貴音は夏休みに復讐をするのです(貴音side)前編
「こんにちはー、おじゃましまーす!」
「しまーす!」
友だちの天ちゃん空ちゃんが貴音の家にやって来たのです。
※※※※※※※
夏休みに入ったのです。
小学生のとき、貴音はいつも「夏休みの友」を夏休み最後の三日間で仕上げていたのです。一ヶ月以上も存在を無視……全然「友」じゃなかったのです。
なので中学生になったらもっと早く宿題を終わらせよう! スタートダッシュが肝心……と思った貴音は天ちゃん空ちゃんに声をかけ、八月前だというのに「勉強会」を開いたのです。貴音はマジメな子なのです!
……というのは「建て前」なのです!
本当は、この日の勉強会へ一緒に誘った「ある女」に復讐するためなのです!
「ちわーす! へー、貴音っちの家ってこんなんっすかー!?」
そうとは知らずノコノコとやってきた後輩口調のこの女!
――コイツが今回のターゲット、『野牛島 樹李』なのです!
貴音は小学校五~六年あたりからこの女にイジられ続けているのです。
〝チラッ〟
〝コクッ〟
貴音は天ちゃん空ちゃんとアイコンタクトを取ったのです。実はこの双子も以前から野牛島樹李のターゲットにされているのです。つまりこの女は……私たち三人共通の「敵」なのです!
なぜ私たち三人がコイツを敵視しているのか……それは、
〝ぽよんっ♥〟
この女……ウチのクラスで一番の「巨乳」なのです! 小学校五年生あたりからふくらみ始め、身長は貴音より数センチ高いだけなのにD70のブラジャーを着けているのです! 何で貴音がコイツのブラのサイズを知っているのかというと……
「あー外は暑いっすねー! こーんなに暑いとおっぱいの下が蒸れちゃってもーう大変っすよー!」
――コイツ……またマウント取ってきやがったのです!
この女はクラスの女子同士で話をするとき、必ず「巨乳マウント」を取ってくるのです! なのでコイツのバストサイズは、クラスの女子全員が「本人から」聞かされて知っているのです。
しかも……
「いいっすねーアンタたちは! どんなに暑くてもおっぱい蒸れなくてー!」
――カッチーン!!
これなのです! この女はこうやって貴音たちをイジってくるのです!!
貴音と天ちゃん空ちゃんは「貧乳三姉妹」と呼ばれているのです。実はこの不名誉なあだ名をつけたのもコイツなのです!!
貴音は怒りに震えているのです! 天ちゃんも怒りを通り越して殺気立った顔をしているのです。あの普段は感情を表に出さない空ちゃんですら、まるで親の仇を見ているような表情なのです。
――でも、今はガマンするのです。
天ちゃんと空ちゃん……そしてこの「巨乳マウント女」は貴音の部屋に入ったのです。部屋にはあらかじめ、テーブルと座布団を用意しているのです。
「あーだりーっす! よいしょっと!」
――コッ……コイツはぁああああっ!
巨乳マウント女は座布団に座ると、いきなり自分の胸をテーブルの上に乗せたのです! 完全に貴音や天ちゃん空ちゃんにケンカを売っているのです!
「いやーこうしていると楽っすよ! みんなもやってみたらいいっす……あっ、ごめーん! 三姉妹には必要ないっすよねー! いいなーうらやましいっす!」
思わず殴りかかろうとした天ちゃんを空ちゃんが止めたのです。天ちゃん、今はガマンするのです! なぜなら……
今日、貴音たちはこの巨乳マウント女・野牛島樹李に「復讐」するのです!
貴音たちはこの女にさんざん巨乳マウントを取られ、貧乳をイジられバカにされてきたのです。でも事実は事実、今までは泣き寝入りするしかなかったのです。
――しかし! 今は違うのです!
貴音は『最強兵器』を手に入れたのです! この兵器さえあれば、Dカップなんて雑魚キャラなのです!
しばらくみんなで夏休みの宿題をしていると、マウント女が……
「ねー何かお腹空かないっすか? お菓子や飲み物は出てこないっすか!?」
コイツ……おっぱいだけじゃなく態度もでかいのです! 厚かましいのです!
「今……持って来るのです」
貴音はニャインで「最強兵器」を呼んだのです。さぁ巨乳マウント女! 今のうちにマウントを取りまくるがいいのです! もうじきオマエは最強兵器によって吠え面をかくのです!
〝コンコンコンッ……ガチャ〟
「あら、天ちゃん空ちゃんいらっしゃい」
「あっ、お姉さん! おじゃましてまーす」
「してまーす」
――最強兵器「おねえちゃん」の登場なのです。
「遅くなってごめんね、麦茶と……あと桃あるからよかったらみんなで食べて」
「ありがとうございます! いただきまーす」
「いただきまーす」
――ぷっ……ぷぷっ!
おねえちゃんの姿を見た巨乳マウント女は目が点になっていたのです! それもそのはず、おねえちゃんは貴音がプレゼントした服を着ているのです。
これはタートルネックのタンクトップなのです。この服は体にフィットする素材なので、おねえちゃんの体のライン……つまりおっぱいが強調されるのです!
しかも……おねえちゃんは普段「小さく見せるブラ」を着けているのですが、今日は貴音が無理をお願いして普通のブラを着けてもらっているのです。なのでおねえちゃんのFカップがメチャクチャ目立つのです!
どうだマウント女! オマエのDカップなどおねえちゃんに比べたら「貧乳」なのです!
「あれ? こちらの子は?」
「あっ、貴音の友だちの樹李ちゃんなのです!」
「あ……初めま……して、野牛島……樹李……っす」
ぷぷぷー! 完全に動揺しているのです!
「初めまして、貴音の姉です。妹をよろしくお願いしますね」
「あ……はぁ」
「それじゃあみんな! ゆっくりしていってね」
「はーい」
〝バタンッ〟
おねえちゃんは出ていったのです。
「えっ……ちょっと! 何なんすかあの人は!?」
「貴音のおねえちゃんなのです」
「うそっす! 貴音っちのお姉ちゃんがあんな巨乳なワケないっす!!」
先制パンチを食らったマウント女・樹李は貴音に詰め寄ってきたのです。
「貴音だってこれから成長するのです! そのうち樹李ちゃんを超えるのです」
「何かおかしいっす! だって小学校のとき、お姉ちゃんがいたなんて話は聞いたことないっす」
確かに話した覚えはないのです……実際、いなかったのです。
「えーいたわよー! 樹李ちゃん、知らなかったのー?」
「かったのー?」
実は天ちゃん空ちゃんとは事前に「実の姉妹」という設定で口裏を合わせていたのです! おねえちゃんも今回の計画に協力してくれて、貴音の実の姉っぽい上品なしゃべり方をしてくれたのです。
「あーそういえば貴音っち! 小学校の修学旅行で『パパはひとりでお留守番している』って言ってたっす! おかしいっす!」
「ぎくぅ!」
――コッ、コイツそんなこと覚えていたのです!
確かに言ったのです……困ったのです。
「そっそれは……おねえちゃんはそのときフィンランドに留学していたのです!」
その言葉を聞いた樹李はニヤッとしながら
「へぇ、じゃあお姉さん……フィンランド語が話せるっすよね!?」
貴音なのです。絶体絶命の状態で次回に続くのは鉄板なのです。




