夏休みなので貴音は「ひと夏の体験」をしたのです(貴音side)
「母さん、大学時代スキューバダイビングにハマってたんだよ!」
驚いたのです。
貴音はママさんの意外な過去を知ったのです。
「ママさんは大学に通っていたことがあるのです!」
「いや驚く所そこじゃねーだろ!」
おねえちゃんにツッコまれてしまったのです。
ママさんはスキューバダイビングをやっていたのです。スキューバダイビングといえば……スキューバダイビングといえば……
「スキューバダイビングって何なのです?」
「まずはそこから説明しないとダメなのか……」
するとママさんが、おねえちゃんに代わって説明してくれたのです。
「タンクを背負って水中に潜るのよ! 海の中をお散歩するって感じかな」
――ほわぁああああっ! すっすごいのです!
「じゃあお店の前にたくさん並んでいたのは酸素ボンベだったのですか?」
「んーと……まぁそういうことなんだけどちょっと違うんだなー」
「えっ?」
「あれは空気が入ったタンク(※)! 百パーセントの酸素なんか吸ったら中毒になっちゃうよ」
(※現在はシリンダーと呼ばれているそうです)
「し……知らなかったのです」
「まぁ普通の人は知らないだろうね!? それはしょうがないよ」
それにしても……海の中をお散歩できるってすごいのです! 貴音は水中散歩に興味が出てきたのです。
「ママさん! 貴音もスキューバダイニングをやってみたいのです」
「食事をとる場所じゃないよ貴音ちゃん……んーっと……」
でも貴音のお願いに、ママさんは困ったような顔をしたのです。
「ダイビングはね、Cカードっていうライセンスが必要なの! これを取るためには時間とお金がかかるんだけど……」
「え……ダメなのですか」
「まぁ一応、体験ダイビングっていうのがあるんだけどね……これならライセンスはいらないよ」
そっそんなのがあるのですか!? 貴音はやってみたいのです! 貴音の心は急浮上したのです!
「さっき更衣室借りたお店でもやっているんだけど……確か時間が決まっているからこの時間じゃムリかもね」
「えぇっ!?」
……浮き上がった貴音の心は再び深い海の底に沈んだのです。
「まぁダメもとで聞いてみるわ……アンタたち、ここで待ってて」
と言うとママさんは、クララを貴音たちに預けてお店へ向かったのです。
※※※※※※※
水中をお散歩……そんな面白いことがこの海水浴場ではできるのです! せっかくの夏休み、貴音は「ひと夏の冒険」をしてみたいのです!
「おねえちゃん! 一緒に体験タイピングをするのです」
「おい、何のテキストを入力するんだ? それと……私はパス!」
えぇっ!? せっかくおねえちゃんと冒険できると思ったのに……でも、このときおねえちゃんがなぜイヤがったのか……これは後になってわかるのです。
「ところで……クララは泳がせないのですか?」
「犬は塩水飲んじゃダメだろ? クララは飲みそうだからな」
そうなのです! クララは案外おバカさんで、目の前にある物は何でも食べたり飲んだりしてしまうのです。
そんな話をおねえちゃんとしていたら、ママさんが戻ってきたのです。
「貴音ちゃん! できるってよ」
「えっ、ホントなのですか!?」
「本当はダメなんだけど、今日はたまたま手が空いたスタッフさんがいたから特別にやってくれるって」
「やったぁ! 体験シャイニングができるのです!!」
「斧振り回すつもりかオマエは!? 怖えーわ」
「いづみ、アンタも付き合ってやって」
「えぇっ、ヤダよ!」
おねえちゃんはやっぱりイヤがっているのです。でも、
「スタッフさんは女性だよ」
「え、それだったら……まぁいいけど」
ママさんもおねえちゃんの男性恐怖症は知っているのです。
おねえちゃんがイヤがった理由、それは上半身ハダカの男性スタッフさんと関わりたくなかったからなのです。
※※※※※※※
「初めまして! 今日はよろしくお願いしまーす」
貴音とおねえちゃんは、さっき更衣室を借りたお店にやって来たのです。ママさんはクララと一緒にお留守番なのです。
貴音たちの相手をしているお姉さんは「インストラクター」というのです。インストラクターのお姉さんは日焼けして筋肉質……おねえちゃんより男前なのです。
最初に簡単な講習を受けたのです。ここまで来てお勉強!? と戸惑ったのですが、それほど難しい説明ではなかったのです。
次にウエットスーツという服を着たのです。体にフィットする服なのですが、結構キツくて着るのが大変なのです……でも、もっと大変な人がいたのです。
「うぅっ! 胸が苦しい……」
おねえちゃんはおっぱいが大きすぎるので、ウエットスーツを着るのに苦戦していたのです。
「あはははは! 結構なモノをお持ちで……」
インストラクターのお姉さんは顔が引きつっていたのです。貴音はこのお姉さんの胸を見て親近感がわいたのです。
その後、貴音たちはビーチにやって来たのです。海水浴場とは別の場所にあるので、ママさんやクララとは離れてしまったのです。
貴音は酸素ボンベ……じゃなかったタンクを背負うのです。タンクをそのまま担ぐと思っていたら、一度ベストのような道具に装着してから背負うのです。
名前は……さっき講習で教わったのです。
「おねえちゃん! 貴音にBCGを着せるのです」
「予防接種かよ……BCDだろ? ほれ」
〝ズシッ!〟
――おっ、おおお重いのですぅううううっ!
「それじゃ、今から海に入りますよー」
貴音とおねえちゃんは生まれて初めてダイビングをするのです。そういえばテレビ番組で、こういう器材を背負って潜る映像があったのです。
そのときは船から後ろに倒れ込むように潜っていたのですが、ここではビーチから歩いて海に入るのです。
ですが……あっ、歩けないのです!
タンクが重いのは何とか耐えているのですが、歩こうと思っても一歩も前に進めないのです! 貴音は運動音痴なのですが、ここまで体力がないとは思ってもいなかったのです。
「あっ妹さん! フィンは海に入ってから装着してくださいね」
貴音はフィン(足ひれ)をつけたまま前に進もうとしたのです。どうりで歩きにくいと思ったのです。
※※※※※※※
――わぁっ!
貴音はインストラクターのお姉さんに手を引かれて海に入ったのです! 「耳抜き」も上手くできたのです。
貴音が潜ったのはゴロタと呼ばれる大きな岩が並んだ場所なのです。空から日差しが差し込んでとてもキレイなのです。
そんな水中を、貴音は赤や青色をしたお魚さんたちと一緒にいるのです。まるで貴音もお魚さんになった気分なのです。
と、そこへ……インストラクターのお姉さんが貴音たちに合図したのです。
〝ゴボゴボッ……〟
水中では話ができないのです。何なのです? お姉さんが何かを指差したのでその方向に目をやると……
岩の上にヘンな形をした石のような物が置かれているのです。するとお姉さんはホワイトボードみたいな板にこう書いたのです。
『カエルアンコウ』
……えっ、何なのですかこれは?
貴音なのです。体験ダイビングは10歳からできるのです。




