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月の女神  作者: 実月アヤ
第一章 月の女神
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番犬と魔族

 主君の精霊の力に、ビリビリと張りつめる空気を感じて、アランは背中に冷たい汗が伝わるのを感じる。それはタクナスも同じだったようだ。


「ああ、その剣厄介だなあ……」

「そう思うなら、ウチの王子様怒らせないで下さいよ。ブチ切れ精霊を感知すんのキツイんスから。代わりに俺達がお相手しましょう?」


 王子の側近の言葉に、魔族は口の端を上げた。


「どうせ遊ぶなら可愛い女の子がいいよ。王子の犬なんてつまらない」

「そんな事言わずに。ね!」


 アランの言葉が終わる前に、近衛騎士達が飛びかかった。しかし魔物はひょいひょいとその剣を避けて、騎士達に魔法の塊を叩き付ける。数人は堪え、受け止めきれない者が広間の端まで吹っ飛んだ。魔物はその様に笑い声をあげる。


「世界一の騎士団の名が泣くよ!」

「そりゃ困る」


 タクナスの耳元で声がした。

 ハッとして、魔物は目の前に迫るその剣を避けたが、それを許さずに、アランが剣を握ったまま返した拳を叩き付ける!ガツッと大きな音を立てて、それはタクナスの頬にめり込んだ。


「痛ったぁ!!少しはやるもんだね、わんちゃん」


 魔物が頬を押さえてうめくと、アランはにっこりと笑った。


「何せ世界一の騎士団ですからぁ?」


 しかし魔物はニヤリと笑って、その手に魔法の光を作り出した。それを握りつぶすように力を込める──と。


「ッ……!あ、っく……!!」


 もがき苦しむ様に荒く息を吐いたのは、王子の腕に抱えられた少女だ。


「ディアナ!」


 セイが少女の様子に息を飲んだ。


──しまった!


 魔族が手にした魔法がディアナに作用していると気づき、アランは下手に動けなくなる。周りの部下達にも剣を引くよう合図した。


「ふふ。お利口さんだね、王子の犬は」


 タクナスがその手を見せびらかすように差し出す。赤い光が手のひらから溢れ、うねるように形を変えていく。


「──っ!」


 更に少女が苦悶の表情を見せた。


「ディアナ!」


 セイがその様子に彼女を抱きしめる。セアラの顔を見るが、姉姫は蒼白な顔色のまま、首を横に振った。王子はタクナスに詰問する。


「彼女に何をした……!」


 王子の剣幕に、魔物は楽しそうに嘲笑った。


「傷つけたりしてないよ。むしろ彼女の潜在能力を覚醒させる、回復魔法の一種さ。感謝してもらいたいくらいだけどなあ。まあ無理矢理やると、下手したら壊れちゃうかもしれないけどね?彼女もしかして、アルティスの秘石の持ち主かな。僕の探してる宝なんだけどさ」


「──やめろよ!!ディアナはそんなんじゃない!壊すな!!」


 叫んだのはイールだった。いつになく切羽詰まったその様子に、セイは彼の顔を確かめるように見る。


「……イール、何か知ってるんですか?」


 その時、セイの剣が“吠えた”。


『──ラセイン!』


 その声に、セイは咄嗟に手の中の剣を引き上げる。


「っ!」


 キンッ──!と硬質な音がして、その決して軽くはない衝撃に耐えた。一同の隙をついたつもりか、タクナスから彼に向かって放たれた魔法の矢が、その剣の赤い光に弾かれたのだ。


「あーあ、やっぱり。王子への攻撃魔法はそいつに阻まれちゃうか」


 魔族はつまらなそうに呟く。最初から当たると期待はしていなかった様子だが、手加減は一切無かった。もしセイの反応が遅れていたら、彼の美しい顔は焼けこげていたかもしれない。


「ちょっとちょっと!ウチの王子様の顔を狙うの止めてもらえます!?国内はもちろん諸外国の皆さん相手に、超お役立ちな商売道具なんですからね、それ!それに俺達の目の保養も兼ねた、人類至高の秘宝というか、最後の希望と言っても過言ではない、激レアものなんですからね!」


 アランの半ば本気な野次に、そうだそうだと騎士達が続いた。ついでに広間の端に逃げていた他の貴族達もうんうんと頷く。

……聖国の王子様は非常に愛されているらしい。


「うるさいなあ、もう。わんちゃん達、吠え過ぎだよ。躾はどうなってるんだい」


 タクナスは息を吐いて、手の中の光を弄んだ。

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