私は妹の「復讐」に協力することとなった(いづみside)中編
――なるほど……この子がそうか。
私は妹の貴音ちゃんからあるお願いをされた。それは妹と双子の天ちゃん空ちゃんに対して「巨乳マウント」を取ってくるという同級生の子に「復讐」がしたいという物騒な内容だった。
妹から「何でもする」と言われて仕方なく協力した私は、着たくもないタートルネックのタンクトップを着て妹の部屋に入った。
夏休みの勉強会をしているのは妹と双子、そして初めて見る顔がひとり……どうやらこの子が妹たちの「復讐」のターゲットのようだ。
ターゲットの子は夏休みだからか、普通なら校則違反になるハズの髪を染めて付け爪をしている。でも見た目はギャルっぽいが完全に真似事……何か「背伸びをしたい子」のように見える。
「あら? こちらの子は?」
「貴音の友だちの樹李ちゃんなのです!」
――白々しい! よく平然と「友だち」って言えるな妹は。
「あ……初めま……して、野牛島……樹李……っす」
「初めまして、貴音の姉です。妹をよろしくお願いしますね」
「あ……はぁ」
しょうがない、私も白々しく妹と「実の姉妹」という体で挨拶した。だが私の姿を見た樹李ちゃんという子は目が点に……いや、目が一点に集中していた。
巨乳マウントを取るような子なので、おそらく他人のおっぱいも気になるのだろう……さっきから私のおっぱいに釘付けなのだ。
私はいつも「小さく見せるブラ」をしているが、今日は妹から頼まれて普通のブラを着けている。おまけにタートルネックのタンクトップ……かなり巨乳が強調された格好だ。
しかしこの子も中一の割には巨乳だ。妹の話ではD70だそうだが……いやちょっと待て、何で妹はこの子のバストサイズを知っているんだ? まぁ私も中一のときはこのくらいあったけ……あれ?
――何か……おかしい!
樹李ちゃんという子は胸元が大きく開いたギャルっぽい服を着ているが、その胸の形に私は何となく違和感を覚えた。
もしかしてこの子、見栄張って大きめのブラしてる? でもってパッドか何かで盛ってるような……。
「それじゃあみんな! ゆっくりしていってね」
「はーい」
〝ガチャッ……バタンッ〟
――あぁああああっ! 恥ずかしかったぁああああっ!!
もうっ! その樹李ちゃんって子にだけ見せつけるハズだったのに、何で妹や双子までジロジロ見てやがるんだよ! アンタたちは見る必要ないだろ!?
まぁいい! あの子たちには後できっちり「仕返し」してやる! 私は自分の部屋に戻ると次の準備に取り掛かった。
※※※※※※※
〝ニャイン♪〟
部屋でゆっくり休む間もなく妹からニャインが来た。妹のメッセージには『やっぱり疑っているのです』と書かれていた……妹はニャインでも「~のです」という口調で通している。
疑われている? そりゃそうだろう。私はメモを見てもう一度「おさらい」をしてから妹の部屋に入った。
〝ガチャ〟
「ひぃっ!?」
私の姿を見るなり、樹李ちゃんはのけぞってしまった。無理もない、私の格好は黒のブラジャーの上に薄手の白Tシャツ(しかも無地)……街中で着たら確実に職質を受けそうなレベルだ。
「あれ? おねえちゃん着替えたのですか?」
――わざとらしいぞ妹! オマエの指示通りだよ!!
「うん、タートルネックじゃゆったりできないからね! それより……どうしたの貴音ちゃん!?」
「麦茶のおかわりがほしいのです。それと、樹李ちゃんがおねえちゃんのフィンランド語を聞きたいって言っているのです」
――やっぱそう来たか!?
妹は私を「フィンランドに留学していて最近まで日本にいなかった」という設定にしている。なのでこの樹李ちゃんという子は、私がフィンランド語を話せるか試そうとしているのだ。そこで……
「Hauska tutustua. Minä olen izumi. olen 19 vuotias.」
(はじめまして、私はいづみ、19歳です)
私はフィンランド語で樹李ちゃんに挨拶した。
「……なにか問題でもあるのです?」
「い、いや特に……ないっす」
得意げな顔をして話しかけた妹に、樹李ちゃんは下を向きながら答えていた。
「じゃ、おかわり持って来るからちょっと待っててね」
〝バタンッ〟
――ふっざけんな妹ぉおおおおっ!
こんなこともあろうかと私は昨日の夜、フィンランドで生活した経験のある継父の延明さんからフィンランド語の挨拶を教わっていたのだ。継父とはいえ、私は男性と一対一で話すのが苦手……大変だったんだぞ妹っ!
さて次だが……いよいよ私は「頭のおかしい姉」を演じなきゃならないのか。
私は一度「ある物」を取りに自分の部屋へ戻ってから、空のグラスを持ってキッチンに向かった。
※※※※※※※
「お待たせ! おかわり持ってきたわよ」
「おっ、お姉さん! 何でそんな格好してるっすか!?」
麦茶のおかわりを持って部屋に入ってきた私を見て、樹李ちゃんは腰を抜かしていた……うん、その反応は正常だぞ!
なぜなら私は、誕生日プレゼントで和からもらったビキニを着ていたからだ。間違いなく私の格好の方が異常だぞ!
「これ? 今度海に行く予定あるから試着してたの」
――だからってこの格好で接客なんかしねえよぉおおおおっ!
「おねえちゃん、樹李ちゃんが聞きたいことあるそうなのです」
「えっ、なーに?」
「あっいいえ……何でもないっす」
「樹李ちゃんはおねえちゃんが胸パッドを入れてると言っているのです」
「えっ、そそそんなこと言ってな……」
なーるほど、自分にかけられた疑惑を逸らせようって考えか……。
「あらぁ~疑ってるの? じゃ、お姉ちゃんのおっぱい……触ってみる?」
「いっいえっ! だっ大丈夫っす! 疑ってサーセーン!!」
――完全に痴女だぁああああっ!! こっちこそサーセーン!
※※※※※※※
「お……お姉さん、お邪魔したっす」
それからしばらくして……私がリビングでくつろいでいると、樹李ちゃんがひとりで私の元へやって来た。
「あら、もう帰るの?」
「あ……はぃ」
家にやってきたときの「マウント取り」はどこへやら……樹李ちゃんはひどくやつれたような顔で私に挨拶した。妹や双子はまだ部屋にいる……どうやらこの子は途中で帰るみたいだ。
私に巨乳を見せつけられたことで樹李ちゃんは完全に自信を無くしたようだ。やりすぎたかなぁ……。
罪悪感を感じた私は、彼女を玄関まで見送ることにした……もちろん今の私はビキニ姿ではない。
「えぇっと、樹李ちゃん……だよね、何か色々と……ゴメンね」
「あ……はぁ」
かなり落ち込んでいるようだ……何だか可哀想になってきた。でも胸のことで励ますワケにはいかないだろう。さんざんおっぱいの差を見せつけた私がそんな励ましをしたら逆効果だ。
「それじゃ気をつけて」
「あっあのっ!」
玄関で送り出そうとしたら突然樹李ちゃんが私に話しかけてきた。
「え、どうしたの?」
「あっあの…………お姉さん! 好きっす!!」
「……へっ?」
……私は中一女子に告白された。
貴音なのです。次回はおねえちゃんが「復讐」するのです……ひえぇっ!




