妹が学校でいわれなき差別を受けた(いづみside)解決編
「す……捨てられたのよ!」
差別的な発言を繰り返してきた代替教員の長沢真秀良であったが、大学時代の先輩だった母・茅乃の登場で事態は急展開する。
次々と茅乃に過去を暴露された真秀良に黒人の彼氏がいたことが判明。なぜ結婚しなかったのかと聞かれた真秀良は、声を震わせながらこう告白した。
「えっ、何でー? あんなオープンに付き合ってイチャイチャしてたのに……ねぇ何で何でー!?」
明らかに触れられたくない雰囲気の真秀良に対し、まるで傷口に塩を塗るように茅乃が聞いた。コイツの辞書には「容赦」という言葉が載っていないらしい。
「アイツ……彼氏がいたのよ!」
――えっ、彼氏? 彼女じゃなくて……ってことは、
「バイ(セクシャル)だったの! いえ……正確に言うと限りなくゲイに近いバイよ! つまり私のことは完全に遊び! 箸休めだったのよ!」
さっきまで茅乃に怯えブルブル震えていた真秀良は、今度は別の感情でわなわなと震え出した。
「私がそのことを知った日、逃げるようにアメリカに帰っていったわ! その彼氏とラブラブでね……完全にもてあそばれたわ!」
えっ!? てことはまさか……
「だから私は……外人が大っ嫌いなのよ! 同性愛者も大っ嫌い!」
――ただの『八つ当たり』じゃねぇかぁああああああああっ!?
「くそぉ! 何がグローバリゼーションよ! 何がLGBTよ! ざっけんな! 毛●とホ●は日本から出ていけーっ! お前らまとめてF●●Kだ! F●●K Y●Uだぁああああっ!」
真秀良は中指を立てて教育者として絶対にやってはいけないポーズを取ると、絶対に言ってはいけない言葉を連呼した。あーもうコイツ終わったわ。
そんな興奮状態の真秀良に対し、ついに茅乃は『とどめ』を刺す! 茅乃は立ち上がると、対面している真秀良の元に歩み寄り肩に手を回した。そして普段より一段低いトーンで、
「なぁ真秀良、ウチの娘がずいぶん世話になったみてーだが……これ以上やったらどーなるかわかってんだろーな!?」
「ひっ!?」
興奮状態で真っ赤だった真秀良の顔は一気に真っ青になった。
「剣道部の仲間集めて久しぶりにOG会しよーぜ! 今度は校長先生を特別ゲストに呼んでさ……オマエに関する思い出話、まだまだ話し足りねーからゆーっくり話し合おうじゃねーか」
「ひぃいいいいっ! ご、ごめんなさい……」
半べそになった真秀良はその場でうなだれた。
茅乃は絶対敵に回してはいけない……私はそう心に誓った。
※※※※※※※
「さっ……いづみ、帰るよー! 校長先生ー、失礼しましたー!」
どうやら失礼なことを自覚していた茅乃は、意気揚々と校長室を後にしたので私も校長に一礼してから出ていった。
校長室を出ると、そこには
「あっ貴音ママ! お姉さんも……」
妹の友だちで双子の天ちゃん空ちゃんと、数人の女子生徒が妹を取り囲むようにして立っていた。授業が終わり放課後になっていたようだ。
「おぉ天空じゃねーか! 美玖に都々美たちも来てんじゃん!」
この子たちは全員、妹の小学校からの友人だと茅乃が教えてくれた。今回の妹の騒動が心配で集まってきたらしい。
「貴音ちゃんから聞きました! 長沢先生をやっつけたんですよね!? あの先生には私たちも迷惑してたんで助かりました」
「ました」
実際は茅乃が脅しただけだが……。妹の表情に笑顔はなかったが、それでも友だちに囲まれて不安は払拭されたように見える。
「でもお姉さん……ヘンですよね」
「えっ、何が?」
「あの先生、何でそんなことが気になったんですかね? 私たち、貴音ちゃんの髪の色なんて今まで気にしたこと一度もなかったのに」
「なかったのに」
「ホントだよ!」
「ねー」
――そうか!
――そうなんだよ!!
髪や目や肌の色の違いなんて、小さいうちからそういう環境に居れば誰もおかしいと思わないんだ!
差別なんてのは、自分を優位に立たせたい大人たちが根拠のないものにまで優劣をつけようとする「言いがかり」なんだ!
そんな頭の悪い大人たちより、この子たちの方がよっぽど「お利口さん」だ!
「ところで……校長室から聞こえてきた『ガバガバ』って何ですか?」
「何ですか?」
「さ、さぁ……何だろうね? あははは」
――茅乃ー! 何かあったら責任取れよー!
「貴音ちゃん、天空たちと帰るか? 天空たち、貴音をよろしく頼んだよ!」
「はーい! 行こっ貴音ちゃん!」
茅乃からそうお願いされた天ちゃんたちは、妹を連れて仲よく帰っていった。
※※※※※※※
それから数日後、
「貴音ちゃんがカフェに復帰したらまた忙しくなってきたよ」
週末の夜……私は妹とお風呂に入っていた。
「貴音もジムのお姉さんたちと仲よくなったのです!」
妹は元気を取り戻していた。そういやあれ以来、学校の様子はどうなったんだろう? 妹は触れたくないかもしれないが、あれから毎日学校に通っているので聞いても問題ないだろう。
「そういえばさ、あの長沢って先生どうなったの?」
普通ならクビだろう……校長の前であれだけの醜態を晒したんだからな。
「まだいるのです」
「えっ、いるの!? クビじゃねーのかよ」
「人材不足だそうなのです」
……甘々だな妹の学校。
「でも今度から二年生の担当になったのです。代わりに二年生を担当していた先生が貴音のクラスに来たのです」
そりゃ向こうもやりづらいだろう。
「でも昨日、廊下でバッタリ会ったのです! そしたら貴音の顔を見るなり逃げていったのです……あれ? おねえちゃん、何で笑っているのですか?」
こりゃ相当ダメージ受けたな! ま、自業自得なんだけど……。
またいつも通りの妹になった……よかったよかった!
……って、よくねぇよ!
「じーっ」
「こっ、こら! そうやって人のおまたをガン見するな!」
VIO脱毛の事前準備で剃って以来、妹は私の陰毛が生え揃うまで「観察日記」をつけると言っていた。この間までそれどころじゃなかったのだが、再び妹の変態行為が復活してしまった。
「ふむふむ、だいぶ成長したのです」
「やめなさい! 人をアサガオみたいに見るな!」
「おねえちゃん、髪の毛は茶色なのにおまたの毛は黒いのです♥」
「そっ、そりゃ髪は染めてるから……!?」
このとき、私はあることに気づいた。
「ねぇ貴音ちゃん、貴音ちゃんは髪が銀色だよね?」
「? そうなのですが……」
「黒髪のおまたに黒い毛が生えるんだったら……銀髪のおまたには銀色の毛が生えるってことなのかな?」
「……へっ?」
「貴音ちゃんばかり観察するのは不公平だよね? 貴音ちゃんのおまたに銀色の毛が生えるかどうか、お姉ちゃんにも観察させなさい」
「たっ、貴音はまだ生えていないのです! イヤなのです! おっ、おねえちゃんは……おねえちゃんはヘンタイおっぱいさんなのでーす!」
「うるさいよ! 同じことやってるアンタだってヘンタイさんだしおっぱい関係ないだろ!? さぁ! お姉ちゃんに見せなさーい!」
「イヤなのですぅううううっ!」
この日を境に、妹は私の「観察日記」を止めた。
貴音なのです。……で、ガバガバって何なのです?




