夏休みなので貴音は海水浴に行ったのです(貴音side)
「今から私たちが向かうのは……『大瀬海水浴場』でーす!」
――えっ!? ママさんの口から、聞いたことのない名前が出てきたのです。
ていうか、貴音は海水浴場の名前なんて知らないのです。そもそもこの車がどこに向かっているのさえわからないのです。
そういえば……おねえちゃんは「伊豆」と言っていたのです。
あっ、わかったのです! 伊豆といえば「伊豆箱根」……つまり貴音たちは神奈川県に向かっているのです(※静岡県です)。
「大瀬? 聞いたことないんだけど……遠いの?」
「こっから十五分くらいじゃね? 同じ沼津市内だよ」
前の席でおねえちゃんとママさんが話しているのです。えっ、沼津? 沼津と言えば貴音も見ていたアニメの舞台になっている場所なのです。さっきすれ違ったバスにもアニメのキャラクターが描かれていたのです。
いわゆる「聖地巡礼」なのです! 貴音はテンションが上が……らないのです。
最初は海が見えてうれしかったのですが……水族館を過ぎたあたりから似たような景色が続いているのです。しかもカーブがくねくねくねくねと……貴音はまた車に酔いそうなのです。
「うぅっ……ママさん、まだ到着しないのですか?」
「ごめんねー貴音ちゃん、もうすぐ……あっ、岬が見えてきたよ!」
ママさんがそう言うと車は一気に坂を上り……えっ、海じゃなくて山に向かっているのです! と思ったら今度は一気に坂を下り……ほわわぁああああっ!
「はーい着いたよー! お疲れー」
つ……着いたみたいなのです! そしてつ……疲れたのです。
※※※※※※※
駐車場に車を停めると、ママさんが一軒のお店の中に入っていったのです。お店の前にはプロパンガスのボンベのような怪しいモノがたくさんあるのです。ママさんはお店の人と話しながら何か書いているのです。
「二人とも! クララはママが見ているから先に着替えてらっしゃい」
どうやらママさんは、このお店の更衣室を借りたようなのです。ママさんにクララを預けると、貴音とおねえちゃんはお店の中にある更衣室に入ったのです。
更衣室は市民プールと違って個室になっているのです。なので更衣室の中はおねえちゃんと二人っきりなのです♥
貴音が海水浴に行きたかったもうひとつの理由……それはおねえちゃんの水着姿を『独占』したかったのです!
市民プールのときは天ちゃん空ちゃん、そして樹李がいたのです。確かにおねえちゃんのおっぱ……水着姿はみんなの共有財産なのです。
でも……貴音はおねえちゃんの「家族」なのです! 天ちゃんたちに邪魔されない時間があってもいいのです!
家族水入らず……という言葉もあるのです! でも水(海)には入るのです!
〝ぽよんっ♥〟
――ほわぁああああっ♥
おねえちゃんがブラを外した瞬間、貴音の大好物が現れたのです♥
「じー」
「こらこら! 貴音ちゃんも早く着替えな!」
おねえちゃんのビキニは海に入ってからのお楽しみにするのです。貴音も水着に着替えるので……あ、あれ?
――なっ……ないのです!
「おっ、おねえちゃん! 貴音は……ないのです!」
「おっぱいか? 今さら気にするな」
〝バシッ〟
「イテッ! 蹴らなくてもいいだろ!?」
「おねえちゃんは調子に乗るとイジワルなことを言うのです! ぷくぅ」
「で、何がないんだよ?」
「……水着……なのです」
「えっ……いや、手に持ってるじゃん」
貴音が手にしているのはトップ……つまりブラの方だけなのです。どうやら貴音はボトム……パンツを忘れてしまったのです!
「パンツを忘れたのです! これじゃ海に入れないのです!」
「そっか、じゃあ上だけ着て下はすっぽんぽんでいいじゃん♥」
そんなことしたら……貴音はおまわりさんにタイホされるのです!
「おねえちゃん! こんなときに冗談はやめてほしいのです」
「いや、お姉ちゃんは結構本気で言ってるぞ♥」
おまわりさん……このヘンタイおっぱいさんをタイホしてほしいのです!
「しょうがないなぁ……こんなこともあろうかと、水着の予備(貴音ちゃん用)を持ってきてたんだけど……」
――何でそんなものを持ってきているのですかぁああああっ!?
以前おねえちゃんは貴音と天ちゃん空ちゃんをモデルにして水着撮影会をしたのです。そのとき水着を大量に買い込んでいたのです。
でも貴音が選んだタンキニの水着以外は、露出度が高くて着たくないのです。でも背に腹は代えられないのです。
※※※※※※※
「うん、貴音ちゃん似合ってる似合ってる♥」
――最悪なのですぅううううううううっ!
おねえちゃんが用意したのは「バンドゥ」という肩ひものないタイプのビキニなのです! よりによって貴音が一番着たくないビキニなのです! 貴音の「引っかかりのない胸」ではすぐにズレ落ちてしまいそうなのです。
「こっこれは絶対イヤなのです! とりあえずパンツだけもらうのです」
「いや、セットで着ないなら下半身すっぽんぽんで……」
「……う゛ぅっ!」
貴音のミスとはいえ……屈辱なのです! ならば仕方ないのです……こうなったらおねえちゃんにベッタリ寄り添うのです。そうすれば周囲の視線はおねえちゃんに集中するので、貴音は目立たなくて済むかもしれないのです!
ではさっそく、ビキニ姿のおねえちゃんと一緒に……
――ふぎゃぁああああっ!
またおねえちゃんは「ラッシュガード」を着たのですぅううううっ!
「おねえちゃん! またそんなのを着たのです」
「しょうがねぇじゃん、海は日差しが強いから日焼け対策だよ」
おねえちゃんは日焼けしてもカッコイイのです! でもお肌のためには仕方のないことなのです。それに……
「おねえちゃん、今日は海に入るのですよね?」
「あぁ、そりゃ海水浴だからな! 今回は茅乃がクララや荷物を見てくれるからお姉ちゃんも泳ぐよ」
――やったのです♪
海に入る……ということは水着になるのです。今度こそ貴音がおねえちゃんのビキニ姿を独占できるのです♥
「じゃあおねえちゃん、そのときはラッシュガードを脱いでいくので……」
「いや、これはこの前のとは違って着たまま海に入れるタイプだよ」
「がーん!」
……貴音の描いたシナリオからだんだん離れていくのですぅううううっ!
「おねえちゃんズルいのです! 自分だけ……」
「あぁ貴音ちゃんの分もあるよ」
それを先に言うのです! それなら貴音のブラがどんな形でも関係ないのです!
※※※※※※※
ラッシュガードを着た貴音とおねえちゃんはお店の外に出たのです。
「いづみー! 貴音ちゃーん! こっちだよー」
「わんっ」
ビーチではママさんがテントを用意して待っていたのです。
貴音は生まれて初めての海水浴なのです! 期待に胸膨らませ……るほどの胸はないのですが、楽しみにしていたビーチへの第一歩なのです! ところが……
〝ジャリッ〟
――えっ?
ビーチサンダルからヘンな音が聞こえたのです。
これは……砂浜を踏んだ音ではないのです。
この海水浴場……砂ではなく「砂利」なのです!!
貴音なのです。ビーチボールが二つあると思ったら(以下略)。




