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効率的な仕事

「では、これから三日間の予定を教えて頂けますか?」

「急に言われても、どうすればいいか悩みますね。どうしたらいいんでしょう」


 和季と向き合っている女性は、困ったように笑った。


「ええと、私、一人で就職の為にこっちに出てきていて、あまり知人もいなくて。まだ社会人一年目なもので」

「そうですか」


 和季は機械的に返事をする。


「せっかく生き返ったんだから実家に帰ろうと思います。三日間ですけど。生き返れなかったらそんな暇も無かったわけですし。そういうのって、大丈夫ですよね?」

「はい。では、そちらの自治体に連絡して引き継ぎを行います」


 それならば楽に済む。

 後は少々手続きをするだけで終わる。

 三日間、顔を突き合わせなくてもいい。

 そのことにほっとする。


「よろしくお願いします」


 女性はぺこりと頭を下げる。

 その仕草も、姿も、声も、普通に生きている人間と何の変わりもない。

 当たり前のように、存在している。

 けれど、中身はどうなのかわからない。この人、いや、生き返りも本当は腹の中ではすぐに死に還るのだから何をやってもいいと思っていないとも限らない。

 どうしたって疑いの目で見てしまう。


「どうしたんですか?」


 女性が怪訝そうな顔で和季の顔を見ている。

 無意識に睨み付けていたかもしれない。


「いえ。なんでもないです」


 慌てて笑顔を作る。

 仕事だ。仕事なのはわかっている。

 それでも、早くこの場を去りたい。

 生き返りと、向き合っていたくない。



   * * *



「早かったね~。お疲れ様」


 生き返り課の部屋に戻ってきたときに声を掛けてくれたのは、白瀬ではなくひよりだ。

 ひよりは特に何があったのかと聞く風でもなく、一言声を掛けたきりだ。白瀬なら、もっと気に掛けてくれていた。

 そんなことを考えてしまって、頭から振り払う。


「減ったぶんの人もまだ増えないことだし、効率的なのはいいことだ。大体、こんな仕事、何があるかもわからないんだから全部警察に任せればいいんだよ。なんなら、全員三日間拘束したままだっていいと思うんだけどな。これまでだって全く事件が無かったわけでもないのに、野放しにしてるなんておかしいんだよ」

「そうですね」


 和季の返事を聞いて、愚痴を言った当人である霧島が驚いたように顔を上げる。


「どうしたんですか?」


 当たり前のことを言っていたから、同意をしただけなのに何をそんなに驚いているのだろう。


「……変わったな」


 霧島が呟く。

 その顔に哀れみのようなものが込められている気がして、心がささくれ立つ。

 ひよりも何故か心配そうな顔で、こちらを見ている。

 普段通りにしていてくれた方がいい。そんな目で見ないで欲しい。

 和季は目を逸らす。

 報告書を書いてしまわなければならない。

 人が一人抜けて、仕事は増えている。

 何も考えずに、ただ手を動かせばいい。

 霧島も霧島だ。

 和季は以前よりも効率的に仕事をこなしているのだ。

 霧島が望んだとおりになったのだ。

 ただ喜んでくれればいいではないか。

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