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彼女は男前

「なんか、ああいう雰囲気苦手」


 ぼそりと小さな声で白瀬がこぼす。


「わかります……」


 和季もああいうちょっとギャルっぽい集団は苦手だ。白瀬のげんなりしている顔を見ていると、女性同士でもそういう感情はあるらしい。同じようなことを思っているのは、少し嬉しい。


「ああいう子たちだったら、なんの躊躇も無いんだろうな。はあ」

「何がですか?」

「あ、ううん。なんでもない、なんでもない」


 笑って誤魔化しているものの、心の声が出てしまっている感じだ。ある意味めちゃくちゃわかりやすい。が、本人は気付かれていないつもりのようだ。

 欲しい種類のマグネットを探しているのか、女子高生たちが飲み物の棚の前から移動する様子は無い。

 急に白瀬が咳払いする。


「そういえば……」


 かと思えば、言いにくそうに口籠もる。話題を変えようとしているのだろうか。


「この前、霧島さんが言ってたことだけどさ」


 あまりにがらりと話題が変わる。


「最初から話すのも良くないと思ったんだ。監視する、なんて思ったら向き合い方にも差が出るでしょう? もちろん、きちんと話すつもりではあったよ。それも、私たちがやらなくちゃいけないことではあるし」


 照れ隠しで振る話にしては、内容が重すぎた。今ここで、そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。だが、動揺しまくっている様子なのに業務の詳しい内容は話していないのが流石だ。外で軽々しく話せるものではない。


「……でもね、うん。監視する、なんて、私はそういう考え方あんまり好きじゃなくて。って、私の考え方を押しつけるのもよくないか……」


 上手く言えないのがもどかしいのか、白瀬が頭をひねっている。


「ごめん。こんなとこで話すようなことではなかったね。でも、言わなきゃとは思ってて。なかなか機会がなくて。ああ、もう! すまん! ほんと、今言うことじゃなかったわ!」

「……い、いえ」

「とにかく、ごめん!」


 珍しくしどろもどろになっている白瀬を見ていると、一生懸命伝えてくれようとしているのはわかる。

 思えば、白瀬が謝る姿はよく見ている気がする。こんな新人に向かって白瀬はいつだって素直に謝罪してくれる。自分が悪いと思ったら、目下の人間にだってすぐに謝れる。そういう人は、珍しいと思う。

 見た目はクールそうに見えるのに、変なプライドが無い。白瀬は、素直で真っ直ぐだ。


「大丈夫です。僕も、白瀬さんの考え方のほうが好きですから」


 だから、和季も素直に答えた。


「え、あ」


 相手が動揺していると、逆にこちらが落ち着いてくる心理は一体何なのだろうか。


「だから、白瀬さんに教えて頂くことが出来て、良かったと思っています」


 これは、さすがに口に出してから恥ずかしいと思ったが、言葉を飲み込んで戻すわけにもいかない。

 それに今ここで言わなかったとしても、霧島と話しているところは見られているのだ。面と向かって言ったか、意図せず立ち聞きされてしまったかの違いだ。だったら、一度面と向かって伝えてもいいではないか。


「そ、そっか。うん。それなら、よかった」


 白瀬はこくこくと頷いている。その動きはまだ動揺しているのか、ロボットのようにぎこちない。


「じゃあ、また明日ね。気をつけて帰るんだよ」


 白瀬が、軽く手を上げてその場を立ち去っていく。突然すぎて引き留める間もない。白瀬は妙にカクカクしていて何も無いところでつまずいて転びそうだ。

 白瀬の姿が棚の向こうに消えていく。

 和季は呆然と立ち尽くしてしまう。なんだか嵐のようだった。

 店の外から重いエンジン音が聞こえて、あのスポーツカーが横切っていった。見間違えるはずもない。前に見た白瀬の車だ。一瞬サングラスを掛けた横顔が見えた。前にあの車に乗せてもらったとき思ったが、運転中の白瀬は凜々しい。

 なんというか、男前だ。

 だが、今はあの状態で運転して事故らないか心配になる。


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