貴音は道案内をしたのです(貴音side)後編
「貴音ちゃんだって……お姉しゃんのことが大好きなんでしゅよね!?」
貴音は隣の県に住む女子高生「鴨狩 紬」さんの道案内をしていたのです。その途中……コンビニで買ったアイスを食べるために立ち寄った公園で、紬さんに大好きな「おねえちゃん」の話をしたのです。
その後、紬さんから女の人の「恋人」がいると聞かされたのです。貴音は、女の人同士で付き合う……ということが理解できなかったのです。
すると紬さんは、貴音がおねえちゃんのことを好きだという気持ちと一緒……と言ってきたのです。
……それは違うのです。
――それはたぶん、「好きの意味」が違うのです。
貴音は英語の授業で『like』という言葉を教わったのです。「好き」という言葉は『love』だけじゃなかったのです。
貴音はおねえちゃんのことが大好きなのです。でも……
おねえちゃんは「王子」に見えるけど女の人なのです。おねえちゃんのことは大好きだけど、この気持ちはきっと『love』じゃなくて『like』なのです。
なので貴音はおねえちゃんと姉妹にはなれるけど、女の人同士だから恋人にはなれない……なることはできないハズなのです!
でも紬さんには女の人の「恋人」がいるのです……ワケがわからないのです!
「貴音ちゃん……今、頭の中が混乱してましゅか?」
「ここっ、混乱してるのです!」
それを聞いた紬さんは、クスッと笑いながらこう言ったのです。
「貴音ちゃん……人はね、誰を好きになってもいいんでしゅよ! たとえしょれが許しゃれない関係でも、好きになること自体は悪いことじゃないんでしゅよ!」
「……えっ!?」
「しょしてね、好きになった相手も自分のことを好きなら……つまり両想いだったら、相手が誰だろうと付き合っていいんでしゅよ! 後ろ指しゃしゃれても気にしなくていいんでしゅ! 障害があったら乗り越えていけばいいんでしゅ!」
「付き合って……いい?」
「しょうなんでしゅ! 『好き』には身分や年齢、しょして性別なんて関係ないんでしゅ! 好きっていう気持ちは、もっと自由でいいんでしゅよ!」
――「好き」という気持ちは自由……?
「えっ、でも……」
「あーっ、貴音ちゃん! もしかして……『love』と『like』の区別がつかなくて混乱しているんでしゅか?」
――うっ! 図星なのですぅううううっ!
「簡単でしゅ! どっちも日本語では『好き』なんでしゅ……単純に『好き』のレベルが違うだけなんでしゅ! だから親子でもきょうだいでも、友だちでも推しでも趣味でも……心の底から好きだったら『love』を使っていいんでしゅよ!」
――えぇええええっ!?
「だから、お姉しゃんが『love』だって全然おかしくないでしゅよ」
――おねえちゃんを『love』でもいいのです……か?
貴音は……この小さな「おねえさん」から何か大事なことを教わったのです。
※※※※※※※
貴音と紬さんはアイスを食べ終わると目的地「四尾連荘」に向けて歩き出したのです。大げさに言ったけど、実はこの公園のすぐ近くなのです。
「それにしても……忍野萌海の事務所が四尾連荘だなんて知らなかったのです」
知らないというより……忍野萌海に興味がないのです。
「確か……しゅももももももももプロダクションって名前でしゅよ」
「えっ違うのです! もももすももももものうちプロダクションなのです」
「え~っしょれも違うよ! もももしゅももももももももももプロ……」
「……忍野萌海の事務所でいいのです」
「しょ……しょうでしゅね」
「……ぷっ!」
「……あははははっ!」
貴音は紬さんとすっかり仲よくなっていたのです。ちなみに正解は「スモモもモモプロダクション」なのです……ダサい名前なのです。
※※※※※※※
貴音と紬さんの前にスモモもモ……忍野萌海の事務所がある「四尾連荘」が見えてきたのです。相変わらずのボロアパートなのです。
おねえちゃんとママさんはすごいところに住んでいたんだなぁ~っと貴音は改めて思ったのです。
「あっここでしゅね!? 貴音ちゃん、ありがとう!」
「無事に着いて何よりなのです」
紬さんとはここでお別れなのです。ほんの一時間程度のお付き合いだったのですが、とても楽しかったのです!
別れ際に紬さんとニャイン交換したのです。紬さんの話では、恋人の縫さんは洋服のデザイナーを目指していて、紬さんは縫さんと一緒にお店を開くのが将来の夢だそうなのです。
貴音は大きくなったら、紬さんたちのお店でお洋服を作ってもらう……という目標ができたのです。
「しょれじゃ、お姉しゃんにもよろしくねー! しゃよおならー!」
「バイバイなのです!」
貴音は小さな「おねえさん」とお別れしたのです。でもなぜか、あいさつが「さようなら」ではなく「しゃよおなら」だったのです。
※※※※※※※
「ただいまなのです」
貴音は帰り道に、あのコンビニでアイスを買って家に帰ってきたのです。
「遅かったじゃん! 何してたの?」
おねえちゃんが玄関まで出迎えてくれたのです。一応ニャインで遅くなると連絡したのですが、詳しい話はしていなかったのです。
「実はかくかくしかじか」
「だから……かくかくしかじかって言われてもわからん!」
貴音は今までの出来事を、おねえちゃんとママさんに話したのです。
「そっか、そりゃ良いことをしたね!?」
「そうなのです! 貴音は良い子なのです!」
貴音は買ってきたアイスを、おねえちゃんとママさんに手渡したのです。ママさんのリクエストはジャイアソトコーン、おねえちゃんは……やっぱりカップのバニラアイスだったのです!
おねえちゃんは最近、貴音にカップアイスのフタを舐めさせるのです。そしてフタを舐めている貴音の顔を、なぜかえっちい目で眺めているのです……正直それはイヤなのです!
「あれ? 貴音ちゃんはガソガソ君でいいの?」
「いいのです! 貴音はさっぱりしたアイスが食べたいのです」
本当は……すでに公園でハーゲソダッシを食べていたのですが、そのことは内緒にするのです! 貴音は悪い子なのです♥
「そんな遠慮しなくても……あっ、じゃあお姉ちゃんのアイスのフタ舐める?」
ふっふっふ……ムリなのです!
「あれ!? これじゃアイスがフタに張りつかねーじゃん!」
おねえちゃんに買ってあげたのは、ヌーパーカップなのです! これはカップにフィルムが貼ってあるのです。つまりフタの裏にアイスがくっつかないのです!
「こんなキレイなフタをもらっても困るのです」
「えぇーい! だったらこのフィルムを舐めろ!」
「いづみ! 貴音ちゃんにお行儀の悪いことをさせんじゃねーよ!」
「くっそーっ!」
貴音のおねえちゃんは、こんな感じのヘンなおねえちゃんなのです!
でも貴音は、このヘンなおねえちゃんが……『love』なのです♥
「おねえちゃん! 素直にあきらめるのでしゅ!」
「いーや、あきらめな……えっ!? でしゅ?」
――あれ? なぜか話し方がヘンになっているのでしゅ……。
貴音なのです。紬さんのセリフのルビ振り作業は大変だったようなのです。




