事故
自分がおかしな想像をしたせいだ。
あの時、下手に嫌な予感なんて抱かなければ白瀬は今も無事だったのではないか。
当たり前だが、そんな考え方は間違っている。和季が何を考えても、あの場では有り得ないが幸せな想像をしていたとしても、起こることは起こるし、起こらないことは起こらない。なんなら、あの電話があったときにはすでに起こっていた。
和季にはどうしようもなかった。
わかっている。
病院の待合室の椅子に、和季は座っていた。
誰かが隣に座っては行ってしまう。
番号で誰かが呼ばれている。
花を、渡してきた。
白瀬の病室の前で会ったのは、白瀬によく似た女性だった。親族以外は病室には入れないと言われた。白瀬の母だという女性は、憔悴しきった顔で花を受け取ってくれた。
きっと、迷惑だったのだろう。少し考えればわかることだった。
だけど、それ以外に出来ることなんてなかったのだ。
白瀬が事故に遭ったと聞いてからすでに数日が経っている。少し日数を置いてから来た方がいいとは思ったからだ。
彼女は、まだ目覚めていない。
* * *
「事故って、どういうことですか?」
白瀬が事故に遭ったとわかった日、和季は瞬時に聞き返してしまった。
「まだ詳しくはわからないのだけどね……」
松下は言い辛そうに、すぐに言葉を切ってしまう。
「白瀬さんは、無事なんですよね?」
自分自身を安心させるために聞いたようなものだったと思う。
「……うん。今のところはそうみたいだ」
「今のところはって、どういうことですか!?」
「集中治療室に入っていて、状態はわからないそうだ」
「そんな。どうして……。まさか、交通事故ですか? 運転中に何かあったとか」
確かに、あの運転で事故を起こしたら大変なことになる気はする。
「いや、そうじゃないんだ。ただね。誰かを庇って車にはねられたということなんだが。それが……、白瀬さんをはねたのは、彼女が担当していた生き返りらしいんだ」
「っ! なんですか、それ!」
思わず松下の腕を両手で掴んで揺すってしまう。
「こらこら、痛いよ。萩本君」
「ご、ごめんなさい」
松下の困ったような声に、我に返って手を離す。
「けど、そんなのっ、どういうことですか」
「それが、まだわからないんだ。とにかく、今は彼女が無事であることを祈るしかない」
「……そう、ですね」
松下を責めても仕方がない。わかっている。




