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貴音はハダカを見られたくないのです(貴音side)前編

 


 貴音は()()()おねえちゃんが大好きなのです。



 でも一度だけ、おねえちゃんが大嫌いになったことがあるのです。



 ※※※※※※※



「貴音ちゃん、この後一緒にお風呂入ろ!」


 それは、ママ()()といづみ()()の二人が貴音の家にやってきてから、二週間ほど経ったある日のことなのです。


「……えっ!?」


 家族四人で夕ご飯を食べていると、いづみさんが突然とんでもないことを言い出してきたのです。


「ほら、私たち一緒に住み始めて二週間も経つじゃん! でもまだ姉妹なのになんかギクシャクしてない? だからさっ、一緒にお風呂入ってコミュニケーション取ろうかな~って……まぁいわゆる『裸の付き合い』ってヤツ……」


 えっ、この人は何言っているのですか? 貴音はいつもひとりでお風呂に入るのが決まりなのです! パパもママさんも、この人の暴走を止めるのです!


「あぁいいんじゃないか? 貴音、お姉ちゃんと一緒に入ってくればいい」

「あら知らなかったわ、アンタがそんなにきょうだい想いだったなんて」


 パパとママさんが敵になったのですぅううううっ! 貴音は孤立無援になってしまったのです!


「ねっ貴音ちゃん! いいでしょ!? 背中流してあげるから……」

「…………う、うん。いいの……です」


 よくないのです!! パパとママさんがいづみさんの話に乗っかってしまったから断れない状況に追い込まれてしまったのです!! とにかくイヤなのです!


 貴音は……貴音は……



 ――誰にもハダカを見られたくないのですぅううううううううっ!



 ※※※※※※※



 これは困ったことになってしまったのです! なぜなら……貴音の体は貧弱な幼児体型だから他人に見られたくないのです!


 ――そう思うようになったのは一年前……小学校の修学旅行のときなのです。


 クラスの女の子たちでお風呂に入ったら……お友だちの体型が貴音と違っていたのです。おっぱいがふくらんでいて、中にはお股の所に黒いものが生えている子もいたのです。


 保健体育の時間に「二次性徴」という言葉を教わっていたのでそれが何かは知っていたのです。けれども実際にお友だちが変わっている姿を見て、ショックを受けた貴音は思わずタオルで体を隠したのです。


 でも……ちょっと成長が遅れているだけで、貴音も中学生になったら変わっているんだろうな……と、このときはポジティブに考えていたのです。



 ――変わっていなかったのです!



 一年前と何ら変わっていなかったのです!!


 そういえば貴音はハーフ、目の色も髪の毛の色もみんなと違う……もしかしたら貴音は遺伝子に異常があって、このままの体型で大人になってしまうんじゃないかと考えるようになったのです。



 いづみさんは大人の女性……もしこの人に貧弱なハダカを見られたら、ケラケラと笑いだして一生バカにしてくるに違いないのです!



 ――なので、絶対にハダカを見られたくないのです!



 貴音は部屋に戻ると、タンスの中に仕舞った「ある物」を探したのです。



 ※※※※※※※



 〝ペタン…………ペタン…………〟


 ――ううっ……気が重いのです。


 貴音は着替えを持って階段を一段一段……できるだけゆっくり下りたのです。向きは逆だけど、まるで死刑台の階段なのです。

 そして脱衣所という名の死刑台の前に来ると、いづみさんという死刑執行(バカにする)人が待ち構えていたのです。


「あっ……待って……たのですか?」

「ううん、私も今来たとこだよ」


 いづみさんはとてもうれしそう……そんなに貴音からマウント取れるのがうれしいのですか!?


 でも、あきらめるのは早いのです! 貴音には「秘密兵器」があるのです!



 ※※※※※※※



 脱衣所に入った貴音は作戦を開始したのです! 脱衣カゴに着替えとバスタオルを入れた貴音は、さっそく部屋から持ってきた「ある物」を首に巻いて体をすっぽり覆うように隠したのです!


 ある物とは……そう、巻きタオル! 小学校のとき、お着替えで使っていたやつなのです! 貴音は中学生になっても、プールの着替えで使うつもりなのです。


 いづみさんはポカーンとした顔をしている……貴音の作戦勝ちなのです!


 貴音はいづみさんに背中を向けて服を脱ぎだしたのです。前に鏡があると映ってしまうので死角に立ったのです。

 さらに! 首から脱ぐことができないので、あらかじめ下着のシャツは脱いで前開きの服に着替えていたのです。我ながら用意周到な作戦なのです。


 でも……ときどき振り向くといづみさんは貴音をじっと見続けているのです。もしかして貴音のお尻が見たいのですか? まぁお尻ならそんなに体型が変わるワケではないので見られても平気なのですが……


 ――アレだけは……死んでも見られたくないのです。


 それにしてもしつこく見てくるので、貴音はいづみさんをジッと睨みつけると


「みっ……見ないでほしいのです!」


 と、威嚇したのです。



 ※※※※※※※



 全部脱いだのです。でも、ここからが問題なのです。


 ここはお風呂……プールではないのです。結局ハダカになるのです。でも貴音はそれを絶対に阻止しなければならないのです! そこで……


 貴音はバスタオルを二枚用意したのです。一枚は湯上り用、もう一枚は……


 体に巻いてそのまま湯船に入るのです! よくTVの温泉リポートで女の人が巻きながら入っている……アレなのです。


 貴音は巻きタオルの中でバスタオルをきつく巻いたのです……なんかややこしい表現なのです。巻きタオルを外し、バスタオル姿でいづみさんからの完全ガードに成功した貴音だったのですが……


 ――この人はとんでもない行動に出たのです。


「ちょっとぉ貴音ちゃん、それで入るつもり? ほらぁ~取りなさいよ」

「えっ、ちょっ……やめるのです!」


 貴音のバスタオルを外す実力行使に出たのです! 冗談じゃないのです! 貴音は必死に抵抗したのです! が……


「ひぃっ!」


 剣道をやっているせいでしょうか、いづみさんは動きがとても素早いのです。いづみさんに一瞬の隙を突かれ、バスタオルを止めていた部分をいとも簡単に外されてしまったのです。


 すると、貴音のバスタオルがはらりと床に落ちたのです……。



 ――い……いやぁああああああああっ!!



 いづみさんにハダカを見られたぁああああああああっ!! のです。


貴音なのです。はっ、恥ずかしいから次回は見ないでほしいのです!

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