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いつかなんて無い

 大事を取って、留置所の近くまでは行かないことにした。すでに昇がいた施設には警察が来て事情を聞いているだろう。和季と昇が一緒に出掛けるところを見られている。市役所の名前が入った車ではすぐに見つかってしまう。それに、徒歩で移動していても逃げ出した場所の近くにずっと留まっていることは無いと思う。

 幸い、と言うべきか母親が入ってた留置所と昇の住んでいたアパートは徒歩移動できなくも無い距離だ。カーナビにそちらの住所を入れて気付いた。くまなく探せば、きっと見つかる。

 そのはずだった。


「お家のまわり、おまわりさんがいっぱいいたね」


 昇の言うとおり、家の前にはパトカーがいて警官の姿が見えたため、近付くことも出来なかった。

 あれでは車を降りて探すことも出来ない。

 もう一度、留置所への道を別のルートを使って探すべきだろうか。


「お母さん、もしかしてパトカーに追われてるの? だから、こっそり探さなきゃダメなの?」


 昇に不安げな顔で見つめられると、和季まで不安になってくる。


「お母さん、つかまってたの? だから、会えなかったの? 僕を殺したから?」


 基本的なことすら説明していなかったことを思い知らされる。昇は言ってわからない子どもでは無い。さっきの大人しくしていた昇を見ればわかる。

 この子は聞き分けがいい。それが、本人が望んで獲得した性質では無いとしても。


「きちんと説明もしていなくてごめんね。昇君の言うとおり、お母さんはおまわりさんに捕まってたんだ。だけど、さっき連絡があってね。お母さんが捕まってる場所から逃げたんだ」


 昇がどう思うのかはわからない。それでも、誤魔化したりせずにきちんと話しておこうと思った。


「じゃあ、ぼくがちゃんとお母さんを見つけないと。ぼくに会うために、来てくれようとしてるんだもん」

「そうだね」


 自分に会うために逃げ出したのだと、昇は疑ってもいないようだった。和季も昇の顔を見ていると信じたくなる。

 彼女は親子が心中する原因になった男に会いに行くような女性ではなく、昇に会いたい一心で逃走した母親なのだと信じたかった。

 そう信じているからこそ、和季もこんな危険を冒している。

 しかし、このままでは見つからないうちにタイムリミットになってしまうかもしれない。

 時間があればいい。生きてさえいれば、いつか、という希望が持てる。

 いつか。

 いつか、白瀬だってきっと目を覚ましてくれる。

 いつか……。

 だが、昇たち生き返りには、いつか、なんて無い。

 ぐずぐずしていたら、昇の母親が捕まってしまうかもしれない。もしかしたら、すでに捕まっている可能性もある。


「お母さん、どこにいるんだろう」


 伸び上がって、昇は外を見ている。やはり昇にも焦りはあるようだ。

 車内に電子音が響く。今までも何度か携帯は鳴っていた。画面には生き返り課の番号が表示されている。

 電話を取ってしまえば帰ってこいと言われるに決まっている。だから、取っていなかった。

 けれど、もしかしたら松下のことだ。手伝ってくれるかもしれない。あのいつもの穏やかな声で指示を出してくれるかもしれない。

 電子音はまだ鳴り続けている。

 このままでは状況は動かない。

 和季は路肩に車を止めた。

 携帯を手に取る。

 もしも帰ってこいと言われたら、すぐに電話を切ればいい。


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