勇気を出して
もしも、和季の勘違いで特に白瀬が可愛いもの好きでもなんでもなかったら迷惑にしかならないのだが、絶対に好きなはずだ。この前の様子を見ているとわかる。
これで少しでも元気になってくれたら嬉しい。
軽く鼻から息を吸い込んで気合いを入れる。
「あの、白瀬さん」
「ん?」
結局ずっと鞄に入れて持っていたマグネットを取り出して、白瀬に差し出す。
「え、これ……」
白瀬が驚いた顔をしている。これはどういう顔なのだろう。よろこんでいるのか、ただそういう顔をしているだけなのか。
「ええと、お茶買ったらついてたんで、よかったら」
本当はこれの為に買ったのだが、そんなこと言えない。
「だから、いらないってば。私、こういうのはあんまり……」
などと言いながら、視線はずっと和季の手の中にあるマグネットから動かない。
「僕が持ってても使わないので、どうぞ。冷蔵庫とかに付けといて使えますよね」
「う、むう」
意味不明な言葉が白瀬から漏れている。自分の中の何かと戦っているのかもしれない。
白瀬の手がほんの少し動いたのを見て、
「もらってください」
強引に手の中に押しつけた。
一瞬、柔らかい手に触れてしまって慌てて手を引く。
嫌がられただろうか。
白瀬の顔を見る。
その顔は、
「そこまで言うなら、もらっとく」
喜びを隠そうとして隠し切れていないというか、笑っているような困っているようなよくわからない顔だった。
どっちなんだと思った和季に、
「……ありがと」
小さな、ほとんど聞き取れないような声で、顔を背けながら白瀬が言った。
顔が少し赤いように見える。
「いえ」
だから、和季まで頬が火照ってしまう。
わかりにくいけれど、とてもわかりにくいけれど、喜んでくれているのだとわかる。
その証拠に、白瀬はマグネットを大切そうに手のひらの中に握っている。いつまでもそうしているのが変だと思ったのか、いそいそと鞄の中にしまった。なくさないようになのか、チャック付きのポケットに丁寧に入れている。
どうやら、好きなキャラクターだったらしい。当たっていて良かった。でなければ、こんな顔はしないに違いない。
そんな白瀬を見ながら、まだおまけ付きのお茶が売っていたら買ってきてもいいなと思う。いや、買ってこよう。
別に他意は無い、はずだ。
和季は意識しまくってしまったが、ひよりだって、白瀬にマグネットを渡そうとしていたのだ。和季からだっておかしくいはずなのだ。が、女性から渡されるのと男から渡されるのとはちょっと差があるかもしれない。
今更だが、突然おかしなことをしてしまったかと不安になってくる。
赤くなっていたということは、白瀬も少しは意識してくれているのだろうか。可愛いものが好きだとバレていることを恥ずかしがっているだけな気もするが。
それはそれで一人でやきもきしているのが辛い。それでも、可愛らしいところを見ることが出来て得ではある。普段の白瀬なら絶対にしない顔だった。
マグネットをしまった白瀬はくきくきと肩を回している。本当に疲れていそうな仕草だ。




