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二人の出会い

 穏やかな陽が差し込む朝。

 ヨミは自室のベッドで微睡んでいた。浮上する意識と眠りの間。この感覚に抗えず、ついつい堪能してしまう。

 この時間は夢を視ることもあれば、過去の記憶を視ることもある。 



 ぼやけていた光景が鮮明になっていく。あれは……



 過去を変えられる宝石探しの途中。まだカフェはなく、人の姿で宝石を探し世界を渡り歩いていた頃。

 なぜか、成り行きでこの国の王を助けてしまい、王城に招待された。

 普段のヨミなら、礼などいらない、と逃げるのだが。今回は王都のどこかから宝石の気配を感じており、探索のために王からの歓待を受け――――――――


 子どものロイと出会った。


※※


 王城にある絢爛豪華な広間。その輝きに負けず劣らずの煌めきを放つ少年。

 どんな銀細工よりも繊細な銀髪。宝石よりも透き通った青水晶の瞳。もっちりとした子どもらしい柔らかそうな肌。

 幼いながらも眉目秀麗な顔立ちで、大人びた笑みを常に浮かべている。

 そんな十歳の子どもの態度に驚きより虚しさを感じた。


 子どもらしくない子どもは、壮年の紳士のような落ち着きでヨミに挨拶をした。


「初めまして、お美しい方。私はロイロ・アルジェッタ。アルジェッタ王国の第一王子です」


 ロイの態度にヨミは素直に驚いた。たいていの人は自分を前にすると赤面したり、呆然として言葉が出ない。


 ヨミはこの国の礼儀に倣い、軽く膝を折った。


「初めまして、第一王子。私のことはヨミとお呼びください」

「名はそれで全部ですか?」


 王族に敬称しか名乗らないなど言語道断。不敬罪になるところだが、ヨミは微笑みながら頷いた。


「今の私には、その名しかございません」


 憂いを帯びた流し目を周囲に向ける。訓練された護衛の騎士ですら、仕事を忘れヨミに見惚れた。

 しかし、ロイに効果はない。


「今、ということは、昔は他にも名があった、と?」

「……そうかもしれません」

「断言しないのは何故だ?」

「その頃の過去は遠すぎて、忘れました」

「自分の名を忘れた、と?」

「はい、ロイロ王子」


 ロイがここで初めて感情を顔に出した。あからさまに眉間にシワを寄せ不機嫌になる。


「私のことはロイと呼べ」

「まぁ、誰もが知っているアルジェッタ王国の始祖王と同じ名誉ある名なのに?」


 ヨミのワザとらしい言い方にロイの片眉が上がる。


「私は始祖王ではないからな」


 そう断言すると、ロイは笑顔でヨミを睨んだ。ヨミも笑顔で応える。見えない火花が二人の間で弾け飛ぶ。

 牽制し合う二人を見かねた王が仲裁に入り、別の話題へと移った。



 それから数日後。



 城内を一通り探索して、宝石がないことを確認したヨミは裏庭を散歩していた。


「気配はあるのに……明日からは城下町を探そうかしら」

「ナニを探している?」


 突然、声にもヨミは驚くことなく振り返った。背後には予想通りロイがいる。


「あら?」


 想定外だったのはロイが一人ということ。王城内とはいえ、従者を一人も付けずに歩くことなど普通ではない。何か意図があるのか。


 ヨミは軽く警戒しながら話した。


「人の後をつけるのは、良い趣味とは言えませんよ?」

「城内を勝手に散策するのも良い趣味とは言えないと思うが?」


 人を喰ったような笑顔のロイにヨミも微笑み返す。


「王の許可は得ています」

「武器庫や宝物庫までは許可されていないはずだが?」

「あら、私がそんなところまで散策したという証拠があります?」

「私が見たといえば、それが証拠になる」


 権力者が白と言えば、どんな黒でも白になる。そんな光景は何度も見てきた。

 そうなれば宝石探しどころか、罪人として追われることになる。普段なら問題ないが、宝石を見つけるまでは面倒事を避けたい。


 ヨミは腰を屈め、ロイと視線を合わせた。


「では、いつ見たのか教えていただけます?」

