気になるクラスメイトとテスト結果
2年に進級し、2か月ほど経った。今日から前期中間試験の返却が行われる。正直、地獄でしかない。私は勉強が周りの人たちと比べて苦手だからだ。1年生の時はどの教科も平均点の20程下の点数を取っていた。今回も多分そんな感じだと思う。
授業開始の合図であるチャイムが鳴って、数学の先生が入ってくる。その手には茶色い封筒。それを見た生徒は「あ゛ーー」とか「返さなくていいですー」とか言っている。まあ、そう言っているのは自信がない人で、自信がある人は黙って返ってくるのを待っているのだろうけど。
先生が黒板に平均点を書き、それに「高い高い」とか「みんなそんなにできたの⁈」と声を上げる恒例行事を終えて、先生が名前を呼び出す。
「伏見~」
「はい」
「はい、次はもう少し頑張るように」
「うっ、はい……」
折りたたまれた状態で渡された答案を自分の席に戻ってから開く。伏見穂乃という名前の横に燦然と輝く41。平均点は61.3点なので大体平均の20点下。まあ、予想通りではある。
「穂乃~。どうだった?」
「い、言いたくない」
「絶対悪かったやつじゃん」
「そういう亜理紗はどうだったの?」
「ふふふ……あたしは~、じゃん!53~」
「負けた……」
「何点だったの?」
「よ、41」
「あー、高1の時とあんま変わってないね」
「うう~。結構頑張ったのにぃ」
「ほらー、席に着けー。解説するぞー」
先生の声に反応して亜理紗が席に戻っていく。
私は何気なく隣の席の中尾君の方に目を向けた。中尾君。中尾蒼汰君。最近気になっている隣の席の男子。中尾君は誰かといるときは普通なのだけど、一人の時はいつも何かをしているとても努力家な人だ。一度中尾君がスマホをいじっている時に、ゲームでもしているかはたまたツイッターでも見ているのかと思って後ろから覗いてみら英単語を見ていた。最初は休み時間まで勉強しているなんて変な人だと思ったけれど、その真剣な目に引き込まれてしまい、その日からついつい目で中尾君を追ってしまうようになってしまっていた。
そんな中尾君は何点何だろうか。やっぱり高いんだろうなあ。さっき、中尾君の友達が来てびっくりしてたし。
なんて思いながらばれないように中尾君の手元に目線を持っていく。目に飛び込んできた数字は……95。え……
「すご……」
「ん?」
「あっ」
しまった。つい口に出てしまった。てか何95って。最高得点なんじゃないの?私と50点以上差あるし。
「いや、ごめん。点見えちゃって」
「いやいや、大丈夫だよ」
まあ、そりゃ、大丈夫でしょうね。少なくとも私よりは。
そんなこんなで先生は解説を進めていく。のだけど……わからん。全然わからん。こうなってしまうと、逆に暇になってしまう。中尾君に目を向けると、普段の授業と同じように真剣に先生の解説を聞き、ノートをとっていた。その真剣な顔は何というか、とてもかっこよく見えて、自然と目が釘付けになってしまった。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。だというのに、中尾君はノートに何かを書いている。……本当に努力家なんだなあ。凄いなあ。
「?……どうかした?」
「え?」
「え?」
本当にずっと中尾君を見てしまっていたらしく、中尾君に声をかけられた。えっと、なんて言おう。君を見てましたなんて絶対言えないし……。
「えっと、いや、なんでもないよ?」
「その割にはやけに視線を感じるんだけど……。あ、もしかして寝ぐせついてたとか⁉」
「いやいや、本当に何もないって」
髪をなでながら中尾君がこちらを見てくる。若干の疑いを含んだような目で。ど、どうしよう……。絶対ずっと見てくる変な人だと思われてる。というか見てるのばれてたのか……。なんかいい言い訳はないだろうか。このまま変な人だと思われてるのは嫌だし……。
「そうだ!……その、勉強教えてくれないかな?」
「え?」
「いや、テスト凄い点良かったからよければ勉強教えてくれないかなーと思って」
うん。なかなかいい言い訳じゃない?それっぽいよね。教えてくれるなら、うれしいし。
「それはいいけど……そんなにヤバかったの?」
「うっ……これ……」
「……ありゃりゃ」
「勉強……特に数学苦手なんだよお」
「そうみたいね……。まあ、わからないことがあったらいつでも聞いてよ。答えられることなら答えるし」
「良いの?めっちゃ聞くよ?私」
「良いよ。まあ、俺も答えられるかはわからないけどね」
やった!正直、私なんかに時間を割いてくれないと思っていたのに、いつでも聞いていいって言ってくれた。これを機に仲良くしてくれたらいいな……。
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「蒼汰君!見て!」
