表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶の献花  作者: 流風
5/7

5.第二王子エルシュオンの誕生

 




「はじめまして殿下。旅芸人のアリスと言います」


 レイモンドと演劇を見に行った翌日、アリスは王城へと赴いていた。

 通常、国王であるユリウスを目の前にすると浮かれて熱視線を送るか緊張してただひたすら震えるかのどちらかだ。

 だが、このアリスという旅芸人は何の感情も見せず、淡々と挨拶をおこなった。



 国王ユリウスは、女性の能力や人柄よりも、肢体の美しさや容姿の美しさの方にどうしようもなく惹かれてしまうタイプだ。

 ただし、アリスに出会った時だけは例外だった。アリスが美しい女性でなかったわけではない。それどころか、それまでにユリウスが出会ったどの女性より、美しかった。その肉体も、程よく肉がつき均整のとれた肉体も艶めかしい黒髪も美しいとユリウスは思った。

 ただ、それらの美徳がどうでもよいと思えるほど、アリスは知的であり、聡明でありその凛とした意志の強そうな表情も魅力だった。ユリウスはそれに心奪われた。


 旅芸人であるアリスは自由気ままに各国を見て周り、その地方の食べ物や文献、風習に触れるのが好きな明るい女性だった。そして旅芸人の人気女優だった。小国とはいえ一国の王であるユリウスからすると身分違いであり、既に正妃も迎えていたにも関わらず、平民のアリスに興味を持った。しかしアリスは今の生活に満足していたため、ユリウスの思いを拒絶してしまった。

 ユリウスは見目が良い。しかも王族。今まで女性から拒絶されることなど無かったため、矜持を傷つけられ激怒した。アリスに対しては興味よりも意地……手に入れなければ沽券に関わると思い意地になった。権力を振り翳し嫌がるアリスを無理矢理手篭めにしたのだ。



 そして、正妃が第二王女であるメリオーラを出産した一年後にアリスは第二王子エルシュオンを出産した。




 ◇◇◇



 それからのアリスとエルシュオンの生活は過酷なものだった。正妃からの嫌がらせ。王城では居場所はなく、肝心の国王ユリウスも、正妃や貴族の手間、見て見ぬ振りをしていた。

 アリスは可愛い。だが、自分に興味を持たぬアリスは憎たらしい。平民のアリスを庇い正妃の怒り、正妃の実家であるキルウィン国の怒りを買いたくはない。どうせアリスはどこにも逃げ場はないのだからと、泣きながら助けを求めてくるまで放置することにした。


 後宮での生活は暇だ。刺激が足りない。正妃からアリスへの嫌がらせは『暇つぶし』『ストレス発散』といった意味合いもあったのだろう。小さな事から徐々に徐々に命に関わる事へとエスカレートしていく。



「アンジェリカ様より宴への招待がありました。今すぐ会場へとお越しください」


 正妃アンジェリカ付の侍女の突然の『命令』。平民とはいえ側妃に対する対応ではない。


「……私にも準備があります。突然のお誘いは受けかねます」


「平民風情がアンジェリカ様の誘いを断るとは、何たる無礼!貴女は言われた通りにしていればいいのよ!」


 侍女数名に引きずられるように宴の席へと連れていかれるアリス。


「あらあら、やっと来たのね。まぁ、あなたその服装はどうしたの?これだからドブネズミは……」


「あなた、役者をしていたのでしょう?歌って踊っていらしたと聞いたわ。そこで歌ってごらんなさい」


「まぁ、下品な歌と踊りね」


「優雅さのかけらもないわ」


 クスクスとアリスに聞こえるように悪口を言い、それを肴に酒を嗜む。女性の集団による嫌がらせはネチネチとタチが悪かった。

 侍女達も貴族出身者ばかりであり、正妃の後押しと見て見ぬ振りをする国王。アリスに対しては何をしても良いと思い込むようになっていった。そんな中、エルシュオンを出産する。アリスは一人必死にエルシュオンを守り続けた。


 エルシュオンが8歳の頃、アリスが風邪をひき寝込んでしまった。日頃の無理が祟ったのだろう。

 その際に正妃は宮廷付きの薬師に命じて毒薬を調合させたのだ。普段から王城の者にも気を許さず警戒していたアリス。風邪で寝込んでいた状態では、その警戒もできず、死んでしまった。

 周りの者には病が悪化して死んだように装っていたが、事情を知っている者達は正妃が関係していると察していた。


 8歳のエルシュオンも母が毒殺されたと勘づいていた。


 しかし、子供のエルシュオンに母が殺されるのを阻止する術はなく、また、何の後ろ盾もないエルシュオンには母が殺されたと訴える術もなかった。


 アリスが亡くなったと聞き、ようやく自分の失態に気づいたユリウスが、アリスとエルシュオンの部屋に訪れた時には、もう何もかも遅かった。


 一人部屋に佇むエルシュオンの、あの日のユリウスを見つめる目を忘れる事はないだろう。



 その後、常々アリスとエルシュオンを不憫に思い気にかけていたレイモンドがエルシュオン見習い騎士として騎士団に引き取った。エルシュオン本人も入団を希望し、ユリウスができる事は入団を許可する事しか出来なかった。


 金軍副団長となっていたレイモンドは自分が誘った観劇が事の発端だとアリスやエルシュオンに負い目を抱いていた。せめて王城から遠ざけようと、過酷ではあるが【赤騎士団】にエルシュオンを預ける事を提案。平民だらけで危険な赤騎士団への入団は正妃達から反対意見が出ることはなかった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