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可愛いもの好き?

 二度目の生き返りの担当は、最初に詳しく話を聞いたおかげで特にトラブルなくやり遂げることが出来た。

 わからないことを聞くために白瀬に電話をするのは少し緊張したが、拍子抜けするくらいいつもと同じ対応で白瀬は説明してくれた。戻ってきて顔を合わせたときも、特に態度は変わらなかった。

 和季が恥ずかしいと思っているだけで、白瀬はなんとも思っていないらしい。顔を合わせるの度に気にしてしまうのも困るが、全く意識されていないのもそれはそれでさみしい、などと思ってしまう。

 霧島が白瀬にも和季にも話し掛けてこないのはいつものことだ。


「なんか、最近空気悪くないです? 窓開けましょうか?」


 白瀬と霧島が言い争いをしていたときには部屋にいなかったひよりが、不思議そうに首を傾げている。ひよりが言っているのが、本当に空気のことなのか人間関係のことなのか、彼女のキャラからはよくわからない。



   * * *



 仕事が終わって、市役所の近くにあるコンビニに入る。買い物はアパートの近くにでするつもりだったが、なんとなく喉が渇いてふらりと立ち寄った。

 ついでに新しい味のポテトチップスでも出ていないかと、お菓子の棚に向かう。変わった味はスーパーよりコンビニの方が揃っていたりする。

 棚の間を歩いていると、視線の先に見覚えのある背中が見えた。さっき職場で別れたばかりの白瀬だ。仕事はすでに終わっているし、プライベートなのであまり声を掛けない方がいいかと思いつつ、視線がそちらにいってしまう。

 白瀬が立っているのは飲み物の棚の前だった。何を買おうか迷っているようで、棚の前でじっと立っている。

 ずっと見ているのも悪いので和季も目的のポテトチップスに目を移す。ざっと新しいものが出ていないか確認してから視線を戻すと、白瀬はまだ同じ場所に立っていた。

 そして、ようやく決めたのか冷蔵庫の扉を開け、手を伸ばしかけた。その先にあったのは、この前ひよりが白瀬に見せていたマグネットの付いたお茶だった。

 そのとき急に賑やかな声がした。何故か白瀬が慌てて冷蔵庫の扉を閉める。


「私、あれ全部集めたんだ~」

「え、マジで」

「可愛いよね」

「あ~。部活疲れた~」


 高い声で離している声が聞こえてくる。女子高生の集団だろうか。


「あ、これこれ。探してたキャラあるじゃん!」


 和季からは死角になっていた棚の向こうから、声の主に違いないセーラー服の三人組が視界に現れる。彼女たちは真っ直ぐに白瀬のいる棚に向かっているようだった。

 ずっと張り付いていたはずの白瀬は何も持たずに、弾かれたように棚を離れる。

 そして、目が合った。

 その瞬間、白瀬がつかつかとこちらへ歩いてくる。思わず後ずさりしたくなるような迫力だ。なぜだか顔が怖い。


「萩本君、こんなとこで何してんの」

「あ、えと、喉が渇いたんでお茶でも買おうかと」

「いつからここに?」

「少し前から?」


 ぐいっと白瀬の顔が近付く。あまりに近くて慌てる。というか、どきどきする。いつもは気にしていなかったが、なんだかいい匂いまでする。


「見た?」

「な、何をですか?」


 頭が回らない。


「見てないならいいけど……」

「?」


 白瀬の顔が遠ざかる。一体何のことを言っているのだろう。


「あ、もしかして、あのマグネットのことですか?」


 ふと思い付いて言った途端に、白瀬の顔が真っ赤になる。


「え、ああ、その……、私はあの可愛いキャラクターが好きなわけじゃないからねっ! お茶が欲しくて、うん、私もお茶を買おうとしてただけだからっ!」


 聞いてもいないのに、まくしたてるように白瀬が説明してくれる。顔はますます赤い。


「もしかして……」


 可愛いもの好きなんですか? と言いかけたが、


「違うから、絶対違うから! 喉渇いてただけだから!」


 白瀬の言葉に掻き消される。

 そんな顔で言われても好きだと言っているようにしか見えない。

 別に女性なのだし可愛いものが好きでも全然おかしくないのに、と思ってしまうが本人には何か気にしているところがあるのかもしれない。確かに、いつも可愛いものなんか身につけていないし、そういうものが好きな性格には見えない。

 もしかして、似合わないと気にしているのだろうか。

 年上の女性にこんなことを言うと失礼になるのかもしれないが、ちょっと可愛い。


「あの、だったらお茶、買えばいいんじゃないですか?」

「……う、うん。そうだね」


 と、棚の前を見るものの、さっきの女子高生たちが白瀬が欲しがっていると思われるお茶の前で楽しそうに話していて、なんだか近寄りがたい。



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