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夏休みが終わる前に貴音は花火が見たいのです(貴音side)前編

 



 夏休みは楽しかったのです!




 夏休み中、貴音(たかね)はいろんなことをしたのです。市民プールにも行ったのです。海に行って体験ダイビングもしたのです。それから人助けもしたのです。


 でも、貴音にはやり残したことがあるのです!



 この夏休み……貴音はまだ「花火」を見ていないのです!!



 プールや海に行ったのに花火大会に行ってないなんて……これでは「夏休みクエスト」を達成(クリア)したとはいえないのです!


 しかも今年は貴音に「おねえちゃん」ができて初めての夏休みなのです。おねえちゃんの水着姿は見られたのですが、まだ浴衣姿を見ていないのです!



 貴音は……おねえちゃんと一緒に浴衣を着て花火大会に行きたいのです!



 ※※※※※※※



 今日は隣の町で花火大会が行われる日なのです。


「お待たせー!」


 今日はお友だちの双子・(てん)ちゃん(くう)ちゃんも一緒なのです。貴音たちは電車で隣の駅まで移動するのです。なので二人と駅で待ち合わせしていたのです。


「わぁー、貴音ちゃんの浴衣カワイイッ」

「カワイイッ」

「天ちゃんも空ちゃんもカワイイのです」


 貴音はこの日のために浴衣を着てきたのです。天ちゃん空ちゃんも浴衣を着てきたのです。でも……


「ちょりーっす」

「えっ、何でオマエまで来たのですか!?」

「うわっひどっ! イイじゃないっすか! 樹李(じゅり)タソだって友だちっす」


 呼んでもいないのに、なぜか()()()()()()()()樹李までやって来たのです。コイツはおねえちゃんが誘ったのです。


「いやー、でも……浴衣はやっぱ三人の方が似合ってるっすよ」


 いつもはマウントとる樹李が、珍しくお世辞なんか言ってきたのです。


「えっ、ホント!?」

「ホントっす! やっぱ着物は()()の方が似合うっすよ」


「……かっちーん」


 こういう所がムカつくのです。


「切符は三枚でいいのです! コイツは自腹で勝手に行くのです」


 貴音はあらかじめ四人分の電車代をもらっていたのです……少し浮いたのです。


「じっ冗談っす! 一緒に行きたいっすよー!」



 ※※※※※※※



 〝ガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ〟


「で、何で()()が一緒じゃないっすか?」

「ホントそれっ! 浴衣のお姉さん、期待してたのに~」

「してたのに~」


 三人はガッカリしていたのです。というのもこの電車におねえちゃんが乗っていないのです。


「おねえちゃんは後からお友だちと一緒に来るのです」

「えっ師匠の友だちっすか!? てことは……」

「わぁ、もしかして女子大生!? 会うの楽しみー!」

「楽しみー!」


 ――楽しみじゃないのです! しかも全員、一度会っているのです。


 友だちとはもちろん(なごみ)おねえちゃんのことなのです。この間の市民プールで、ハダカ同然のヘンタイ水着(マイクロビキニ)を着て現れたのが他ならぬ和おねえちゃんなのです。

