笑った顔が見たいから
「うわ、あの車かっこよくない?」
「運転してるの女の人じゃなかった?」
「マジか」
「ヤバい」
「めっちゃいい」
さっきの女子高生たちはいつの間にか窓際の雑誌の所に移動していたらしく、黄色い声を上げて騒いでいる。白瀬なら絶対出さなそうな声だ。
彼女たちが話題にしているのが白瀬のことなのは明らかだ。
あの人は本当にかっこいい。車もさることながら、仕事も出来るし、ピンチのときには王子のように駆けつけて助けてくれる。
それなのに、可愛いところもある。本人は認めたくないようだけれど。
彼女たちは白瀬を今の一瞬しか知ることはないが、和季は色々な面を知っている。それが誇らしい。優越感の方が近いかもしれない。とにかく、白瀬のことを話してはしゃいでいるのを聞いているのは気分がいい。
女子高生たちは、会計を済ませて賑やかに出て行った。今、飲み物の棚の前には誰もいない。
少し考えてから、和季は先ほど白瀬がしばらく立っていた場所へ向かう。
棚の中にはまだ、マグネット付きのペットボトルが並んでいた。さすがに女子高生たちも買い占めてはいかなかったらしい。
結局、白瀬は何も買わずにコンビニを出て行ってしまった。本当は欲しいと思っているのが見え見えだったから、今頃後ろ髪を引かれまくっていることだろう。
マグネットは、いくつか種類があるようだ。うろ覚えだが、確かこれだったような気がする、というものを見つけ出す。
間違っていたら、また買えばいい。お茶を買うだけでおまけが手に入るのだから損ではない。
ペットボトルを持って和季はレジへと向かう。普段、紅茶は飲まないがたまにはいいだろう。
マグネットは明日、白瀬に渡すつもりだ。
目の前に差し出したら、白瀬はどんな顔をするだろう。迷惑そうな顔をするだろうか。一瞬目を輝かせて、それから興味がないふりを決め込むだろうか。
ひよりがマグネットを引っ込めたときの白瀬の表情は、今思えば本当は欲しいと言いたかったのだとわかる。
今度はちゃんと受け取ってもらおう。僕はいらないんで、とでも言って無理矢理渡せばきっと受け取ってくれるに違いない。ひよりがいるとそっちに譲ってしまうかもしれないから、いないときを狙った方がいい。
白瀬がどんな反応をするか想像すると、顔がにやける。
もしも迷惑そうな顔をしたとしても、本心では喜んでいると考えればそれはそれで可愛い。本人は嫌がるだろうが、さっき見た慌てた顔もまた見られたら嬉しいと思う。喜んで笑ってくれたら、もっと嬉しい。




