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めちゃくちゃな説明

 いつも微笑みを湛えているように見える松下の顔が、今は笑っていなかった。

 警察には結局引き合わされなかった。和季が帰ってくる前に、松下が対応してくれたらしい。


「萩本君」

「はい」


 感情のこもっていない声で呼ばれて、居住まいを正す。

 すでに今日あったことはざっと説明した。


「私は戻ってきてくださいと言いましたよね」


 底冷えするような声だった。いつもは感じない、威圧感のようなものがある。

 他の人にはいつもと同じように聞こえるかもしれない。だが、和季にはそうは思えなかった。


「どうして指示を聞かなかったのですか」

「すみません。でも、どうしても昇君をお母さんに会わせてあげたくて」

「それは聞きました。しかし、昇君のお母さんの捜索には警察も出ていたんです。私はきちんと言いましたよね」

「……はい」


 松下の口調が丁寧語になっているところが、なぜか恐ろしい。


「彼女は逃走犯でした。今回は何事もなかったからいいようなものの、大きな事件に発展していた可能性もあるんですよ」

「というか、逃走中ってだけで大事件ですよね~」

「そう。本当に緊急事態だったんですよ。わかっていますか?」

「すみませんでした」


 和季としては頭を下げるしかない。


「全く、霧島君がいなかったらどうなっていたか」


 思わず、和季は霧島を見た。

 霧島はバツが悪そうに目を背ける。


「本当なら、萩本君は逃亡犯の幇助をしたことになってしまうんですよ」

「ええと、どういうことですか?」

「今回は、お咎めは無しということです」


 松下はこほんと一つ咳払いをする。


「こういうことです。警察から連絡があって私が電話をしたときに、萩本君は昇君と一緒に出掛けていました。しかし、携帯の充電が切れているせいで萩本君とは連絡がつかない。母親が逃走したと知らない萩本君は、途中でその本人と出会う。そこで逃走中とは知らない萩本君は、母親と合流してしまいました。何か特例があって出してもらえたと説明された萩本さんはそれを信じ込んでしまいます。何も知らない萩本さんは、二人を一緒に遊園地へ連れて行く。そして、そのまま二人が死に還るのを見届けたのです」

「あの、連絡はついて……」

「と、警察には説明しておきました」

「……っ」

「めちゃくちゃだと思いますけどね」


 松下が苦笑する。


「ありがとうございます」


 もう何度目かわからないが、頭を下げる。


「考えたのは霧島君だよ。説得されたときにどうしようかと思ったんだがね」

「警察を騙してくれたのは課長です」

「人聞きが悪いね」

「いえ、感謝していますよ」


 霧島が肩をすくめる。


「萩本君。これだけは覚えておいて欲しい」


 松下が和季の肩に手を置いた。


「無茶はしないで欲しい。もちろん、生き返りのことは大切だ。けれどね、私たちは君のことを心配していたんだよ」


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