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夏休みなので私は妹と海に入った(いづみside)

 



 この海水浴場……砂ではなく「砂利」じゃねーか!!




 私は妹の貴音(たかね)ちゃんと思わず顔を見合わせた。想像していたビーチとは似て非なるモノだったからだ。


 妹は海水浴が初めてだそうだが、私は高校時代に一度だけ行った記憶がある。行き先は静波海水浴場……自治体と提携しているせいか、海水浴といえば? という質問に必ずといっていいほど名前が出るくらい地元では有名な海水浴場だ。


 夏休みに友人たちから誘われ嫌々付き合わされた。女子高生のみで海水浴……当然のようにナンパの対象(ターゲット)になるからだ。

 男性恐怖症の私は彼女たちと別行動……できるだけ男っぽい格好で荷物番をしていた。ちなみに自ら率先してナンパされまくっていたのが「平井(なごみ)」だということは言うまでもない。


 話が長くなってしまったが……静波のビーチは白い砂浜で、その名に反し波が激しかった印象が残っている。近くでサーフィンをやっている人がいたくらいだ。

 一方、こちらのビーチは黒っぽい砂利……しかも波が穏やかだ。ウェットスーツを着ている人もいたが、どう見てもサーファーではない。


「おねえちゃん……貴音がイメージしていたビーチと違うのです」

「それな! 私もそう思ってた」

「貴音がイメージするビーチは……白い砂浜で……」


 だろうな! 普通は海水浴と言ったら白い砂浜を思い浮かべるだろう。


「砂は全部『星の砂』で近くにはヤシの木があるのです! そして夜になるとウミガメさんが産卵にやって来るのです」


 ……静岡にそんな海水浴場が存在したらカオスだわ。



 ※※※※※※※



「まぁ……とりあえず入ってみるか」


 想像していた海とはかけ離れていたが、周囲を見ると海水浴を楽しんでいる人もいる……私は妹に声かけて海に入ることにした。と、そこへ茅乃(かやの)


「二人とも! 海入るんだったらこれ着けな!」

「えっ、これって水中()()()じゃん」

「水中()()()な! 着け方はわかるか? 髪の毛挟ませると水が入るぞ」


 水中メガ……水中マスク? とシュノーケルを私たちに渡してきた。え? 何でこんなの持っているんだ?

 私と妹は水中マスクをかけた。それにしても海水浴でシュノーケルって違和感しかないのだが。すると妹が私の顔を見て突然笑い出した。


「ぷぷぷ……おねえちゃん、面白い顔をしているのです」


 あのなぁ……水中マスクを()()()にかけているヤツに言われたくねーよ! ていうかその状態でどうやってシュノーケルを使うつもりだ?



 ※※※※※※※



「おぉ! ひんやりして気持ちいいっ!」


 ビーチサンダルを脱いで海に入った。足元は砂利だが裸足でも歩けそう……そして思ったより遠浅だ。


 しばらく海の中を歩いているがまだ私の膝上くらい……小さい子どもなら楽しめそうだが、私が泳ぐには物足りない深さだ。

 だがさっそくこの深さで泳ぎ始めたヤツが……妹だ。もうちょっと深い所までガマンできなかったのか?


「ぶっ、ぷはっ! ケホッケホッ」


 どうやら妹は顔を水につけた瞬間、海水を飲み込んでしまったようで慌てて起き上がった。そういやシュノーケルの使い方をちゃんと教えてなかったな。


「貴音ちゃん、下を向いたらダメだよ! シュノーケルから水が入っちゃうから」

「へぇっ!? ひゅほーへほふぁふぁひゅ……」

「シュノーケル咥えながらしゃべるな!」


 一度パニックを起こすとこんな浅い場所でも溺れることがある……気をつけないとな。私からシュノーケルの使い方を教わった妹は再び泳ぎ出した。よくこんな浅い所で泳ごうとするなぁ……すると、


「ぷはぁ!!」


 妹が驚いたように再び起き上がった。えっ今度は何だ!?