「おー、良いじゃん」
「蒼汰君のおかげだよ!ありがとう!」
「いやいや、頑張ったのは伏見だよ。よかったね」
「むぅ……」
私の手には返却された数学の前期期末試験。名前の横に書いてあるのは82という数字。今回のテストの平均点は60.4点だったから平均の22点上!大躍進!なのはいいのだけど……
「え、ど、どうしたの?」
「……呼び方」
「ああ……えっと、良かったね、ほ、穂乃」
うんうん。約束はちゃんと守らないとね。
中間テストから2か月くらい経って、私と蒼汰君はかなり仲良くなったと思う。蒼汰君のことをたくさん知った。蒼汰君は数学が得意だけれど、好きなのは歴史系らしい。数学はもともと苦手だったからその分頑張ったら得意教科になったとか。スポーツは体育でやらないものはあんまりできないらしい。でも、毎日朝にランニングをしていると言っていたし、体力はかなりあるみたい。勉強も運動も頑張ってるなんて過ごすぎない?あと、妹がいるらしい。結構仲がいいのだとか。むぅ……。
私は、この期間で一緒に勉強したり遊んだりしているうちに蒼汰君のことが完全に好きになってしまった。
馬鹿な私に、ちゃんとわかるまで勉強を教えてくれる、優しいところが好きだ。努力家で何にでも全力で取り組むところがかっこよくて好きだ。ふとした時に見せる笑顔がかわいくて好きだ。好きで好きでしょうがない。
約束というのは数学の試験で80点以上取ったら何か一つ言うことを聞くというもの。それで名前で呼んでほしいということを言ったのだ。実は少し前に名前で呼んでほしいということをいったら渋られてしまい、今回テストのご褒美で!と言ったらOKをくれた。
「うん!これは打ち上げを開かないとね!今日暇?」
「暇だけど……まだ残りの教科返ってきてないよ?今日返ってくるのはあと3教科だけだし」
「そしたらまた明日打ち上げいけば問題なし!」
「残念でした会にならないといいね」
「ふふふ。今回は全教科ある程度自信あるからね!」
「それは良かった。何か1教科でも勝ったらって言ってたほうもいけそう?」
「……ということは、数学は82点より上なんだね」
「俺もなんかご褒美ほしいからね」
そう言って蒼汰君が見せてきた答案の名前の横には95と書かれている。やっぱりすごいなあ。
ご褒美というのは、これまた一緒に勉強していた時に決めたことで、何か1教科でも私が蒼汰君に勝てたら蒼汰君が私のお願いを、全教科蒼汰君が勝ったら私が蒼汰君のお願いを聞くというものだ。……蒼汰君が欲しいご褒美って何だろう。はっ……へ、変なことをお願いされたらどうしよう。いやでも蒼汰君なら……。いやいや流石にそれは早すぎるよ……ふふ。
「ふ……穂乃?」
「はひ⁉な、何?」
「いや、急に黙りこくっちゃったからどうしたのかと」
「あ……いや、なんでもないよ」
「そう?」
「あ、次の授業の準備しないとね」
はあ、いきなり名前で呼ばれるの心臓に悪いなあ……。いやいや、自分でお願いしたことなんだし慣れないと。……今絶対顔真っ赤だよ。今度から名前呼ぶときは申告してからにしてもらおうかな……。
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結局今日返ってきた教科は、全部蒼汰君が勝った。でも本命の日本史は明日返却だからまだわからない。取り敢えず、今日はテスト結果良かった打ち上げとして、ファミレスで一緒にご飯にしようということになってる。今日はテスト返却で授業が午前中で終わりなので、ちょうどいいから一緒に昼ご飯にしようというわけだ。
「ご機嫌だねえ。穂乃?」
「あ、亜理紗。うん。テストの結果、今回は良かったからね」
「ご機嫌なのはこの後デートだからじゃないのー?」
「で、デートじゃないし!一緒にご飯食べるだけだし!」
「まあ、応援してるから頑張ってねえ」
「うん。ありがと!じゃあ、また明日ね。亜理紗!」
「うん。また明日」
帰る亜理紗を見送って、友達と話している蒼汰君の方に行く。
「蒼汰君。行く?」
「ああ、うん。ちょっと待って」
「お?お二人さんデートでも行くのか?」
「そんなんじゃないよ。試験結果良かったから打ち上げするんだよ……まあ、一緒にご飯食べるだけだけど」
「そうかそうか。でもそれ二人で行くんだろ?」
「まあ、基本二人で勉強してたからな。亮真も来る?」
「あほか。行くわけねえだろ」
うんうん。せっかく二人きりで行くってなってるのに、蒼汰君はいったい何を言ってるのかな?これ、冗談で言ってるのだろうか。それとも本気?冗談であってほしいのだけど……。
「じゃあ、俺行くから――」
「蒼汰!」
「――……は?」
蒼汰君のことを呼んだのは、リボンの色から判断するに同じ学年の女子生徒。え……誰?
不穏……