら熱湯を320ミリリットル……えっ!? 320ccじゃないの!?」
「一緒だけど……もう一度小学校に入り直す?」
「そもそもお湯の目安量って何よ! 書くんだったらハッキリ書きなさい!」
「日本一理不尽なクレーム……」
「計量カップで量らないとダメじゃん……何てめんどくさい設定なの!?」
「カップの内側にある線でいいんだけど……」
「290……300……310……うわぁっ、オーバーしちゃったぁ!」
「一番めんどくさいのは天だと思う」
「やり直し! ちょこっと捨ててもう一回!」
「えっ、そんなことしたらお湯が冷めちゃう……」
「あぁっまた入れすぎちゃったぁ! もう一回!」
「……面白そうだからしばらく見てみよう」
「ふぅっ、やっとピッタリの量になったわ! じゃあ入れるよ」
「フタを開けずに?」
「そうだ! まだフタ開けてないじゃん! えーフタを半分まではがし……って半分どこよ!? タブはフタの長さに含めるのかな!? ちょっと空! 私の部屋から定規持ってきて!」
「杓子定規なら目の前にいるけど……」
「えっ何か言った?」
「言ってない……とりあえず裁縫用のメジャーならあるよ」
「あぁこれでいいわ! ええっと、円周が29.8センチだから直径は……」
「円周から計算しようとしているこの人……」
「わかった! 9.5センチね!? つまりフタの半分、半径は……」
「フタに線引いちゃった……ってか定規持ってるじゃん」
「じゃあ半分まで開けるよ! 失敗は許されないからね」
「失敗したら2個以上食べることになりそう……」
「よし上手くいった! 次に熱湯をゆっくり注ぐって……えっ、ゆっくりってどのくらいのスピードなの!?」
「跳ねたお湯で火傷しない程度……」
「そっか、コーヒーみたいにゆっくり入れないと美味しくならないのね!?」
「人の話を聞いてない……」
「そういや前に貴音ちゃんが変わったヤカンを使ってコーヒー淹れてたよね!?」
「ドリップポット」
「そう、それ! 確かウチにもあったはず……探してくる」
「もう勝手にして……」
「あったよー! これに計量カップの熱湯を注いで……」
「たぶんもうぬるま湯……」
「ゆっくり……ゆっくり……確か貴音ちゃん、回すように少しずつお湯を入れるって言ってたよね!?」
「それコーヒーの話……貴音ちゃんまで妄想事故に巻き込んだ」
「じゃあフタをするよ……と、その前にアプリ起動させないと」
「ストップウォッチはお湯入れる前に準備した方がいい」
「3……2……1……よし! フタをしてすぐにスタート!」
「カウントダウンは時間に入らないのかな」
「あぁっ! フタが開いちゃったぁ!! やり直しだぁ!」
「……えっ?」
「ストップウォッチをリセットしてと……」
「やっぱりこの人……庶民と感覚ズレてる」
「あぁっ! またフタが開いた……もうっ、何で開いちゃうの!?」
「天、そういうときは重い本とかを上に乗せるといいよ」
「本かぁ……でも湯気で表紙がふにゃふにゃにならない!?」
「なるかも……」
「じゃあダメじゃん! ええっと、何か重くて平らな物……あっそうだ! 冷蔵庫に板氷があったよね!? あれ乗せればいいじゃん!」
「……もはや正気の沙汰ではない」
「よし、氷を乗せて……スタート!」
「もう2分くらい経過している気が……」
(3分測定中)
「そういえばさぁ天」
「何? 空」
「シーフードカップ麺って……牛乳加えるとクラムチャウダーみたいになって美味しいらしいよ」
「そうなの!? じゃあ冷蔵庫に牛乳あるから試してみようっと」
「……冷製スープになりそう」
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「3……2……1……やったぁ! 出来上がりー!」
「カップ麺作ってここまで感動するとは……」
「それじゃフタを開けて……あれ!?」
「どうしたの? 天」
「何か……麺が熱湯入れたときと変わらない気が……硬そう」
「熱湯じゃなくてぬるま湯だから……」
「ふぇーん! 空、ごめーん! せっかく空のために作ってやったのに」
「いいよ……それは(責任もって)天が食べて」
「うわぁ……硬いよぉ! 不味いよぉ!」
「じゃあ牛乳入れてみる?」
「……硬い何かが入った冷製スープだぁ~!」
「予想通り……」
「ところでさぁ……さっきから空は何食べてるの?」
「私は……さっき自分で作っておいたカレーカップ麺食べてる」
「ええっ何でよぉおおおおっ!? 私にも作ってぇええええええええっ!」




