貴音はハダカを見られたくないのです(貴音side)中編
――いやぁああああああああっ!!
貴音はいづみさんにハダカを見られてしまったのです。
もうダメなのです。しかもいづみさんの視線は、中学生になっても全く変化のない貴音の「おっぱい」に向けられていたのです。絶対に笑われるのです。絶対にバカにされて絶対にからかわれるのです!
せっかくきょうだいになったのに……最初は「王子様」だと思って憧れてさえいたのに……貴音は一生、この人に虐げられて生きていかなければならないのです。
「…………グスッ」
絶望的な気分になった貴音は泣き出してしまったのです。
「えぇっ、ちょっと! 貴音ちゃん……何で?」
いづみさんは貴音の体を見ても笑ったりせず、ただオロオロしているのです。
「ごっごめん! でっでも泣かなくても……」
「た……貴音は……ハダカを見られるのがイヤなのです」
「いやいや、女同士なんだしそんな恥ずかしがることじゃ……学校でもプールとかで着替えてるでしょ? それに貴音ちゃん、とてもキレイな肌してるよ! もっと自信持っていいんじゃない?」
肌がキレイかどうかなんて関係ないのです。おっぱいを持ってないのに自信なんて持てるワケがないのです!
「貴音は……おっぱいが無いのです! だから見られたくないのです!」
どうやらこの人にはハッキリ「おっぱい」と言わなければ伝わらないみたいなのです。貴音は体全体が貧弱なのですが、特におっぱいが無いのがイヤなのです。
「貴音ちゃん十二歳でしょ? まだまだこれからよ」
「そっ……そんなことないっ! のです。だって、友だちがみんな大きくなってきてブ……ブラジャー着けるようになってきてるのに……貴音は……まだ……」
するといづみさんは、とんでもないことを聞いてきたのです。
「貴音ちゃん……初潮……まだだよね?」
えぇええええっ!? この人は突然何てことを聞いてくるのですか? そんなこと、パパからも友だちからも聞かれたことなかったのです。もちろん、貴音からも聞くことはなかったのです。
「わっ、わからないの……です」
たぶん……まだ貴音は経験していないのです。授業で教わったことはあるのですが、そのときはよく理解できず他人事だったのです。
「普通は胸がふくらみ始めてから初潮がくるのよ。つまりこれからも大きくなるってこと!」
そうなのですか? でも友だちがおっぱい大きくなってから一年以上経っているのに、貴音は全然なのですよ!
「だから気にしなくていいし……それに」
そう言いながら貴音の後ろに回り込んできたいづみさんは、
「ひぃっ! なっ……何をするのです!?」
貴音の脇の下に手を入れると、そのまま胸を押さえるように触ってきたのです!
「ほらぁ、無いなんてウソでしょ!? ちゃんと感触あるわよ……貴音ちゃん、胸の先っちょがチクチクしたこととかない?」
「あっ……ある……のです」
「それだよ! それがふくらんできた証拠よ」
貴音におっぱいがあるなんて知らなかったのです。気づかなかったのです。でもいづみさんは貴音の胸を見て一発で見抜いたのです。
「……でも、貴音のは小さい……」
「えっ、なんで? 小さくてもいいじゃん! 何で大きい方がいいの?」
――あれ? そういえば何でなのですか? 深く考えたことがなかったのです。
ただ、おっぱいの大きいグラビアのお姉さんがもてはやされたり、アニメのヒロインがみんなおっぱい大きいから「おっぱい大きい=モテる」とは思っていたのですが……えっ、貴音はそんな理由で憧れていた……のですか?
「そっ、それは……えっ? 何でなのです? わっ、わからないのです」
「ねっ、だから周りのことなんか気にしなくて堂々としていればいいの! それに貴音ちゃん、カワイイし肌も髪もきれいだし……全然いいじゃん! 私からしたらとってもうらやましいよー!」
貴音は幸せな気分になったのです。大人の女性から「うらやましい」なんて言われたのは初めてなのです。貴音はハーフなのでみんなから物珍しがられているだけで、今まで自分の容姿に魅力などないと思っていたのです。
この人……貴音をバカにするどころか褒めてくれたのです。いづみさんは女性ですが、やっぱり貴音の「王子様」なのかもしれないのです。
「う……うん、いづみさん、ありがとう……なのです」
貴音は、いづみさんにだけは隠すことをやめたのです。
「ところでいづみさん! いづみさんはお風呂に入らないのですか?」
このときいづみさんは下着姿のままだったのです。貴音が真っ裸なのにズルいのです。貴音も大人の女性のハダカを見てみたいのです。いづみさんは「あぁ忘れてた!」と言って慌ててブラジャーを外したのですが……
――貴音の目の前に……衝撃的な光景が現れたのです。
貴音は最初、いづみさんは普通の女の人の体型だと思っていたのです。でもブラを外した瞬間、まるでどこかの手品師が「でっかくなっちゃった!」と言って耳が大きくなったように、おっぱいが突然「でっかくなっちゃった!」のです。
貴音は生まれて初めてこんなに大きなおっぱいを見たのです。小さいころ一度だけ銭湯に入ったことがあるのですが、こんな女性見た記憶がないのです。
ていうか……
さっきまで貴音を慰めてくれたり褒めてくれたこと……アレは一体何だったのですか!? 結局自分はおっぱい大きいから……きっと「勝者の余裕」なのです!
――やっぱりこの人は……敵なのです!!
貴音はこの「二匹のスライム」を敵とみなしたのです。
「あっ、あの……貴音ちゃ……」
「ぷい!」
知らないのです! 貴音はそっぽを向いたのです。
「えっ何で急に怒ったの? ねぇ教えて! 黙ってたらわかんないよぉ~」
いづみさんは貴音が怒った理由がわからず再びオロオロしていたのです。自分の胸に手を当ててよく考えてみるのです!! おっぱいだけに……。
「いづみさん……おっぱい……大きいのです! 小さくてもいいとか……説得力ないのです」
でもこの人は、貴音の「体の変化」には敏感だったのですが……
「あっ、あのさ……」
……貴音の「気持ちの変化」には鈍感そうなのでハッキリ言ってやるのです。
「いづみさんは貴音のことバカにしているのです! いづみさんなんか……いづみさんなんか……」
――大っ嫌いなのです!!
貴音なのです。次回に続くのです!




