四十九日
和季は一つだけ歳を取った。それでも当たり前に、白瀬の歳には近付かない。彼女も同じように歳を重ねている。
眠り続けていても、それは同じだ。
* * *
「四十九日、ですか?」
受話器の向こうに、和季は思わず聞き返す。
『はい。出来れば、来て頂けたらいいなと思いまして』
電話の向こうの相手は、岩崎汰一だ。
彼のことは覚えている。
和季が担当したのは汰一ではなく、妻の由梨の方だ。もっとも、初めて会ったときにはまだ二人は恋人同士だった。
結婚式の直前に汰一の恋人だった由梨が亡くなってしまい、生き返りになった。そして、色々あったが三日間の中で予定されていた結婚式を挙げることが出来た。婚姻届も提出して、二人は正式に夫婦になっている。
由梨を担当したのは一ヶ月くらい前だろうか。四十九日があるということは、まだ二ヶ月は経っていないのだと思う。声を聞いてもさすがにわからなかったが、説明をしてもらえばすぐに思い出した。
すでに一年以上生き返り課で仕事をしているが、四十九日に来て欲しいと言われたのは初めてだ。戸惑ってしまうのも無理はない。
「私の一存では決められなくて、上司に確認してみます」
『妻も喜ぶと思うので、可能でしたら来て頂きたいのですが。無理なお願いだったらすみません』
「いえ、そんな。わざわざ声を掛けて頂いてありがたいです。確認してから、こちらから連絡致します」
電話を切ってから、意外に思う。
生き返りだった由梨の方は、話しやすい性格だった。とても感謝してくれたことを覚えている。一方、今話していた汰一の方からは睨まれていた記憶しか無い。
「あの、課長」
「ん?」
机に向かっていた松下が顔を上げる。
「前に担当した方のご家族から、四十九日の法要に出てもらえないかと連絡があったのですが、大丈夫でしょうか?」
「問題は無いけれど、どうしたの? なんだか気が乗らないような顔をしているように見えるけど」
図星を指されて、少し慌てる。あまり顔を合わせたい人ではない。自分に敵意を向けていた人に会いたいと言われて、躊躇してしまうのは和季だけではないはずだ。
ただ、電話の向こうの汰一の声は由梨を担当していた時とは全く違って聞こえた。穏やかだったのだ。
「ああ、いえ、今電話があった方からはてっきり嫌われていると思っていたので、なんだか不思議で」
「大切な人が生き返りになったら、気が動転するのは当たり前だからね。その方もいつもとは違う精神状態だったんじゃないかな」
確かに、松下の言う通りだ。
「わざわざ連絡をくれたんだ。よっぽど来て欲しいんじゃないかな。私は行ってもいいと思うよ。萩本君さえよければね。一人では行きにくいと思うのなら、私も同行しようか?」
「そんな。課長にまで迷惑をお掛けする訳には」
「迷惑なんてことは無いさ。遺族の方のフォローをするのも、仕事の一つだと私は思っているからね」
「それなら、お願いしてもいいでしょうか?」
「ああ」
松下が頷く。
いつもの習慣で、和季は隣の席を見る。そこに白瀬の姿は無い。そして、白瀬の私物も。
そこは、すでに別の職員の席になっている。




