夏休みが終わる前に貴音は花火が見たいのです(貴音side)後編
「ここよ~、私のマンション」
「うわぁ……すごいのです!」
貴音たちは和おねえちゃんのマンションに着いたのです。花火会場から離れているのですが、ぱっと見で十階以上ありそうなとても大きいマンションなのです。
「おい! 誰がオマエのマンションだよ」
「だって~平井家の会社が所有してんだから~私ので間違いないでしょ~!?」
「オマエの両親の……だろ?」
「え~そんなのいたっけ? 私のお母さんは茅乃ちゃんよ~♥」
な……何か和おねえちゃんの家庭は複雑な事情がありそうなのです。
「さ~入って入って~」
「おじゃまするのです……あれ?」
玄関に置かれた「履物」を見て貴音は違和感を覚えたのです。
「おねえちゃん……浴衣にスニーカーはおかしいのです」
他のみんなは全員、下駄や草履なのです。そういえば……おねえちゃんは男物の浴衣を着ているのです。
「車を運転するのに下駄じゃ危ないからだよ! 教習所でも教わるよ」
「じゃあその男物はなぜなのです?」
「これか? 女ばっかじゃさっきみたいにナンパされたりして危険じゃん! ひとりでも男(の格好をしたやつ)がいれば安心だろ!?」
「ね~ひどいでしょ貴音ちゃ~ん! このオトコのせいで~今日は全然ナンパされなかったのよ~!」
和おねえちゃん……ナンパはもうこりごりなのです。
※※※※※※※
和おねえちゃんの部屋はマンションの最上階にあるのです。和おねえちゃんの話だとここは「別荘」で、一年のうち数日しか利用しないそうなのです……とっても贅沢なのです。
「うわぁ……」
ベランダからの景色がとてもイイのです!
「あの辺りから花火が打ち上がるわよ~」
和おねえちゃんが、さっきまで貴音たちのいた場所を指差したのです。少し離れているのですが、遮る物が何もないので期待できるのです! もしかしたらラストのナイアガラ花火まで見られそうなのです。
「あっそうそう~! このマンションね~共同の大浴場があるの~」
「おっ……お風呂なのですか?」
「そう、しかも温泉よ~」
――温泉!?
花火大会が行われるこの町は有名な温泉地なのです。でもマンションにまで温泉があるとは……スゴイのです!
「まだ時間があるから~入ってきていいわよ~」
「えっ、でも着替えとかタオルとか……」
「タオルだったら貸してあげるわよ~! だから行ってらっしゃい」
「はーい! 貴音ちゃん、行きましょ!」
「行きましょ!」
貴音と天ちゃん空ちゃんは温泉に入ることにしたのです。でも……
「おねえちゃんたちは入らないのですか?」
「あぁ私たちは……準備があるから」
「ごめんね~」
――ぎょへっ!? ダブル巨乳が見られないのです!
「あっ、代わりに私が行くから……」
でも志麻おねえちゃんが一緒に入ってくれるのです。
「ねぇ、樹李も行くでしょ?」
「あっメンゴっす! 樹李タソは遠慮するっす」
天ちゃんが樹李を「仕方なく」誘ったのですがあっさり断られたのです。やっぱコイツは友だちじゃないのです!
※※※※※※※
「……はぁ」
大浴場の岩風呂に並んで入っている貴音と天ちゃん空ちゃんは一斉に溜息をついたのです。なぜならダブル巨乳を拝むことができなかったからなのです。
「ねぇ、どうしたのみんな! 元気ないわよ」
志麻おねえちゃんが心配しているのです。志麻おねえちゃんは現役JK、貴音たちより「発達」していると期待していたのですが……
「ちらっ」
「んっ、私の体に何か付いてる?」
「……志麻おねえちゃんはこっち側の人なのです」
「え、ちょっ貴音ちゃん! 何か失礼なこと言ってない!?」
でも……志麻おねえちゃんはメガネっ娘なのですが、メガネを取った志麻おねえちゃんは意外にも美人さんだったのです。
「それにしてもさぁ! あの樹李の態度……何なの!?」
「何なの!?」
「やっぱり……貴音たちに見せられない『何か』があるのです!」
そう、樹李には「胸パッド」疑惑があるのです!
そんなやり取りをしながら温泉を出ると……
「あ゛……」
貴音たちはあることに気づいたのです。
「天ちゃん……浴衣、着付けできるのですか?」
貴音はひとりで浴衣が着られないのです!
「えっ、私も……ムリ」
「空も……」
天ちゃん空ちゃんも着付けができないのです。これは困ったのです。すると、
「こんなことだろうと思ってたわよ……大丈夫! 私に任せて」
すでに自分の着付けを済ませた志麻おねえちゃんが、貴音たちの着付けを手伝ってくれたのです! 志麻おねえちゃんは着付けができるのです。
……さっきは失礼なこと言ってごめんなさいなのです。
※※※※※※※
温泉を楽しんだ貴音たちは和おねえちゃんの部屋に戻ってきたのです。外はすっかり暗くなって……いよいよ花火が見られるのです!
ところが……
「あれ?」
テーブルの上に本やノートが置かれているのです。おねえちゃんたち……こんな日まで勉強するなんて大学生って大変なのです。
貴音たちがベランダに行こうとしたら
「あ~、貴音ちゃんはダメよ~」
貴音だけがなぜか和おねえちゃんに止められてしまったのです!
「えっ、なぜなのです!?」
するとおねえちゃんがテーブルを指差し
「貴音ちゃんは、テーブルの上にある夏休みの宿題を終わらせてからだよ!」
――げっ!?
よく見るとテーブルの上には「尾白 貴音」と書かれたノートがあるのです!
「まっまだ夏休みは数日あるのです! そんなモノは今やらなくていいのです!」
「あら~っ、困ったわね~! この部屋から花火見るためには~宿題終わらせる決まりがあるのよ~」
こっこれは……おねえちゃんと和おねえちゃんがグルになっているのです!
「そっ、そんなの……みんなだって終わってないのです」
「あっそ! 天ちゃーん空ちゃーん、夏休みの宿題終わったー!?」
おねえちゃんが天ちゃん空ちゃんに聞いたのです。
「はーいもちろん! もうとっくに終わっていまーす」
「終わっていまーす」
うがっ!! ま……まぁこの二人ならそう言うと思ったのです。でも……
「じゅ……樹李は!? 樹李はまだ終わってないハズなのです!」
コイツは貴音より成績悪い劣等生なのです! いつも遊んでばかりいるので絶対にまだ終わらせてないのです!
「あっ、樹李タソはさっき終わらせたっすよ! いやぁ~家庭教師が厳しくて大変だったっすよー!」
コイツ……そのために温泉入らなかったのです! うっ、裏切り者なのです!
「というワケで残っているのは貴音ちゃんだけだよ」
「貴音ちゃ~ん、今夜はお姉さん三人とプライベートレッスンよぉ~♥」
「ごめんねー、頑張って早く終わらせましょ!」
「じゃ~宿題済ませたみんなは~焼きそば食べながら花火楽しんでね~!」
「はーい♥」
――ふぇええええええええんっ!!
貴音が夏休みにやり残したこと……それは花火を見ることではなく、
夏休みの「宿題」だったのです!
〝ドドドドーン! パチパチ……〟
スターマインのような連続攻撃で宿題を終わらせた貴音は……何とか花火を見ることができたのです。
貴音なのです。この陰謀は元々、樹李が「宿題が終わらないっす!」とおねえちゃんに相談したのがキッカケだったのです。




