私は同じ大学の子を家に招いて料理を教えた(いづみside)
「いらっしゃい、どうぞ上がって!」
「あっ……お、おじゃまし……ます」
日曜日、私は同じ大学の「金沢桃里」という子を家に招いた。
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この子は以前、学園祭で和たちのサークルが企画したメイド喫茶でオムライスを担当していた地味系の女の子だ。私と同じ栄養学科だが、オムライスといい先日の調理実習といい料理がまるでダメ……なのに調理師を目指しているらしい。
本人も自覚しているらしく先日の調理実習の後、私に「料理を教えてほしい」と相談を持ち掛けてきた。そこで私は人助けだと思い、彼女を家に招いて料理を教えることにした……
……と、いうのは建て前。本当の目的は別にある。
この桃里という子は「男の人が苦手」だと言っていた。つまりこの子は「そっちの気がある」可能性が高まってきたのだ!
最近は和ばかり相手にしていたので少々胸やけ気味……新しいセフレ候補として本当に「そっち」に興味があるのか探りを入れるのが目的だ!
あらかじめスーパーで鯵と大根を買っておいた。先日の調理実習で彼女が壊滅的な腕前だった「三枚おろし」と「桂むき」を練習させるためだ。
今日は鯵と大根を料理……そしてこの子も色々「料理」して食べちゃおう♥
「おねえちゃん……その人は誰なのです?」
リビングでゲームをしていた妹の貴音ちゃんが、私たちに気がついて声をかけてきた。すまん妹よ! 私は妹のことが大好きだが性欲は別問題だ。中学生の妹に手を出すわけにはいかないんだよ!
「あぁ、同じ大学の金沢さん……って貴音ちゃんも学園祭で会ってるよね?」
「貴音ちゃんですよね!? お久しぶり! 金沢桃里です」
あれ!? この子……いつもオドオドしてる感じだけど、妹の前では何か堂々とした態度だな……。
「あっ、思い出したのです! おねえちゃんが泣かした女なのです!」
「おい! 言い方!!」
「アハハ」
妹の一言で少し緊張が解けたようだ。
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私たちはキッチンに立つと、さっそく調理を始めた。
「あっ、あの武川さん……よろしくお願いします」
「いづみでいいよ! 私も桃里ちゃんって呼んでいい?」
「あっ……は、はいっ!」
桃里ちゃんは頬を赤らめて答えた……あれっ、何か脈ありそうだな。
「先に大根の下ごしらえをしようか」
今から作るのは「鯵の南蛮漬け」と「ふろふき大根」、ふろふき大根は味がしみ込むまで時間がかかるので、先に桂むきを教えることにした。だがそのとき、
「おねえちゃん! 貴音も料理を覚えたいのです」
えっ、妹はいきなり何を言い出すんだ!? 今まで私や母の茅乃が料理中、キッチンに近付きさえもしなかったクセに……。
まぁでも……せっかく妹が自分からやる気になったんだ。いい機会だから一緒に教えてやるか!
「じゃあ最初は桂むきから! まずは大根を三から五センチくらいに切っ……貴音ちゃん、横に切るんだよ」
大根を丸ごと縦に切る発想……やっぱ妹は別の機会にした方がいいかも?
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「親指は包丁に添えるようにこうやって持って……」
「ええっ!? ゆっ指切っちゃいそうで怖いんですけど!」
桃里ちゃんはかなりおぼつかない手つきだが、一生懸命覚えようとしている。
「大丈夫! まずは皮をむくところから練習するよ! 煮物だから味がしみ込みやすいよう厚めにむいていいよ」
いきなり薄くむくのは練習が必要だ。まずは正しい手つきで厚めにむくところから……っておい!
「貴音ちゃん……ピーラーはダメだよ」
「なぜなのです? ピーラーの方が便利なのです」
「いや……桂むきの練習だから」
「……でっ、できました!」
「オッケー! じゃあもう一周だけむいてみようか!? むいた物は千切りにするから短くても厚くなってもいいよ!」
「はっ……はいっ!」
桃里ちゃんも少し慣れてきたようだ。余裕が出てきたので私は彼女に色々話しかけてみることにした。
「桃里ちゃん、料理人になりたいって言ってたけど……何か理由でもあるの?」
「はっはい、じっ実は私の父が日本料理の板前で……私が幼いときに亡くなったんですけど。それで私も父のようになりたいと」
「そうなんだ……だったらなおさらそういう店で修業した方が……」
「えぇっ! そっそれは……」
桃里ちゃんは困ったような顔をしながら、
「わっ私、お母さんとお姉ちゃんに甘やかされて育てられたんで……お、怒られたことがないんです。だから男の人に怒られるのが苦手で……」
「えっ?」
「板前の修業って怒鳴られたりするのが当たり前……ってイメージあるじゃないですか!? そっ、それが怖いんです!」
あーわかるわかる! 板前って女性にはハードル高い世界だし、男って何かあるとすぐ怒鳴ったり暴力に訴えたりするもんなぁ(※個人の見解です)。
明らかにこの子は気が弱そう……そういや学園祭のときも、私に詰問されただけで泣き出しちゃったっけ。
「あっでもさぁ……だとしたら彼氏とかどうしてたの? ケンカして怒鳴られたりとかしなかった!?」
私は「彼氏」というキーワードを出しカマかけてみた……さぁどう出るかな?
「えぇっ! かっ……かか彼氏なんていませんよぉ! おっ、男の人苦手だし……いっ、今まで付き合ったのは……お、女の人だけですよぉ……」
――よっしゃぁああああっ! 理想的な答えが返ってきたぁー!
しかも自ら「こっち側」だとカミングアウトしてくれた! この子の性格からして確実に「ネコ」だよな!? よしよし、「タチ」としてベッドの上でたーっぷり可愛がってやるぜ♥♥
「そうなんだ……じゃあ女から怒鳴られたりキツく言われるのも苦手? 私、学祭のときにキツいこと言っちゃって……あのときはごめんね!」
「えっ……いえっ! そんなこと……むしろ、うれしかったです」
――えっ、どういうこと!?
「わっ私……今まで女の人から怒られたことなかったんで武か……いづみさんからハッキリ言われたとき正直うれしかったです! この人は私のことを思って言ってるのだと……実際にあの後もちゃんと指導してくれたし……だ、だから!」
と言うと
「わっ、私……いづみさんのことがすっ……好きです! あっ恋人とかそういうんじゃなくて……あっあのボッ……私と友だちになっていただけます……か?」
飛んで火にいる夏の虫……いや、今は初秋の虫だぁ!
「えっ、もっ……もちろん、いいよ!」
友だち? もちろんセックス友だち(通称セフレ)なら大歓迎だぁ♥
「あっ、ありがとうございます!」
と言うと桃里ちゃんは両手で私の手を握った……この子はボディータッチが好きなのか? だとしたらなおさら好都合だ!
でも、やっぱり手が痒くなってきた……ヘンだなぁ。
「とっ、とりあえず続きをやろうか!? 次は大根に味がしみ込みやすくするように隠し包丁を入れて……って貴音ちゃん、包丁を後ろ手に持ったら危ないよ」
「隠し包丁なのです」
そういう意味じゃない……だがいつの間にか近くにいて、包丁を後ろ手に持った妹からなぜか殺気を感じた。
貴音なのです。おっ、おねえちゃん! その女に近づいてはダメなのです!




