私は同じ大学の子の「正体」に気づいてしまった(いづみside)
「ところでさぁ、キミは何でジャージ着てるの?」
トイレから戻ってきた桃里ちゃんに、母の茅乃が単刀直入に聞いてきた。招かれた家にジャージを着てくるのは確かに不自然だ。
「あぁ、さっき片栗粉を頭から被っちゃったんだよね……」
私が代わりにそう答えると、茅乃はすぐに原因を特定した。
「貴音ちゃんが実行犯だね」
「たたっ貴音じゃないのです! 邪悪な片栗粉さんが反乱を起こしたのです!」
……前代未聞の言い訳だな。
「ところでさーいづみ! これ、ふろふき大根だよな……何で四角いんだ?」
「三から五センチに切って……と言ったらそういう切り方をした中学生が……」
茅乃はため息をつきながら、
「……ま、料理に興味を持ってくれただけでもオッケーってことだな」
本当に興味を持ったのか疑問だが……ま、妹が料理作れなくても問題ない。私が養ってあげるんだから♥
茅乃も加わり、四人で食事をとることになったが……
「へぇー、板前になりたいのかぁ……だったらさぁ、一流ホテルの料理長とか目指せばいいじゃん! その方が収入も安定して家族は安心できるぞ!」
「えぇっ!? まっまだ私そんなレベルじゃないですから……」
茅乃が桃里ちゃんのことを気に入ったのか、プライベートを根掘り葉掘り聞いたり余計なアドバイスをしている。けど二人の会話には若干のズレを感じる。
あれ? そういえば……
さっき茅乃は桃里ちゃんを見て「彼氏」とか言ってなかったか!? おいおい茅乃! 確かに桃里ちゃんは髪型がショートボブで、胸も妹と同レベルだが……
この子は妹と同じくらい華奢な体型で肩幅も狭い。私が貸したジャージが大きすぎて、まるで謎の薬によって子どもになった高校生探偵のようだ。
顔は地味目だが思わず守ってあげたくなるような小動物系……この子のどこに男要素があるんだよ!? まったく、茅乃の目は節穴か!?
そのとき、
〝ガタンッ! ピーッ、ピーッ〟
脱衣所兼洗面所の方からアラーム音が聞こえてきた。我が家はドラム式洗濯乾燥機なので、桃里ちゃんの服は乾燥まで終わらせたのだ。
「あっ桃里ちゃん、洗濯終わったみたいだから行こうか?」
私は桃里ちゃんを脱衣所に誘い出した。
※※※※※※※
〝ガチャッ〟
桃里ちゃんが脱衣所に入ると、私も一緒に入りすぐさま内側からドアロックをかけた。普通、家の脱衣所に錠前は付いていない。この家も最初はそうだった。
私は男性恐怖症……継父と鉢合わせになるのを防ぐため、私がこの家に住むようになってから新たにドアロックを取り付けたのだ。まさか茅乃たちの侵入を防ぐために使うことになるとは……。
桃里ちゃんは「女にしか興味がない」と言った。間違いなく「その気」があるということだ。しかも私のことが「好き」だと……もうこれは同意を得ていると言っても過言ではない!
だが彼女の方から攻めてくることはないだろう。この子は「ネコ(受け)」で間違いない! ならばこっちから積極的に攻めていくしかない……あぁ! もう性欲が抑えられない♥
ところが……
「あっ、あの……きっ着替えるんで出……出て行ってもらえますか?」
あれ? さっきまで好きとか言ってた割に嫌がっているなぁ……まぁいきなりの展開で驚いているんだろう。
「何で? 女同士なんだから下着姿くらい平気でしょ!?」
心配するな! お互いこれから下着の中身までさらけ出すんだよ♥
「いっいえ! マジで困るんですけど……」
「何でぇー!? さっき私のこと『好き』って言ってたじゃない!」
「えっあの……言いましたけどそっ、それとこれとは……」
えっ……完全に拒否られている!? 予想外の展開だ! まぁでも『嫌よ嫌よも好きのうち』って言うし、私がちょっと強引に攻めればこの子は間違いなく堕ちるだろう……それもまた一興!
私は嫌がっている桃里ちゃんをジリジリと壁際まで追い込むと、ついに「伝家の宝刀」を抜いた。
〝ドンッ!〟〝クイッ〟
――そう、「壁ドン」と「顎クイ」の連続攻撃だ。
女子高時代、私はクラスメイトから「王子」と呼ばれていた。初めは少女マンガ好きの友人から冗談半分でやらされたのだが……。
これが予想以上に効果があり、同性愛に興味がない子まで私の「壁ドン」「顎クイ」で堕ちていった。後輩に至っては失神する者までいたからな……これなら絶対に桃里ちゃんも「堕ちる」だろう。
「私も桃里ちゃんのことが好きよ! だから……いいよね!?」
「あっあの……でもやっぱりこういうのはこっ、困るんです!!」
あれぇ~おっかしいなぁ~!? まさかコレが効かないとは……。だがここまでやっておきながら今さら後には引けない!
「大丈夫! 桃里ちゃんのその可愛い唇を頂くだけだから♥」
さすがに茅乃や妹がいるこの家で最後までやるワケにはいかない。とりあえずキスの反応を見てイケるところまでいってみよう!
反応がよければこの後「送り狼」になってラブホに寄り道しても……いつも和と行くラブホだったらお得なメンバーズカードも持ってるぞ!
それにしても……桃里ちゃんを顎クイした私の手が痒い。何なんだ? この子の皮膚にはダニでもいるのか!?
「いっ今はムリです! すみません!!」
「あっ!」
私が痒くなった手を気にしている間に、桃里ちゃんは私の腕をすり抜けて脱衣所から逃げ出そうとした。
――マズい!
このまま茅乃や妹の所に戻られたら私の立場がなくなる! せめてハグでもしてその気にさせないと……私は先回りして扉の前に両手を広げ立ちふさがると、そこから桃里ちゃんを再びジリッ、ジリッと追い込んだ。
でも何でだよ! さっきは自分から好きと言ってたのに……何か心境の変化でも起きたのか?
桃里ちゃんは間合いを取りながら少しずつ後ろに下がっている……そのとき、
「あっ!」
床に置かれた体組成計に桃里ちゃんのかかとが当たり、そのはずみでバランスを崩し後ろに倒れそうになった。私は瞬間的に手を差し出し、桃里ちゃんが倒れるのを防ごうとしたのだが……
〝ドスンッ!〟
「アイテテテ……」
桃里ちゃんはその場で尻もちをつき、私も前方に倒れてしまった。私が顔を起こすと、とんでもない体勢になっていることに気づいた。
――げっ!?
私の右手が桃里ちゃんの『股間』にガッツリと触っていたのだ。さすがにこれはアウト! いきなりこんな所を触ったらたとえ過失でも痴女確定だ!
私は慌てて手を退けようとしたそのとき、
〝むにゅ!〟
――あれ?
桃里ちゃんの股間に、今まで経験したことのない『感触』が……これは一体何なんだ!? すると……
〝プツッ、プツッ……プツプツプツプツプツプツプツプツッ!〟
――うわぁああああああああっ!
股間に触れた右手から腕に向かって、私の皮膚にブツブツした物がものすごいスピードで現れてきたのだ! それと同時に、
「かかっ、痒い痒い痒い!!」
私は非常に強い痒みに襲われた。こっこれはもしかして……蕁麻疹!?
――まっまさか!?
この桃里って子は……『男』!?
貴音なのです。次回は「桃里おにいちゃん」の秘密がわかるのです。




