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追憶の献花  作者: 流風
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1.エピローグ

 


 ジェクトという名の小国がある。



 この世界は5つの大陸と3つの島国で構成されている。

 ジェクト国はその内の一つの大陸、5つの大陸の内で一番小さいギフィア大陸の西側に位置し、

 北方にダダリム山脈

 東方に隣国とまたがるミーム川

 西方に広大な海洋

 南方に通称『精霊の森』や『聖域』と呼ばれるアルトノ大森林を有する、近隣諸国の中でも国土は広いがほぼ自然に占められた平和で自然豊かな小国がジェクト国だ。


 他国からの侵略を受けにくい地形により、ここ数百年は大きな争いも無い。


 国民の大半が農林水産業で生計を立て、それらを販売するために条約を結んで他国と通商を行っている。

 ジェクト国の西にある港町には、国営の貿易港も数カ所有していて、他国との交易を積極的に行っている。


 食べ物が豊富で、娯楽は少ないが豊かなジェクト国には、その噂を聞きつけて諸外国から出稼ぎにやってくる人々も多い。




 ジェクト国はもともとは、周りと差のない一小国に過ぎなかったが、前国王に代が変わるや否や貿易に力を注いだ。港を整備し海路を築いたのだ。

 そして、現国王に代が変わると前国王が手を出そうとしなかった『聖域』や『精霊の森』と呼ばれている森を開拓し、あっという間に領土を広げ、農耕に力を入れてさらなる富を掌中に収めていった。


 周辺諸国が王位継承権を巡る内紛や内戦によってしばしば弱体化する中、急速に繁栄を続けてこられたのは、二代に渡る国王の卓越した政治手腕のおかげだと語る者は多い。




 昔から、ジェクト国は海と森に囲まれた自然豊かな国だ。しかし、他国の上層部の者達の中には『呪われた国』と呼ぶ者もいる。それは国の北方の山脈と南方の森から頻繁に魔物が出現し、他国と比べ多くの魔物との忌むべき戦いが打ち続いているからだ。


 昔は精霊の守護下にあり、ジェクト国民の中で加護を受けた者は精霊魔法が使えたという言い伝えがある。その魔法を使い魔物を撃退していたというが、現在、魔法を使える者も精霊を見た者もおらず、昔話とされている。


 魔法などというのは御伽噺に出てくるだけで、現実には魔物を撃退するための派手で強力な魔法など存在しない。剣術や槍術で戦うしかないのだ。




 そんなジェクト国の南東部に王都があり、南部には海岸付近まで広がる『精霊の森』と呼ばれる聖域がある。聖域と呼ばれる不可侵の森であり、また広大な森と山脈があるため、南部にある隣国から攻め入られた事は一度もない。


 そんな自然の『守りの壁』に囲まれたジェクト国は昔から人との争い事の少ない平和な国だ。

 そのかわりとでも言うように、魔物の群れによる被害は多発している。


 しかし、手練れが揃うジェクト国騎士団の活躍により、魔物被害は抑えられていた。


 そんなジェクト国を守護する騎士の数は多い。

 諜報部門である【黒騎士】

 各街を守る【青騎士】

 魔物討伐を専門とする【赤騎士】

 城内警護を主とする【白騎士】

 王太子専属騎士団【銀騎士】

 国王専属騎士団【金軍】


 その中でも魔物討伐を専門とする【赤騎士】は由緒も謂れもない平民の出の者がほとんどだ。王城へ赴く事はまずなく、外壁付近に詰所を構え、森や小さな村などへと出て行く。日々戦いの中に身を置く部隊のため、全騎士団の中でも身分はないが実力者が揃っているのが赤騎士団だ。


 そんな優秀な騎士達の守護の元、国の平和を守り続けていたが、現在、ジェクト国に住む全ての人々は、この平和に翳りが見えてきているのを危惧している。


 近年、国を悩ませる、『ある問題』が発生し、他国と戦争へと発展しかけていたからだ。





 そんなジェクト国の現在の王は、名をユリウス・ブラウンシュヴァイクといった。




「精霊王の力だと?」


 ジェクト国国王ユリウスは、驚きと疑いの入り交じった目で、正面に立つ学術師団師団長の顔を覗き込んだ。


「さようです」


 師団長は静かに答えた。


 この師団長、大陸中に名を轟かせるほど博識で有名な男である。知識を深めたり、原因の解明に当たったりと、しつこく粘り強く追究するのがとにかく好きな男だ。この男が今興味を持っているのが、ジェクト国にある『精霊の森』だ。

 精霊の森は人があまり入り込まなかった為、自然豊かな森には独自の生態系がある。御伽噺に出てくる『精霊』の謎も学者にとっては研究したい魅力の一つだった。

 この男がジェクト国王家の管理下にある精霊の森の研究をしたいと言ってきた時に、国王ユリウスは二つの条件で承諾をした。


 条件1

 ジェクト国の研究・開発機関である学術師団に入る事。


 条件2

 王子皇女の家庭教師を務める事。


 国王への助言・進言を行うのも仕事ではあるが、基本的な業務内容が研究であり、精霊の森の探索も業務内容の一つ。国の管理下にある森林のため、学術師団に入団する事を条件とし、秘密を漏らさないようにとの国王の意図も、それもそうだなと男は納得し、快く入団したのだ。



 そんなジェクト国は問題を抱えていた。


 領土を広げ国力が増しつつあるジェクト国。そのせいで目をつけられたのか、他国からの圧力が強くなり始めたのだ。

 さらに森を開拓した結果、棲家を追われた魔物達が街や村を襲う事案も多発。


 国王として、国のためにした事が、国を脅かし始めたのだ。


 防衛の要である騎士団は魔物相手に手一杯。

 騎士団以外の防衛の要を考えるよう、学術師団師団長に指示していたが、師団長が持ってきた話は『昔話』だった。


「まさか、妖精王に頼るしかないとはな」


 国王ユリウスは執務机の上で頭を抱え深いため息をついたのだった。







 《妖精王ペリの物語》

 その昔、冬なのに雪がまったく降らない年があった。

 雪解けの水は春になっても流れることはなく、また春が過ぎ夏になっても雨も降らなかった。

 川から水が流れず作物は枯れ、ギフィア大陸は大飢饉に見舞われた。山の実も採れず、人間だけでなく魔物も動物も飢えに苦しむ日々が続いた。

 そして小さな村々から飢え死にの噂が相次ぐようになったある日、突然ジェクト国王城に、妖精王ペリが現れ、こう告げたのだ。

「私の力すべてを捧げ、皆様に水の恵みを捧げましょう」

 美しい妖精王ペリが両手を合わせ光り輝いたかと思うと、空に雨雲が広がり、川へ大地へ恵みの雨を降らせた。

 その後、精霊王ペリの姿は見えなくなった。大陸を救った精霊王が住んでいた森は「精霊の森」と呼ばれ大切にされ、日照りの時に祈りを捧げると必ず雨が降ると言われるようになった。


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