貴音は夏休みでもおねえちゃんを起こしたいのです(貴音side)
朝になったのです!
貴音はいつものように、おねえちゃんを起こしにいくのです。
「こんこん……入るのです! がちゃっ」
「zzz」
おねえちゃんはこちらに背を向けて寝ているのです。しかもお布団を掛けないで寝ているのです……だらしないのです。
おねえちゃんが風邪をひいてはいけないので、貴音はおねえちゃんにお布団を掛けてあげたのです……貴音はイイ子なのです!
普段、おねえちゃんはピンクのネコさん柄のパジャマを着ているのです。でもお布団を掛ける前に見たおねえちゃんの姿はTシャツに短パン姿だったのです。
しかも短パンには、おねえちゃんが通っていた高校の名前がプリントされていたのです……はっきり言ってダサいのです!
「こちょこちょ……」
いつものように足をくすぐっても反応しないのです。でもガマンしている可能性が高いのです。なので貴音もおねえちゃんのベッドに潜り込むのです。
おねえちゃんは抱き枕を抱いて寝ているのです。その姿がカワイイのです! 貴音もおねえちゃんみたいに抱き枕を使って寝たいのです……
なので貴音は、おねえちゃんを抱き枕にするのです!
貴音は背後からおねえちゃんに抱きつくと、そのまま密着したのです。
「むぎゅ♥」
おねえちゃんの背中の体温が直に伝わってくるのです……あったかいのです♥
……あったかいのです♥
……あったかいのです♥
……あったかい……
……あった……あっ……あ……
「暑いのですぅううううううううっ!」
「うわぁ! 暑いぃいいいいいいいいっ!」
おねえちゃんが飛び起きたのです。
「何やってんだよ貴音ちゃん! このクソ暑いときに布団まで掛けやがって!」
「朝なのです! おねえちゃん、起きるのです」
「もうちょっと寝かせろよー!」
「今日は日曜じゃないのです! 平日なのです!」
「何言ってんだよーっ! もう『夏休み』だろうが!」
……そうなのです! 貴音もおねえちゃんも「夏休み」に入ったのです♪
「まだ六時過ぎじゃねーか! 何でそんなに早起きなんだよ貴音ちゃんは!?」
「おねえちゃんもラジオ体操に行ってスタンプもらってくるのです」
「小学生か!? もうちょっと寝かせろ!」
あ……おねえちゃん、二度寝してしまったのです。
※※※※※※※
「いち、にーさん、し! ごーろく……」
貴音は家のお庭でラジオ体操をしたのです。中学生はスタンプを押してもらえないだろうし、そもそも貴音の住む地区では去年から夏休みのラジオ体操をやっていないのです。その後貴音はクララの散歩をしてから自分の部屋に戻ったのです。
せっかく早起きしたのです。長いお休みだからといって時間をムダにしてはいけないのです! 夏休み終盤に入ってから後悔したくないのです! 何事もスタートダッシュが大事なのです! 貴音はこの空き時間をムダにしないよう……
……ゲームをするのです♥
ところが……
ラジオ体操やって疲れたときにベッドの上でゲームしていたら……何か眠くなってきたのです。
貴音も二度寝がしたいのです! でも……
おねえちゃんが抱いていたのは「冷感抱き枕」なのです。貴音は抱き枕を持っていないのです……うらやましいのです。
ひんやり抱き枕があった方が快適に違いないのです! なので貴音は今からひんやり抱き枕を「作る」のです!
まずはキッチンに行き、冷蔵庫からアイスノソを取り出すのです。
そして……
「こんこん……再び入るのです! がちゃっ」
「zzz」
おねえちゃんの部屋に入ると、おねえちゃんは完全に二度寝しているのです。
おねえちゃんは二度寝でもこちらに背を向けているのです。貴音はおねえちゃんのTシャツを少し引っ張ったのです。
するとTシャツと背中の間に「すき間」ができたのです! そのすき間を目がけて一気に……
……アイスノソを差し込むのです!!
「うぎゃぁああああああああっ!!」
〝……ごちっ!〟
※※※※※※※
「ふぇええええん! おねえちゃんがぶったのですぅううううっ!」
「当たり前だ! 心臓が止まるかと思ったわ!」
飛び起きたおねえちゃんに振り向きざま頭を叩かれたのです。しかもパーではなくグーで叩かれたのです! 全然グー(good)じゃないのです! 頭がパーになったのです!
「貴音もひんやり抱き枕がほしいのですぅううううっ!」
「だからってお姉ちゃんをひんやり抱き枕にすなっ!」
「じゃあ冬になったらおねえちゃんにカイロを貼ってあったか抱き枕に……」
「私を抱き枕にする前提をやめろ!」
さすがにイタズラの度が過ぎたのです。でも、代償も大きかったのです。
「ふぇええええん、暴力反対なのですぅううううっ! ママさんに言いつけるのですぅううううっ!」
「わ、わーったよ! ぶったのは謝るよ」
ママさんに言いつける……というセリフはおねえちゃんにとってキラーフレーズなのです! 本当は貴音が悪い子なのに、ここで一気に形勢逆転なのです! 形勢スカイ●イナーなのです!
「痛いのです! 謝るだけじゃ済まないのです! ふぇええええん!」
本当はもう痛くないのです。でも貴音はおねえちゃんにある「お願い」をするため「ウソ泣き」を続けたのです。
「えーっと……要求は何だ? それとウソ泣きはやめろ」
「えっ?」
……貴音の目論見はすでにバレていたのです。
※※※※※※※
貴音は明日、ある「計画」を実行するのです。そのためにはおねえちゃんの協力がどうしても必要なのです!
「おねえちゃん、明日の午後はお出掛けの予定があるのですか?」
「いや、特にないけど……」
おねえちゃんは明日、この家にいる……第一段階クリアなのです!
「おねえちゃんにお願いがあるのです! 明日、貴音はお友だちとこの家でお勉強会をする予定なのです。明日はパパとママさんがいないので、代わりにお茶菓子を出してほしいのです」
「は? まぁ、別にいいけど……何人来るの?」
「三人なのです」
「ふーん、二人は天ちゃん空ちゃんだよね? もう一人って……この前、校長室の前で一緒にいた子?」
「おねえちゃんは会ったことない子なのです。とってもいい子なのです!」
――大ウソなのです! 貴音が一番大っキライな子なのです!
貴音は今までさんざんコイツにイジメられてきたのです! この夏休み、貴音はコイツに「復讐」を企てているのです!
そのためにはおねえちゃんの「協力」が必要なのです! でもこれが復讐だとバレるとおねえちゃんは協力してくれそうにないのです。
「もうひとつお願いがあるのです! お茶菓子を出すときに、この前の誕生日プレゼントで渡した服を着てほしいのです」
「着ぐるみパジャマと一緒に入ってたヤツか? やだよ! あれは着たくない」
おねえちゃんの誕生日で貴音は、着ぐるみパジャマと一緒に「ある服」をプレゼントしたのです。それは明日、貴音の復讐のためだけに着てもらうのです!
「ふぇええええん! まだ頭が痛いのですぅううううっ!」
「わーったよ! 着りゃいいんだろ着りゃ……」
これでオッケーなのです! 明日は貴音の「復讐劇」が始まるのです!!
貴音なのです。おねえちゃんを起こす……は原点回帰なのです!