「三日前の昼下りに宝物庫に入る姿を見た」

「……三日前」


 ヨミは黄金の瞳をスッと細める。ロイの顔を見つめながら、どこか遠くを覗く。


「三日前の昼下りでしたら、私は王城の庭を散策しておりました。その時に、白髭の庭師と左腕に傷がある庭師と会話をしています」

「だが、その後に……」

「なにより」


 ヨミはロイの言葉を塞ぎ、焦点を青水晶の瞳に合わせた。なぜかロイの頬がほんのり赤くなる。


「王子はその時間、隣国の大使と面会をしていましたよね? 反対側にある宝物庫にいたという私を見かけることは不可能だと思いますが?」


 ロイは平然と訂正した。


「失礼。どうやら、私の記憶違いだ。見かけたのは二日前……」

「二日前の昼下りは王妃にお茶を誘われ、私は夕方までそこにいました」

「いや、昼下りではなく……」


 ロイが怯むことなく話を続けようとしたが、ヨミはそれを遮った。


「これ以上は王子の立場が悪くなるだけですよ。今までは、その頭の回転の早さと権力で対応していたのでしょうが、今回は分が悪いと思います」

「そのようだ。貴女の記憶力には参った」


 ロイが悪びれることなく爽やかに笑う。しかし、目は笑っていない。


(また、こんなことをされても面倒、ね)


 いつもなら人との関わりは最小限にする。だが、今は好印象にしておいた方が、この国の中では動きやすい。

 ヨミは軽くため息を吐くと、両膝を地面につけてロイを見上げた。


「王子、あなたが何故このようなことをしたのかは分かりません。ですが、あまり大人を……いえ、人を甘く見ないほうがいいですよ」

「説教、か?」

「どう捉えるかは王子次第です。ただ、今のように心を固くして、他人を拒絶したり試すようなことをしてはダメです」


 ロイの目が驚いたように丸くなる。ヨミはロイの左手を両手で包んだ。


「あなたが望まなくても、これから様々な人と出会い、中にはあなたを傷つける人が現れるでしょう。その時、どんなに頑丈な心でも、少しずつ疲弊し、ヒビが入り、いつか割れてしまいます」

「……では、どうしろと?」

「心を柔らかくするのです」

「柔らかく?」

「はい。柔らかく受け止めるのです。そうすれば、ヒビが入ることも、割れることもありません」


(私のように、壊れかけた心の一部を凍らすことにもならない)


「心とは、そんなに簡単なものではない」


 ロイは顔を背けたが、ヨミの手は振り払わなかった。あと一歩、と読んだヨミは大きく頷いた。


「もちろん、簡単ではありません。ですが」


 切れた言葉が気になったロイが横目でヨミを見る。


「あなたなら出来ます」


 ヨミの笑顔にロイの顔が噴火したように赤くなった。


(あら、怒らせた?)


 平民の不躾な言葉の連続に、ロイが怒りで顔を赤くしたと思ったヨミは手を離した。


 が、逆にロイはヨミの手を掴んだ。


「ロイロ」

「え?」

「ロイロ、と呼んでください。あと、敬語もいりません」

「いや、あの……」


 嫌な予感がしたヨミは逃げようと立ち上がった。が、しっかりとロイに両手を握られ、動けない。


「今までも、いろんな大人が私の態度について説教してきました。ですが、それは国や王家のため。私自身のことを考え、助言した人はいませんでした」

「ちょっと、待って……」

「聡明で慈悲深い貴女が気に入りました。もっと、いろいろ教えてください」

「あの、そういうつもりは……」


 断ろうとしたヨミを青水晶の瞳が射抜いた。


「探しモノ」


 ヨミの肩がピクリと動く。まさか、ここで振り出しに戻るとは思わず。

 しかも、ロイからの提案は予想外のもので。


「私を利用した方が早く見つかると思いません?」


 自分を餌にするとは。


「転んでもタダでは起きないタイプ、ね」

「どうでしょう?」


 そう言って笑ったロイの顔は子どもらしく無邪気だった。


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