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妹が無自覚すぎて困る(いづみside)

 


 ――清々しい春の朝だ。



 四月から尾白(おじろ)家で生活を始めてもう三週間になる。今は日曜日の午前中……私はリビングの隣に設けられたテラスで読書の傍ら、優雅にコーヒーを味わっている。


 この家には家族全員でバーベキューができる広さのテラスがあり、常にテーブルと椅子が置かれている。朝はまだ少し冷えるが、お昼近くともなると春の日差しで過ごしやすい暖かさになってきた。


 ――それにしても……この家のコーヒーは美味しい。


 尾白家のキッチンには業務用のコーヒーマシンやエスプレッソマシンが置かれている……かなり本格的だ。だが機械で作るコーヒーより、継父(けいふ)である延明(のぶあき)さんがネルドリップで()れたコーヒーの方が格段に美味しいのだ。


 これらの道具や機械、実は亡くなられた延明さんの妻……つまり貴音(たかね)ちゃんのママのために買い揃えたものだそうだ。延明さんから聞いた話だと、フィンランド人にはコーヒー好きが多く、貴音ちゃんのママもコーヒーにはかなりこだわりがあったらしい。

 そこで延明さんは、愛する妻のためにコーヒーの淹れ方を一から勉強して覚えたという……とても素敵な話だ。私もそんな愛し方、愛され方をしてみたいなぁ。



 ※※※※※※※



「クララ! こっちに来るのです……よしよし、良い子なのです」


 私のカワイイ妹、貴音ちゃんは芝生の敷き詰められた庭で尾白家の「もうひとりの家族」と遊んでいる。トイプードルの「クララ」……三歳のオスだ。あぁそういえば……私は男嫌いだがワンちゃんの性別までは気にしない。


 お風呂の一件以来、私と妹の関係は良好だ。連れ子同士だが、今では血の繋がった姉妹のように仲よくしている。


 だが同性愛者(レズビアン)の私はこの美少女妹のことが「性的に好き」なのだ! しかし妹はまだ十二歳、性行為に及んだら完全にアウトな年齢……手が出せないのだ。だから今は姉として接し、この子が大人になったらお嫁さんにしようと考えている。


 ちなみに今、私が読んでいるのは「源氏物語」の第五帖「若紫」だ。


「貴音ちゃん!」

「おねえちゃん! 呼んだのですか?」


 私は妹に声を掛けた……妹はカワイイ「子ども」だ。子どもは無邪気、そして無自覚な言動をする。だが時にその無自覚さがとんでもない事態を招くこともある。


「ねぇ……そのワンちゃん、何か芸とかするの?」


 それは私の……この何気ない一言で始まった。



「はいっ、するのです……クララ! おねえちゃんにチンチンを見せるのです!」



 〝ブーッ!〟


 私は飲み込もうとしたコーヒーを吹き出してしまった。


 ――えっ、何だって!?


 いやいや、ワンちゃんなら男の子(オス)でも平気だけど……だからといって性器を見せるというのは……妹よ、さすがにそれはセクハラに近い行為……


 ――あ゛。


 そっそうかぁ~、チンチンってあれか? ワンちゃんが後ろ足だけで立ち上がるヤツか! うわぁああああっ! 私は何て早とちりを……あぁ恥ずかしい!


 妹に命令されたワンちゃん・クララは二本足で立ち上がった。だが立ち上がったと思ったらすぐに前足を下ろしてしまった。


「えっもうおしまいなのですか? もうっ! クララはチンチンが短いのです!」


 〝ブーッ!〟


 再びコーヒーを吹いてしまった。えっ、私の考えすぎ?


「クララ! おねえちゃんに長いチンチンを見せるのです!」


 〝ブーッ!〟


 ホントにこの子、()()()()に気づかずに言ってるのか?


 妹は長……ちゃんとしたチンチ……芸を見せられなかったことで苛立(いらだ)っていた。


「もうっ! ちゃんと出来るまで特訓するのです! シゴキなのです!」


 あ~いるよなぁ、人前で芸が出来ないと躍起になってしまう飼い主……。


「貴音ちゃん、大丈夫だよ! そんなにムキになってさせなくても……」

「ダメなのです! クララのチンチンが立派になるように貴音が一生懸命シゴいてあげるのです!」


 〝ブブーッ!〟


 おい何か文脈おかしくね? この子……意図的に言ってねぇか?


 すると何度か練習をして再チャレンジしたクララは、二本足で立ち上がると二歩三歩と歩きながらチンチ……ンを成功させた。


「立った立った! クララが立った……のです」


 どこかで聞いた台詞だな? 妹はクララの頭をなでると、


「朝からちゃんと立てたのです!『朝立ち』なのです」


 〝ブブーッ!〟


 おい、やっぱ意図的だろ?


「それじゃ、クララにはごほうびをあげるのです」


 と言うと妹は、ペースト状の物を絞り出してクララに与えていた。


「貴音ちゃん……それ、何?」

「これはクララのおやつなのです!」

「へぇ……それってさぁ、何味とかってあるの?」

「はいっ、バター風味なのです!」


 バ……バター? もうイヤな予感しかない。


「クララはバター味が大好きなのです! バター犬なのです」


 〝ブブーッ!〟


 やっぱり! オマエそのワード絶対他人に言うなよ!


「こうやって貴音(の手)に塗るとキレイに舐めてくれるのですよ」


 〝ブブブーッ!〟


 うわぁああああっ! 一瞬、妹がクララを「使っている」場面を想像してしまった……いかんいかん!! 私はなんて(けが)れているんだろう……。


「おねえちゃん! さっきからコーヒーを吹いていて汚いのです! ちゃんとテーブルを拭くのです! 吹いたら拭くのです」


 妹に怒られた……えっ最後のはダジャレか? にしても妹よ、今の会話を録音して数年後に聞かせたら顔から火が出るほどの黒歴史になるぞ!


「あっ、そういえばおねえちゃん!」

「ん?」

「今のおねえちゃん見て思い出したのです! 貴音は昨夜、テレビで動物のドキュメンタリー番組を見たのですが……」


 ――えっ、何で私を見て? よくわからないけど……


「貴音は生まれ変わったらクジラになりたいと思ったのです」


 唐突に何言い出すんだこの子は? まぁそういう無邪気なところがまたカワイイんだけど……。


「えっ、何でクジラなの?」

「はいっ、貴音は大海原を優雅に泳いでみたいのです!」


 ふーん、いかにも子どもの夢って感じねーっ。あっ、そういやコーヒーまだ残ってんじゃん! 飲まなきゃ……



「そして……思いっきり潮を吹いてみたいのです!!」



 〝ブブブーーッ!!〟


 あぁ最後に一番強烈なのが来ちまったよ! 私はテーブルを拭きながら思った。


 わかったよ貴音ちゃん……


 いつかカワイイ妹の「夢」が叶うように……


 お姉ちゃん……今から頑張って指先鍛えるからねっ!!



 ……いや何考えてんだよ私は!



貴音なのです。おねえちゃんがコーヒー吹きすぎて困るのです。

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