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月の女神  作者: 実月アヤ
第一章 月の女神
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誘拐の真実

 ラセイン王子、とディアナが呼んだことで、彼は自分の素性が少女の知るところとなったことに気づいたのだろう。微かに顔を強ばらせて、部屋へと入って来た。その後ろからは先ほどのダークエルフがついてくる。


「うわ、なんでダークエルフ連れて来てんの。ボク嫌いなんだよ、風の魔物は!」


 イールがあからさまに魔物を嫌がり、言われた方も口を尖らせた。


「私だって来たくは無かった!仕方ないだろう、王子には脅されるし、フローラは居なくなるし」

「あらあらまあまあ。とんだヘタレっぷりですわねえ、ジェイド」


「「「「え?」」」」


 なに今の台詞。どこから。


 ディアナとイールが振り返ると、清楚可憐な姫君は、にーっこりと微笑んで魔族を見つめていた。


「嫌だわあ、わたくし心広いし?あんなのにしてやられたあなたを、それでも可愛いわしょうがないわなんて言ってあげるのが王女の努めよね?ヘタレでも。そうだわ、わたくしラセイン様にもちょっと怒っているんですの。こんな可愛らしいお嬢さんまで泣かせちゃって、ちょっと良い男だからっていい加減になさいませ?全く殿方には呆れますわ、めんどくさ」


 息継ぎもなく言い切られた台詞と、完全に据わっている目が怖い。もの凄く怖い。


「……ねえ、ディアナ、今の聞き取れた?」

「……っ、イールは?」

「ボク鳥だからわかんない」


 妙な冷や汗が滲む一人と一羽の前で、男性二人は固まっている。

 が、すぐに我に返ったダークエルフが「すみません!ごめんなさい!!」と謝っているところを見ると、彼はフローラ姫の本性を把握していたようだ。

 セイは「っ、あなたもか……」と呟いて額を押さえている。フローラ王女のような人を他にも知っているのだろうか。何かを思い出して苦悩していた彼だったが、ふとフローラ王女の言葉が引っかかったのか、その視線をハッとディアナに向ける。


「……“泣かせた?”」


 その指先がディアナの目尻に触れた。


「──!」


 彼女が身を引くより早く、そこに残る濡れた名残を見つけて、彼は眉を顰める。


「何でもな……ありません」


 意識して変えたディアナの言葉に、彼は目を見開いた。


「ディアナ、ちゃんと話を──」


 しかし彼の言葉を遮って、イールが二人の間にバサリと割り込む。


「ねーダークエルフ、姫にしばかれてるけど、いーの?」


 見ればいつの間にか床に倒れ伏す魔物と、その背中をグリグリとヒールで踏みつける王女の姿。余りの光景に、ディアナもセイも唖然とした。


「あの、どういうことなんですか?」


 ダークエルフは王女誘拐の犯人じゃなかったのか。ディアナの問いに、セイがフローラ姫と青年を示す。


「あの二人は、駆け落ちしてきたそうですよ」

「え!?」


 視線を向けられ、フローラ姫は、腰に手を当ててクスリと笑う。か弱い姫君などという外見を吹っ飛ばすように堂々と。


「ぶっちゃけ、わたくしの一目惚れですの」


 その言い様に、ディアナは唖然とする。


……一目惚れって、流行ってるの?


「わたくしお忍びで外に出て、魔物に襲われたところを助けてくれたのが、このジェイドなのですわ。迫りに迫ってよっしゃ落とした!ってところまでは良かったのですけれど」


……なにやら姫君らしからぬ台詞に、ディアナは曖昧に頷き、心無しかセイの笑顔も固まっている気がする。


「ところが頭ガッチガチのお父様に反対され、ジェイドに迎えに来てもらって城を飛び出してきたのです。誘拐などではありませんわ、書き置きも残してきましたし」

「でも、王女は縛られて……」


 道理で連れ去られる際に抵抗もしていなかったわけだ。自ら望んだのならおとなしくついて行ったのも頷ける。

 しかし救出したときのフローラ王女の様子を思い出して言葉を返すと、そこでフローラ姫は溜め息をついた。ジェイドが口を開く。


「私たちは駆け落ちを手助けしてくれた──味方と思っていたやつに騙されていたのだ。情けない話だが。奴の狙いは聖国の王子と剣士の娘を、ここにおびき寄せて足止めする事だった」


 フローラ姫が付け加える。


「どうやらその者は父に、王女が魔物と駆け落ちなんて外聞が悪すぎる、聖国王子の婚約者として誘拐された事にすればいいって言ったようなんですの。そうすれば聖国の王子が助けに来るから、婚約を迫れば良いと。──父は聖国の魔法を信じていないのですわ。ばっかみたい」


 その言葉に、ディアナは違和感を覚えた。


「フローラ姫救出の依頼を受けたのは私の義父ディオリオよ。なぜラセイン王子が来るとわかるの」


 顔を見合わせる王女と魔族。それが意味する嫌な予感に、ディアナの心臓が暴れ出す。

 言いづらそうに、王女は告げた。


「わたくし達をここに閉じ込めたのが、そのディオリオなのですわ」

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