霧島の忌引き
霧島は相変わらず終業時間にはきっちり席を立って帰って行く。あまりに正確で、いっそ清々しいくらいだ。
始業時間も早く来ることもない。だが、遅れるところも見たことがない。時間どおりに動いている。
だが、今日は始業のチャイムが鳴っても霧島の姿は無かった。
「あれ? 霧島さん、今日は遅いですね」
不思議そうにひよりが首を傾げている。
「ああ、霧島君か。彼なら今日は忌引きだよ。お母さんが亡くなったそうでね。さっき連絡があったよ」
松下が答える。
「え、霧島さんの家って母子家庭ですよね。大変じゃないですか」
「そうなのかい? それは知らなかったけれど、気の毒だね」
本当に心配だというように、松下が顔をしかめた。
「大丈夫だといいんですけど」
「そうだね」
ひよりが不安そうな顔をしているのは、なんだか珍しかった。
* * *
数日後、戻ってきた霧島はなんだか少しやつれているように見えた。
松下がお悔やみの言葉を掛けて、霧島はそれに無表情で応えていた。いつもそんなような顔をしているので、あれで悲しんでいるのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
席についた霧島に、ひよりが心配そうに声を掛けている。
「別に。疲れただけだ」
「大丈夫ってことは無いですよ~。だって、お母さんが亡くなったんですもん」
素っ気なく答える霧島に、それでもひよりは話し掛ける。和季には出来ないし、しようとは思わない。
「葬式なんて、悲しみを紛らわすために忙しくする為にあるものなのだと再確認したよ。本当に疲れたんだ」
「そう、なんですか」
あまりに淡々と話すので、さすがのひよりも言葉に詰まっていた。
疲れたと言いつつ、霧島はすぐに普段通りに仕事を始めている。
和季なら霧島と同じ状況で、平然と仕事が出来る気がしない。それに、気遣って声を掛けてくれた女の子に素っ気ない言葉なんて返さない。
やはり、霧島のことはあまり好きになれない。




