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黒猫になった甦りの魔女と子どもになった腹黒な元王子は不処カフェで宝石を待つ  作者:


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13/34

ヨミの過去

 先程まで室内だった場所が一瞬で屋外に変わった。


 天井が消えた頭上には憎らしいほど清々しい青空。大きな石を組んで造られた階段状の物見席。そこに集まり賑わう民衆。


 ヨミたちは幻影とは思えぬ光景を前にしていた。


 眼下には円形に囲われた頑丈な石造りの塀。その先には赤土が敷き詰められた、騎士や兵たちが訓練する闘技場。

 普通なら風が吹くと、埃が巻き上がり土の臭いがする。だが、それらは一切なく、現実ではないと感じる。


 そんな闘技場の中央に設置された火刑台。そこに人の姿をしたヨミが魔力封じの鎖で縛られていた。

 恐れも怯えもなく、諦念を帯びた笑みを浮かべている。


 これから処刑されるとは思えぬヨミの様子に囁く群衆。そこに少年の怒号が響いた。


『離せ! 私は(たぶら)かされてなどいない!』


 物見台の中でも一番壮厳な席。そこで十五歳ほどの少年が、魔力封じの魔法陣の中で、数人の騎士に抑えつけられていた。


 鮮麗な宝飾品より艶やかに輝く銀髪。知的で普段は冷徹な青水晶の瞳。通った鼻筋に、薄い唇。中性的で端正な顔立ち。


 しかし、今はその面影がまったくなかった。


 銀髪を無惨に振り乱し、青水晶の瞳を怒りで燃やす。顔は悪鬼のごとく歪み、その変わりように誰もが目を逸らす。


『ヨミはなにもしていない! 私はなにもされていない!』


 暴れる少年に男が近づく。一部の乱れもなく撫でつけた白金の髪。目元のシワの先にある深い紺碧の瞳。通った鼻筋と薄い唇は少年と似ている。

 身につけている品はシンプルながらも一級品揃い。だが、服装など関係なく、佇むだけで威厳と存在感に溢れている。


 男が少年に哀れみの声をかけた。


『ロイ。おまえは魔女の魔力に惑わされているだけだ。処刑が終われば、正気に戻る』

『私は正気です! 王! いや、父上! どうか! どうか、慈悲を!』


 王が軽く頭を振る。


『聡明で賢く、我が後継ぎとして多大な期待をしていたが……全てはあの魔女が原因。刑を執行せよ!』


 号令と同時に、火刑台が炎に包まれた。

 熱風とともにヨミの長い黒髪が天へと昇る。白い肌は煤で汚れ、罪人が着る黒い服が灰となり崩れ落ちていく。


 その光景に青年のロイの足が動いた。


「無駄よ」


 黒猫のヨミはロイの肩に飛び乗り止めた。


「これは過去の幻影。触れることも、変えることもできない」


 ロイがゆっくりと肩に視線を向ける。揺れる青水晶の瞳にヨミの胸が痛む。


「本当にあったこと、ですか?」

「……えぇ」


 これ以上、ロイを直視できないヨミは視線を伏せた。ヨミとの記憶を失くしているロイには身に覚えがない光景。だからこそ、信じられず衝撃も大きい。

 ロイが剣を持つ手に力をこめる。指の間から血が滴り落ち、床に赤い花が咲く。


 ロイは黙って幻影に視線を戻した。


 迫りくる死を前にしても火刑台のヨミは慌てることなく、少年のロイを見つめる。炎の隙間から黄金の瞳が柔らかく微笑んだ。



「『ヨミ!』」



 過去と現在のロイの声が重なる。



 刹那。



 晴天を黒雲が喰らい、稲妻が駆け、雷鳴が割いた。突然の荒天に人々が慌てふためく。

 喧騒の中、旋風に煽られた炎が火柱となり、ヨミの体は朽ちた。


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