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月の女神  作者: 実月アヤ
第一章 月の女神
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王城からの依頼


「ディアナ、今回の仕事だ」


 ディオリオはお茶を入れて戻って来た娘に手紙を放ってよこした。

 彼は魔物退治屋として依頼された仕事を失敗したことはない。かつ一流の剣士と近隣の街のギルドに信頼されているため、依頼が後を絶たない。命の危険もある分報酬はかなりのもので、そのおかげで森の中でも何不自由無く暮らして行けるのだ。

 そして彼に剣を習っているディアナもまた、驚くべき剣の才能を発揮し、剣を習い始めて数年でその仕事を手伝っていた。今では森に出現する程度の魔物ならば、一人(と一羽)でも退治できるまでになっている。


「でな?その古城の魔物退治だが、お前とセイに行ってもらいたいんだ。ああ、もちろんイールもだが」

「え?」


 義父の言葉に、ディアナは首を傾げた。


「どうして?父さんは?」

「俺もう歳だしさ、ほら腰とか膝とかやべえし」


 確か、朝食に出したイチゴをイールに横取りされて、先ほどまで追いかけ回していたはずだが。それに日課の筋トレも欠かしていなかったような。


「なら、私一人で行くわ。突然そんなこと言って、セイに迷惑でしょう。父さんを訪ねて来たお客様なのよ」


 彼女の言葉に、金髪の青年はいいえ、と微笑む。剣を示して口を開いた。


「僕で力になれることなら。しばらくこちらに滞在させて頂くつもりでしたし、宿代がわりに使ってください」


 彼の言葉に迷うディアナに、ディオリオが豪快に笑う。


「セイは強いぞ~。なんたって俺の一番弟子だ。もうとっくに俺を超えているだろうが」

「いえ、そんな。ディオリオには敵いませんよ」


 謙遜してみせる彼を眺める。確かに一瞬見ただけでも彼の剣技は美しかった。ディオリオの弟子と聞く前から、おそらくは相当の手練れだとは思ったし、もっと見てみたいかといえば、それはもちろんだ。

 元将軍に育てられた娘は、人と興味を持つところが少しばかり異なっていた。


「それにほら、こっからは若いもん同士で。ああ俺って何て理解あるオヤジだろう!」

「……何言ってるの、父さん」


 あきれ顔のディアナだったが、自分を見つめる青年の視線に気づく。こちらに向けられっぱなしの、無駄に綺麗な微笑みが落ち着かない。忘れようとしていた「結婚してください」という彼の言葉が蘇って、慌てて心の中でかき消した。


「晴れてお父様公認ですね。これで心置きなく、ちゃんと口説き直しますから。よろしく、ディアナ」


……やはり早まったかもしれない。



 ディオリオに送り出されて、二人はまず依頼人に話を聞きに向かう。森を抜けた街リザリアの外れの店で、人目を憚るように彼らを待っていたのは、タクナスという男で、アディリス王に使える側近だと名乗った。


「実は我が国の姫、フローラ様が攫われた。君たちに古城に住み着く魔物を退治し、王女を救出してもらいたい」

「え……?」


 アディリス王には三人の子がいる。王子が一人と、王女が二人。フローラ姫は第三子であり、美姫で知られる16歳の末姫だ。思ったよりも深刻な依頼内容にディアナは首を傾げた。


「王女様なら、どうして城の兵士が助けに行かないんです?」


 ディオリオは名の知れた剣士だが、ほとんど一人かディアナと二人での仕事ばかりだ。王女の居場所がわかっているのなら王が軍隊を出せば済むのでは無いか。彼女の疑問に、タクナスは周りを確認して声を潜めた。


「王女は近々ご結婚が決まっているのだ。この結婚を快く思わない隣国ドフェーロが魔族をけしかけたとの噂もある。

下手に城の兵士が動いては戦争になるかもしれんのだ。あくまでも秘密裏に救出して欲しい。ディオリオ殿には我が王が何度も世話になっている。だからこそ今回も彼に依頼したのだが」


 タクナスは戸惑いの目を向ける。

 何せ現れたのは可憐な美少女と、優美な美青年だ。まさか二人が相当な腕前の剣士とは思わないのだろう。

 それまで黙っていたセイが片眉を上げて聞いた。


「結婚相手とは?」

「セインティア王国の世継ぎの王子だ」


 タクナスが誇らしげに言う。セイは整った顔をそちらへ向けて、驚いたように聞き返した。


「“青の聖国”の?」

「そうだ。まだ極秘だぞ、大変なことだからな。青の聖国は魔法や魔族の研究が盛んな国。その国と同盟を結ぶことで、我が国が他国に対抗し得る力を持つのが脅威なのだろう。それで姫様を攫ったのだ」


 セイは何か迷うように考え込んでいる。


「……アディリスの姫と、セインティアの王子が、結婚……」


 先ほどより更にしかめられた眉。

 そんなに難しい顔をして何を考えてるんだろう、と気にはなったものの、しかしディアナは義父から信頼されて任された仕事を断る選択肢などない。


「わかりました。かならず姫君をお助けして参ります」

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