私は同じ大学の子の「秘密」を知ってしまった(いづみside)
〝むにゅ!〟
――まっまさか!? この子は……男!?
料理を教えるため(建前)、私は同じ大学に通う金沢桃里という子を家に招き入れた。地味子だけどカワイイ桃里ちゃんをモノにしようと(本音)迫ったら……
この桃里ちゃん……何と「男」だったのだ。
「うわぁああああっ! かかっ、痒い痒い痒い!!」
意図せず桃里ちゃんの股間に触れてしまった私は、その異様な感触による嫌悪感と過去のトラウマから蕁麻疹が出てしまった。まさか男性恐怖症がこんな形で現れるとは……。
※※※※※※※
私は桃里ちゃ……くんと離れて座った。蕁麻疹も治まり、色々と腑に落ちないことがあったので彼女……じゃなくて彼に問いただした。
「……どういうことだ!?」
「えっ、あぁ……すみません」
「……単刀直入に聞く!! オマエは『男』なんだな!?」
「は……はぃ」
桃里は力が抜けたようにへなへなと座り込んで観念したように答えた。
「……ヘンタイ!」
「えぇっ、ちちちっ違いますよぉ!」
……ま、自分のことを棚に上げて言うのも何だが。
「ていうか何でオマエは女装してウチの学校に来ているんだよ!?」
「えっ、そ……それは……」
「言わないのならオマエが男だということを学校中にバラす」
「わわっわかりました! いっ……言います!」
桃里の話はこうだ。
彼は県外の出身……父親は腕のいい板前だったそうだ。だが彼が小さいとき父親は他界、彼は父親のようになりたいと料理人を目指すようになった。
しかし母親と三人の姉という女だらけの家庭で甘やかされて育った彼に、男だらけの飲食店で修業することは恐怖でしかなかった。
とまぁ、ここまでの話はさっきも聞いたが……
そこで実務経験がなくても調理師免許を短期間で取れる「学校」を選択した。初めは専門学校を探していたが、偶然ウチの学校の情報を知り入学したらしい。県外の学校を選んだのは「親元を離れたい」という自立心だそうだ。
「で……何で女装なんだ!?」
「そっ、それは……初め共学だって聞いていたんで……」
あぁそうか! 確かに募集要項で「女子のみ」とは書いていなかったな。この学校……表向きは「共学」だが実際に通っている学生は全て「女子」、そしてそのほとんどが「地元」だ。
「地元じゃココに進学しようとする男子はいないよ」
「し……知らなかったんです。ちゃんと口コミまで見ていれば……」
「それな! で、男一人だと居場所がないから女装した……と?」
「は……はぃ」
なんてこった! それにしてもコイツにはすっかりダマされた。ぶっちゃけ私より見た目が女で化粧は上手。「女装子」の「男の娘」……もはや女だ。
「何で女装が上手いんだよ!? ひょっとして……こっちか?」
「ちっ違います! これはわた……ボクは小さいころから姉たちの『おもちゃ』にされていまして……よく姉たちのお下がりを着させられたり化粧させられたりしたんです。で、いつの間にか自分でも出来るようになって……」
姉を持つ弟あるあるだな……何か想像がつく。
桃里の女装子問題は納得した。となると今度は別の問題が……。
「お……オマエは私のことを『女』として好きだって言ったんだよな!?」
「あっはぃ、もちろんです」
でも私は桃里のことを「女」として好きだと言った。しかも「女」として性的な関係まで持とうとした……つまり私が同性愛者だってバレバレじゃん!
「あっあのさぁ、私は別に女に興味があるとかそういう……」
「貴音ちゃんから聞きましたよ! いづみさんは男の人に興味がないって」
――妹よ! しゃべったのかぁああああっ!?
妹の貴音ちゃんは私の「男嫌い」を知っている。だがさすがに「女性が好き」ということまでは気づいていない……と思う。
そっか! 桃里はキッチンで私に告ったのに脱衣所で態度が一変したのは……妹が吹き込んだせいだったのか!?
