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濁る瞳で何を願う ハイセルク戦記  作者: とるとねん
第四章

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第五話

 伐採と掘削が無秩序に進んだ林道は、かつての静謐さを失い荒廃の只中に沈んでいた。倒木と切株が雑然と転がり、剥き出しとなった赤土が深く削られた溝と共に、無残な景観を形作る。無数の半長靴に踏み躙られた土砂が形を保てず崩れ落ち、粉塵が薄く舞い上がった。風はかつて梢を揺らした囁きを失い、虚しく地表をなぞって通り過ぎるのみ。


 帝国騎士は砂塵に目を細めながら正面を睨んだ。木影が失われた為に遠方まで見通せるようになっていたが、微塵の解放感すら伴わない。寧ろ逃げ場のない圧迫となって眼前を覆う。


「アレが、バルグーン砦だと?」


「見てくれが随分と違っちゃいるが、まあ一本道の回廊じゃ間違いようもねぇな」


 ウォルムが往路で立ち寄った筈の砦は林道沿いに付属する中継拠点であった。膝までの環濠。防壁とは名ばかりの柵。人も物も割けぬ貧国の妥協の産物。それが今ではどうだ。かつてあった慎ましさは周辺環境ごと塗り替えられていた。


 盛り土が足された防壁は風景を塗り潰し、人々の往来を支える通行路は砦から延伸した土塁で塞がれた。城内の様子は窺えずとも、殺気立った敵兵が蠢くのが容易に想像し得る。


「狭い回廊だ。騎兵隊には元から期待しちゃいなかったが――」


「はっ、出すだけ無駄だって」


「お前ら文句ばっかり言うんじゃねぇよ。軽装歩兵の便利使いは今に始まったことじゃねぇだろが」


 ホゼ共々叱責を受け、ウォルムは肩を竦めた。どれだけ精強な騎兵であってもその特性上、道は外れられない。貴重な騎兵を徒歩で消耗させるのも悪手。気兼ねなく使い捨てられる懲罰中隊が先鋒を任せられるのは自明の理であった。


「騎兵隊は兎も角、他の中隊も突っ込ませる気で?」


「正面と左翼は本隊が圧力を掛ける。俺達は通行路を塞ぐ急造の土塁と右翼に広がる森を直ちに潰せとのお達しだ」


「は? 森まで!? 役割には我慢しますが、手が足りませんよ」


 ホゼが慌てるのも無理はなかった。後詰め到着まで籠城のみを企む鈍亀相手ならば無理も効く。多少周りを嗅ぎ回ったところで、手も足も出さないだろう。だが相手は消耗と遅滞戦闘を目的とする。加えて通行路を境とした左側の森林だけが伐採されていた。効率を優先した側面もあるだろう。だが本質ではない。陰鬱な森林こそ軍勢を潜ませるには適した地はなかった。


「大隊長は丁寧に探るつもりはないと?」


「時間だ。貧乏人には何時だって時間がねぇ。分かるだろ」


 帝都へと大返しする帝国軍の目的は帝都防衛であった。付け加えるならば目標は敵主力野戦軍の撃退だ。その為の方策が、帝都を主戦場に定め、都市を以って野戦軍を引き寄せた上で分断、各個撃破を狙う。それが主力の一つが時間通り到着しないとなれば、前提が崩れる。


 リベリトアは、帝国の手札が揃う前に勝負を付けたがっている。だからこそ一部先遣隊を魔領から炎帝龍回廊の中間拠点へと奇襲させ、腰を据えた。回廊の帝都側出口が完全封鎖されれば、ジェイフ騎兵大隊もグラストフ大隊も戦わずしてその価値は失う。そうなれば軍閥へと身を落とすか、マイヤード公国或いはリベリトア商業連邦への身売りが待つのみ。


「理屈は分かりますが、中隊を更に割るのは自殺行為ですって」


「安心しろ。グラストフ大隊長も鬼じゃねぇ。犬死にはなりゃしねぇよ。ダンデューグのマイヤード兵を一部回されるそうだ。そのうち指揮官が顔合わせに来るだろう。で、他には?」


「一応、聞くが仕寄り道は?」


「んなもん作る時間も魔導兵も居ねーよ」


「塹壕なしでどうするんです。置楯も竹束もないんですよ。身一つで砦に行けって?」


「そこらの建物からひっぺ剥がしてきた建材があるだろ。それで我慢しろ」


「げぇ、まじかよ」


「そもそもホゼ、お前はウォルムとネズミを連れて森側だぞ」


「冗談でしょう!? 虎口に飛び込むのと変わらない所ですよ」


「森ごと味方を焼けってのか」


 聞き捨てならない言葉に帝国騎士が抗議を試みるが、無駄骨であった。


「それは最終手段だ。嫌ならちまちま敵を殺せ」


「中隊長、せめてミットマレットを」


「駄目だ。こいつは俺と楽しく土塁に殴り込みだ」


「腕が鳴るね!!」


「つぅう、おい、ネズミ。俺達は人外三人と違って人間止めてねぇんだ。死ぬ気で探れよ。じゃなきゃマジで死ぬぞ」


「うぅっ、なんで俺まで」


「なんだ、盗っ人。不服なら土塁攻めでもいいんだぞ」


「ああ゛ぁ、どっちもイヤァ」


 満面の笑みの巨漢、頭を抱える小男、間には挟まるのは色黒の悪友。これから死地に飛び込むというのに何とも締まりがない。斧槍を掌でくるくると回し、帝国騎士は空を見上げた。リベリトア兵が丹精込めて切り開いた青空が何処までも広がっている。時には現実から目を背ける他なかった。そうしてまだ見ぬマイヤード軍指揮官にウォルムは一縷の望みを掛けた。


「……で、よりにもよって頼みの綱が、アレですか」


 大隊長の正気を疑うホセが、アレを射貫くように見やった。事前に予防接種を済ませていた帝国騎士には、驚きはなかった。だが二人は違う。続く沈黙。間を取り繕うとウォルムが言葉を発そうとした直後、デュエイが不意に表情を崩した。


「よう、元気そうだな」


 幾多の血を啜った戦斧をぶんぶんと振り、旧友にでも再会したかのような気楽さで隻眼のマイヤード指揮官を労う。


「お陰様でな。潰れた目が疼く以外は調子が良い」


 かつて帝国軍輜重隊を脅かした元冒険者フレックは、大楯を地面で打ち鳴らしながら片目を斬り潰した相手へと宣わった。

どうもお久しぶりのトルトネンです。

病気と怪我で入院してリハビリなんだりと更新が遅れてしまいましたが、再開していきまーす!


『濁る瞳で何を願う ハイセルク戦記』五巻、本日発売です。

四巻に引き続き数万文字の大幅加筆。

パニックホラー要素を加えたり、あのキャラ達が活躍したりと自信作です。


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紀伊圀屋書店様

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784065416570


講談社コミックプラス様

https://lanove.kodansha.co.jp/books/2025/12/1.html


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
まさかマイヤード兵率いて来るのがフレックとはな…。 更新今気付きました。5巻買ってます!無理無い範囲で頑張って下さい。応援しています。
再会喜ばしく!先日この作品に行き着いて一挙読破しました!いやぁ好い好い命の散りゆく様……!この先も楽しみにしております
やっぱハイセルクは最高だね! 俺も5巻買うたで!!
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