表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の女神  作者: 実月アヤ
第一章 月の女神
26/90

正直な言葉

**


「──はぁッ!」


 目の前の魔物に剣を振り下ろす。いつもと同じ、ただ相手の気配を感じ取って。殺気が崩れる瞬間を狙って。

 なのに今日は何かしっくり来ない。どこかズレた手応えのまま、それを引き抜けば──


「危ない、ディアナ!」

『ガアッ!!』


 イールの警告にハッと顔を上げた瞬間、彼女がたった今倒したはずの魔物が牙を剥いて飛びかかって来た。即死させなければ危険な、毒の牙を持つ魔獣だ。いつもなら、一撃で倒せたはずの──

 咄嗟に身体の前に剣を立て、その牙を防ぐ。それは成功したが、魔物の爪が彼女の腕を切り裂いた。


「っ!」


 痛みを自覚するよりも先に、その魔物にとどめを刺す。ディアナの剣に喉元を切り裂かれたそれは、巨体をその場に倒して息絶えた。


「大丈夫?ディアナ。──ディオリオ!」


 イールが森の先に他の魔物を追って行った彼を呼ぶ。すぐに義父は戻って来て、娘の怪我に顔をしかめた。その手をかざして治癒魔法をかけ始める。


「おい、最近調子悪いな」

「……ちょっと、油断した。ごめんなさい」


 みるみるうちに傷は跡形も無く消えたが、彼女の顔は晴れない。今日だけではない。彼が聖国に戻っていった、あの日からずっと、こんな風に心ここに在らずで失敗ばかりしている。

 そんな娘を見つめて、ディオリオはがしがしと頭を掻きむしった。


「……会いたいのか、ラセインに」


ひゅ、と。ディアナの息が詰まる。それは答えたも同然だ。


「あれから二週間、何の連絡も無いから気になってるんだろう?セインティア王国で事件が起こったって噂も聞かないし、何事も無いなら良いんだが」


 義父はそう言って娘を見た。



 ディオリオが王女達を拘束したことは、特にアディリス王国で咎められることは無かった。

 表向きは魔物にさらわれた王女を、ディアナとセイ、ダークエルフのジェイドが助けた事になっており、むしろタクナスという魔族を、長い間知らずに王宮に侵入を許したばかりか、勤務させていたことにこそ問題の目が向けられたからである。


 駆け落ちの相手だった魔族は王女を救った恩人扱いに変わり(実際はまんまと眠らされていただけだが)、王もとうとう無視することはできず、二人の仲も認められつつあるとか。その辺りの情報操作は『ラセイン王子』が仕向けたらしい。本当に如才ない青年だ。

 

フローラ王女からはそのような経緯を伝えた手紙が届き、

「だってわたくし、第三子ですもん。お兄様もお姉様もいるんだから、一人くらい魔族と結婚したって良いじゃない」と、彼女らしい剛胆さで書いてあった。


「悪い噂を聞かないならそれで良いわ。私は父さんが居てくれればいいの」


 落ち込んだ様子のまま目を逸らした娘に、父は溜息を吐く。

 まったく。そんな顔をして良く言う。だから仕方ない。この素敵で格好良い、理解ある父が背中を押してやろう。


「──悪いけど、俺ちょっと旅に出るわ」

「「は?」」


 ディアナとイールはきょとんと義父の顔を見た。ディオリオは苦笑して、彼女の髪を撫でる。


「……クレスを。お前の兄を探しに行こうと思ってる。あいつはどこかで生きてるだろうから」

「……父さん」


 ディアナは目を見開いた。


「……そう、そうよね」


 両親は亡くなってしまったが、あるいは。その希望に縋りたかった。


「でな?しばらく諸国まわろうと思うから、お前はここで待っていろ」

「え?私も──」

「馬鹿。せっかく依頼が定着してきて、商売が成り立って来たんだ。このままうまく拡げて、俺に仕送りしろ」

「えぇえ」


 途端にふにゃりと困った顔をする可愛い娘に、彼はあははと豪快に笑って付け加える。


「といってもな、お前一人じゃ大変だろう。──だからラセインを呼んで来い」

「っ、え?」


 義父の言葉に、弾かれたように彼女は肩を震わせた。


「でも、あの人は」


 否定の言葉を探す前に。


「逢いたくはないのか?──セイに」


 わざと、あの青年が少女に告げた名を呼んで。


「逢いたい」


 何も考えずに、少女が返した言葉。ディアナは思わず溢れ出た本音に、口を押さえた。


 そうか、私は。


「逢いたいわ、セイに」


 自覚したら、自然と顔が綻んだ。だから、することは一つだ。


「──逢ってくる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