「ふぉっふぉふぇへ●▽◆◎※……」

「シュノーケルを外せ!」

「おっおねえちゃん! お……大きなお魚さんがいっぱいいるのです!」

「え? 大きいってどのくらい?」

「コ……コイさんなのです! 池のコイさんが泳いでいるのです」


 はぁ? こんな浅瀬に大きい魚なんているワケねーだろ……しかも鯉は淡水魚だ。妹の言葉に半信半疑の私も仕方なく水中に顔をつけると目の前に……


 ――うわぁっ!?


 確かに大きな魚がいた! 体が銀色でアジ、いやサバくらいの大きさだ。下手したら陸地に乗り上げてしまうくらいの浅瀬に何で……!?

 海水浴場にこんな大きい魚がいるなんて想像だにしていなかった。それによく見たらこの海、水が透き通っていて静波とは色が全然違う!


 しかも海水浴客は家族連れが多く、ナンパ目的のウェイ系野郎は見当たらないので個人的には少し安心している。

 私と妹はこの浅瀬を素早く泳ぐ大きな魚をしばらく観察していたが、やがて体が冷えてきたので海から上がりビーチで待つ茅乃の元へ向かった。


「どうだった?」

「ママさん! 大きなお魚さんがいっぱいいたのです!」


 妹は目をキラキラさせながら茅乃に答えていた。そういえば妹は(G(ゴ●ブリ)以外の)動物が好きなんだっけ。


「大きな魚?」

「うん、何かアジやサバみたいな銀色の……」


 と、私が言いかけたところで


「あー、それはボラだね!」


 見ていなのに私の一言で魚の名前を答えた。ていうか


「ボラって何だ? 聞いたことねーけど」

「この辺、特に湾内の浅瀬でよく見かける魚だよ! カラスミって知ってるか?」

「めっちゃ高級な食べ物だろ……食ったことねーけど」

「カラスミの原料はボラの卵巣だよ」


 ――えっ、マジか!?


「よしっ貴音ちゃん! 今からアイツ捕まえに……」

「おいおい、カラスミは作るのに一ヶ月以上も手間ヒマかかるぞ! それにアンタたちに捕まえられるほど鈍くないよ」


 うっ、そんなこと言われると余計やる気出てくるじゃねーか!


「そもそもここは禁漁区だ! 捕まりたくなかったら止めときな」


 それを先に言え! 魚を捕まえようとして自分が捕まったらシャレにならん。



 ※※※※※※※



 ビーチで休憩をしている間、私の頭の中にある疑問が浮かんだ。何で茅乃はボラなんて名前を知ってるんだ? 魚屋でも目にしたことのない魚なのに……。

 それに、どういう経緯(いきさつ)でこの海水浴場を知ったんだ? 私がその疑問をぶつけると、茅乃の口から思わぬ言葉が返ってきた。


「あれっ、アンタに言ってなかったっけ? 母さん、大学時代スキューバダイビングにハマってたんだよ!」


 ――初耳だわ!


 茅乃の言葉を聞いた妹も驚いて、ゲームをしている手を止めた。つーかこんな所まで来てゲームしてんなよ!


「ここは大瀬崎って言ってね、有名なダイビングスポットでもあるんだよ」


 それでか!? この海水浴場、やたらとボンベみたいなのを見かけたりウェットスーツを着ている人がいたり……やっと腑に落ちた。


「アンタたちがさっき着替えに使ったお店もな……昔、私がお世話になったダイビングショップなんだよ……まぁ今から()()()のことだけどな」


 おい、こんな所で大胆な年齢詐称(サバよみ)すんじゃねーよ! それが本当ならオマエは小学生のとき私を産んだことになるぞ!


 つーか最強(チート)キャラかこの母親は!? 次から次へと知られざる過去が明るみになるたびに、私は茅乃(コイツ)に恐怖を感じるわ。

貴音なのです。次回は貴音視点でお話が進むのです。

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