「そそっ、そう! 私は男が大っ嫌いだから……だからキミとは」
とりあえず「男嫌い」をアピールして「女好き」という発想を消し去ろう!
「でっでもボクがいづみさんを好きなことに変わりありません! いづみさんが男の人に対して苦手意識がなくなるまで待ちます! だからボクと……」
「いやムリ!」
どうやら桃里は私の性的指向に気づいてないようだ。私がホッとしたそのとき、
〝ガチャガチャ!〟
「あれ? 鍵かかってんじゃねーか! おーい、いづみ!」
――やべぇ、茅乃だ!
こんなところで桃里と二人っきり、しかも鍵をかけていたら「あらぬ誤解」を招きそうだ! ところが茅乃の「あらぬ誤解」は想像の斜め上を行っていた。
「掃除が大変だから湯船の中でやるなよー! 自分の部屋行って、ちゃーんとゴム着けてからにしろよー!」
「ぶーっ!!」
あれが娘を持つ母親のセリフか!? つーか茅乃は桃里が「男」だって最初から気づいていたんだ。茅乃の足音が消えた後、
「わっ私はここから出るから早く着替えろ! それからジャージは洗濯機の中に放り込んでくれ!」
冗談じゃない! 男が着た服なんか着られるか!?
「あっ、あの……」
「何だよ!?」
「もっもう料理は教えてもらえませんか? わっ……ボク、単位落したら留年してしまうかも……無理してこっちに来ているので、留年したら中退……」
――う゛。
そんなこと言われても桃里は男だ……生理的に受け付けない。だが女装していれば女にしか見えない……今もこうして目をうるうるさせながら懇願する桃里を見ていると思わず押し倒したくなる衝動に駆られる。
「わーったよ教えてやるよ! その代わり、必ず女の格好で来いよ!」
「はっ……はいっ!」
金沢桃里……声も仕草も女にしか見えない。
……だが男だ。
〝ミーンミンミン……〟
もう九月も下旬だというのに……セミが鳴いている。
……だ(以下略)。
※※※※※※※
「桃里ちゃん!? 男でしょ? 知ってるよ~」
数日後、私はラブホテルのベッドで「いつもの」平井和と一緒にいた。元々金沢桃里は和の所属するサークルのメンバーだ。
「なっ! おま……知ってたのかよ」
「あ~もしかして~、桃里クンに手~出そうとしたぁ~!?」
和はニヤニヤした顔でバケモノ乳を揺らしながら私を見た。
「う゛っ!」
「桃里クン、カワイイもんね~! ど~せいっちゃんのことだから~味変とか考えてたんでしょ~!?」
「うう゛っ!」
和の指摘が図星過ぎて返す言葉が見つからない。
「これに懲りて浮気はしないことね~!?」
「悪かったよ和……もうしないから」
するとからかい半分だった和の表情が急に真顔になった。
「私じゃないわよ~」
「……えっ!?」
「貴音ちゃんのためよ~」
――えっ何で妹が!? 確かに妹のことは好きだが……
「いや、妹は関係ないだろ」
私がそう言うと、和はムッとして
「もう! 私、いっちゃんのそういう所が嫌いよ~」
「えっ……」
「じゃ~今日は鈍感いっちゃんがラブホ代出してね~」
「えっムリムリ! 今月キビシイんだよー」
「ダ~メ!」
……妹のため? 私は和の言葉が理解できなかった。
貴音なのです。
あれから桃里おにいちゃんは何度も家に来て、おねえちゃんから料理を教わっているのです……が、
「ほらーっそこ! 何でこのタイミングで塩を入れるんだよオマエは!? それにこの切り方! 何度教わったら気が済むんだよ! あーもうテメェ! 今度間違えたらぶっ飛ばすぞ!」
「ひえぇええええっ! こんなんじゃ修業した方が楽かも……」
……おねえちゃんはスパルタなのです。でも、ちょっと安心したのです♥




