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月の女神  作者: 実月アヤ
第二章 王女の約束
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作戦VS出来心

 セアライリア王女は借りた部屋で一人、窓をそっと開けた。


「セアラ姫」


 白い翼をはためかせ、イールが窓辺へと降り立つ。月の光に照らされた彼はとても美しくて、女神の供に相応しいと思う。


「ディアナは知ったわ、クレスのこと。あなたが傍に居なくていいの?」


 姫君の問いに、女神の相棒は哀しそうに笑った。


「今更、何も言えないよ。ボクはディアナにこれ以上嘘をつきたくない。でも真実も言えないなら、黙っているしか無いんだ」


 セアラ姫は困ったように笑った。


「あなたは本当にディアナが大事なのね。でも一人で黙っているのは辛くてよ?」

「キミが聞いてくれるから。ありがとう、聖国の金の薔薇」


 そうして窓辺から飛び立っていく彼を、セアラ姫は微笑んで見送って──けれど呟いた。


「それにねえ……そろそろあの子に気付かれる頃だと思うのよね」



 鳥が羽ばたく音が聴こえたような気がして、ディアナは顔を上げた。


「イール?」


 窓を開けるが、その姿は見えない。もう深夜近いが、月明かりにあの白い羽は目立つはずだ。ディアナを部屋まで送り届け、そのついでにちゃっかりお茶を戴いていたセイがテーブルから聞き返す。


「イール?帰って来たんですか?」

「いいえ……違ったみたい。どこに行っちゃったのかしら……兄さんのこと、聞いて欲しいのに」


 どことなく寂しそうなディアナの呟きに、セイは考え込んだ。

 今までイールが一晩姿を見せなかったことなどない。どこかで見ているのか、もしくは盗聴の魔法でも使っているのかと思うくらい、セイがディアナに迫ると、絶妙なタイミングで現れるのだ。

 この森では動物、精霊、人とコミュニケーションが取れるイールの地位は、結構上に位置していて、獣相手でも簡単に危険な目に遭う事は無いという。だとすれば、彼が姿を見せないのはわざとなのだ。

 セアラ姫、アランはすでにセインティア王国で面識がある。特にアランはちょくちょく顔を見せているし、会いたくない理由にはならないだろう。とすれば、レオンハルト王子──そういえば、リザリアでも、アリエルに姿は見せなかった。二人を繋ぐのは、『クレス』の存在だ。


 イールはクレスについて、何か知っている……?


「……」


 セイはしばらく一人で熟考し、お茶のカップをサイドテーブルに置いた。寝台に座ったディアナの隣へ行き、きょとんと見上げる彼女に微笑んだ。


「すみません、ちょっとだけ。イールを捕まえるのを手伝ってくれませんか」

「え」


 そのまま、彼女の唇を優しく塞ぐ。


「んっ……!?」


 ディアナは突然の事に硬直して、けれど角度を変えて何度か触れれば、頬を染めて応えてくれた。上目遣いにこちらを見上げたその可愛らしさに、セイはもう少し、と囁きかける。


──早く掛かってくれないと、こちらの理性が持たないかもしれないな。


 いつもならばもうこの時点で彼女の相棒は乱入してきて、セイを突き部屋から追い出しているはずだった。けれど一向に姿を見せないイールに、もしかして本当に来ないんじゃないか、と心の中で悪魔が期待し始める。

 思えば少女と両思いになってから、二人きりの時間はどれだけあっただろうか。セインティア王国の城では護衛だらけだったし、アディリスに戻ってからは魔物退治の依頼か、イールが傍にいた。


 もちろん周りに誰がいたって遠慮するセイではないが、ディアナは違う。奥ゆかしい彼女は羞恥ゆえに人前でいちゃつくことなど許してくれない──ちょっとしか。


 今腕の中で素直にキスに応じてくれる彼女が愛おしくて。

 セイは少しずつ熱を込めてキスを繰り返し──それがディアナの耳元や首筋にまで及ぶと、彼女は「あ」と小さく声を漏らした。それがひどく色っぽくて、可愛らしくて、セイはつい少女の鎖骨に指を這わせてそこに吸い付く。

──彼女の身体を、そっと寝台に押し倒した。


「セ、イ?」


 いつもより一歩進んだその行為に、ディアナが戸惑いの声を上げるのが、また青年を煽る。

 もはや白い鳥をおびき寄せることなどどうでもよくなってきた。このまま押し切ったら、ディアナは流されてくれるだろうか。それともいつものように「もう!」て涙目で恥ずかしがるのだろうか。

 彼女の柔らかな身体に触れながら、それはそれで良いかも、なんて邪な考えが頭をかすめたのがいけなかったのか。


「な、な、なにやってるんだ、キラキラ──!!!」


 盛大な怒声とともに、窓をぶち破る勢いで飛び込んで来た──月の女神の相棒。


「イ、イール!!」


 羞恥に真っ赤に染まりながらも、彼を見て安堵するディアナと。すかさず窓を閉めて鍵まで掛けて、彼の退路を断つセイ。


「掛かりましたね、イール。さあ、隠れていたワケを話してもらいましょうか」


 作戦が成功した喜びか、はたまたお楽しみを中断された怒りか、自分でも判断がつかない複雑な心中で、しかしセイは極上の微笑みを見せた。


「ず!ずるいぞキラキラ!」

「えぇ、そうなんですけどね?今ばかりは来なくても良かったんですよ?本当に!いまは!!」

「どっちだよ面倒臭いやつだな!!?」


 騒ぐ2人の後ろで、複雑そうな赤い顔をしたディアナが扉の前に立つ。

 完璧に包囲された、とイールが気がついた時には既に遅く、敏腕王子の手中に見事に捕獲されていたのだった──

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