 あのときの和おねえちゃんと、これから会う和おねえちゃん……彼女たちの脳内でこの二つが紐付けされないことを祈るのみなのです。



 ※※※※※※※



 貴音たちは隣町の駅に着いたのです。


 この駅……前に来たときは貴音の家の最寄り駅より小さい建物だったのですが、いつの間にかとんでもなく大きな駅に生まれ変わっていたのです。


「しみじみ」


 時代は常に変わっていくのです。


「あっ、ねぇねぇ! 足湯があるよー! 入ろうよ」


 天ちゃんが駅前にある足湯を見つけると一直線に向かっていったのです。でも今は真夏の真っ昼間! こんなクソ暑いときに足湯に入ろうとする……


「いいっすねぇー! 樹李タソも入るっす」


 ……バカがもう一人いたのです。


「しっ知らないのです! 空ちゃん、止めなくていいのですか?」

「……放置でいい」


 天ちゃんと空ちゃんは見た目がそっくりな双子なのです。でも性格は全然違うのです。しばらくすると……


「うわぁ! 熱い!」

「熱い暑い! アツいっす」


 おバカさんたちが戻ってきたのです。言わんこっちゃないのです。



 ※※※※※※※



 おねえちゃんたちとは花火大会の会場近くで待ち合わせなのです。駅からは距離があるので、貴音たちは歩いて会場に向かったのです。

 まだ花火大会まで時間があるのですが、歩道はすでにたくさんの人が歩いていたのです。浴衣姿の人もいるので、この人たちの流れについていけば間違いなく会場に行けるのです。


「ねぇねぇ! 何か銅像があるよ!」


 好奇心旺盛な天ちゃんがまた走り出したのです。


 小さな橋の上に、笛を吹く男の人の像があったのです。貴音はパパから聞いたことがあるのです。この人は近くを流れる川の名前の元になった悲劇の人なのです。


「何で笛吹いてるんだろーね!? ヘンなのー!」

「つーかダサい格好っす! 誰っすかコイツ!?」 


「これはハーメルンの笛吹き男さんなのです! 笛の魔法でネズミさんを退治したのですが、金銭的なトラブルから腹いせに子どもたちを誘拐してイケナイことをしちゃった人なのです」

「へぇー、そうなんだー」


 ここは日本なのです……ハーメルンという名前で疑問に思うべきなのです。


 交差点を左に曲がったら、一段と人が増えてきたのです。


「あれっ、こっちにも足湯があるよ!」

「マジっすか!? じゃあ入ってみ……」


 通り沿いにある公園の中にまたまた足湯があったのです。天ちゃんと樹李の二人は学習能力が欠如しているのです。


「二人とも! いい加減にするのです!」


 貴音は学習能力が欠如した二人を止めたのです。この二人……仲が悪そうに見えて意外と気が合うのです。


「もぅ空ちゃん! 天ちゃんを止めてほしいのです」


「チッ、入ったら面白かったのに」

「……えっ!?」


 空ちゃんが舌打ちしたのです……空ちゃんはサイコパスの素質があるような気がして怖くなったのです。



 ※※※※※※※



「あれっ、たしかこの辺だったハズなのです」


 貴音たちは待ち合わせ場所にやって来たのです。会場のすぐ近くにある歩道橋の下……なのですが、おねえちゃんたちの姿は時間になっても見えないのです。

 すでに多くの見物客が集まっているのです。川の土手にはたくさんの屋台が出ていて、会場は盛り上がっているのです。


「まだ来てないのかしら」

「もうちょっと待つのです」


 ここで下手に動くと迷子になってしまうのです。と、そのとき……


「ねぇねぇ! 彼女たち―!」


 貴音たちの背後から、何者かが声をかけてきたのです! しかも男の人の声なのです。えっ……学校の友だち!?


「女の子だけで来たのー? 中学生? どこ中?」


 貴音たちが振り向くと、そこには見覚えのない不良っぽい感じがする男の子が三人立っていたのです。


「樹李の知り合い?」

「しっ、知らないっす!」


 天ちゃんと樹李がヒソヒソ話しているのです。どうやら貴音たちとは無関係な人たちなのです。もうイヤな予感しかないのです!


「オレたち○○中の三年生なんだけどさー」


 知らない中学校の名前……しかも上級生なのです! 下手に逆らうと色々マズいことになりそうなのです。


「なぁ、オレたちと一緒に花火見ねーか!? 楽しーぜ」



 ――やっぱり!?



 たっ、貴音たちは……ナンパされてしまったのですぅううううっ!


貴音なのです。おねえちゃん! 早く助けてほしいのですぅううううっ!

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