正しくはなくても
警察に見つからずに動物園に行けたのは幸運だった。最期の時間を親子二人で過ごしてもらえたのは、もっと幸運だった。
和季は運転席に座って、後ろのシートを見る。
親子が並んでシートに座っている。その穏やかな顔を見ていると行動を起こして良かったと心から思えた。
二人は幸せそうに、手をつないで眠っているように見える。いや、正確に言えば二人は眠ってはいない。
二人は既に、死に還っている。
もう二人を咎める者は誰もいない。誰にもそんなことは出来ない。
けれど、和季は違う。これからがある。
和季は携帯を手に取る。呼び出し音が鳴る前に誰かが電話に出た。
『どうだ、見つかったか?』
和季が口を開く前に、向こう側から声が聞こえてくる。電話を取るのは松下だとばかり思っていたが、聞こえてきた声は霧島のものだった。やはり、いつもの冷静な声ではない。
だが、思っていた第一声とは違っていた。まさか再び霧島が電話に出て、不安そうな声でそこを聞いてくるとは思わなかった。
「見つかりました。ちゃんと会えました」
『……そうか。よかった』
ほっとしたような、嬉しそうな声。
そんな霧島の声を聞いて、ようやく和季はもっと早くに見つかったという連絡だけでも入れておけばよかったと言う考えに至った。目の前のことに必死で頭がそこまで回っていなかった。
「連絡が遅くなってすみません」
『いや、見つかったのならいい』
「霧島さんのお陰です」
霧島のアドバイスがなかったら、焦るばかりの和季には何も思い付かなかったかもしれない。
『霧島君。代わってくれるかい?』
松下の声がする。思ったよりも落ち着いている。
『ああ、すみません。課長』
『もしもし、萩本君?』
「は、はいっ」
すぐにでも叱責の言葉が飛んでくると思い、身構える。
『まだ迎えの連絡はしてないよね?』
「まだです」
このままいつものように進めてもいいのかどうか迷っていた。
『なら、市役所に一度戻ってくれるかな。というか、今はどこにいるんだい?』
「動物園の駐車場です。昇君が行きたいって。ここで呼ばない方がいいですか?」
『ああ、こっちに帰ってきてから手配するよ』
聞かなくても次の指示をしてくれたことに、ほっとする。
結局、何も責められることはなく電話は切れた。
大変なことをしてしまった自覚はある。制止を振り切ってこんなことをしたせいで処罰を受けることがあるかもしれない。警察から事情徴収なんかも、あるだろうか。和季が一緒にいたのは逃亡犯だ。
白瀬はこの行動を褒めてくれるだろうか。それとも、叱るだろうか。
さすがにやり過ぎた気はする。
電話では何も言われなかったが、罰が待っていない訳がない。
それでも、後ろのシートには死に還った二人がいる。
このまま逃げる訳にもいかない。
それに、これは和季が自分の判断でやってしまったことだ。
責任は取らなくてはいけない。




