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ブラックコーヒー

「お疲れ様です」


 疲れた顔をして帰ってきた白瀬にコーヒーを差し出す。

 座ってすぐだと余裕が無いといけないと思い、座ってから少し時間を置いた。

 三日間、生き返りを担当した白瀬は目に見えてぐったりしていた。一人一人に対していつも全力なのだから無理もない。


「あ、萩本君」


 ちらりと白瀬がこちらを向く。何故か少し間があった。疲れていて身体がなかなか思うように動かないのだろうか。差し出したコーヒーにすら気付いていないようだ。


「あの、これよかったら」

「ありがとう。机の上に置いておいてくれる?」


 ようやく気付いてくれた。

 白瀬が生き返りを担当していて時間が空いたおかげで、自然に話し掛けることが出来た。霧島と話をした直後だったら、こんな風にはいかなかった。

 今はお疲れ様のコーヒー淹れることくらいしか出来ることは無いけれど、いつか白瀬に追いつきたい。霧島に話したように、彼女のようになりたい。彼女に認められるような仕事がしたい。

 白瀬がいなかった三日間、そんなことを思っていた。


「熱っ!」

「大丈夫ですか!?」


 隣から小さく悲鳴が聞こえて、慌てて立ち上がる。


「大丈夫、ちょっと熱かっただけ」


 白瀬がぺろりと舌を出している。


「全然大丈夫じゃないじゃないですか。ええと、水」

「大丈夫だってば、水ならさっき外で買ったやつが……」


 白瀬は鞄の中からごそごそとペットボトルを取りだして水を飲んでいる。


「なんだかすみません」


 和季は肩を落とす。

 よかれと思ってコーヒーを淹れたのに、全然役に立っていない気がする。もう少し、冷ましてから渡せばよかった。


「いいって、急に飲もうとした私が悪いんだし。そんなことで謝らなくても。それより、ブラックが好きなの覚えててくれたんだ」

「あ、は、はい」


 前に白瀬がブラックの缶コーヒーを飲んでいたのを覚えていただけなのだが、そう言ってもらえると嬉しかった。


「ありがとね」


 白瀬が微笑む。だが、その顔に疲労は隠しきれていない。


「白瀬さん、ブラック好きですよね~」


 声を掛けてきたのはひよりだ。ずっとパソコンの画面を見ていて疲れたのか、大きく伸びをしている。


「ブラックばっかりだと、胃に悪いみたいですよ。胃に穴が空いちゃいますよ。少しはお砂糖とかミルクとかあったほうが身体にもいいって言いますし。あ、ええと、ほどほどって意味ですけど」


 ちらりと松下の方を見て、ひよりが付け足す。


「ええ、ほどほどの甘さのコーヒーは最高ですよね」


 自分のことを言われたのに気付いたのか、松下がにこにこと笑いながら言う。松下にとって、あのコーヒーはほどほどの甘さらしい。思い出すだけで口の中にものすごい甘さが広がる。


「私はしゃきっとした味の方がすっきりするんだよね。でも、ありがと。心配してくれて」

「いえいえ~。それより見てください、これ」


 ひよりが何かを手に持ってずいっと白瀬へ差し出す。ひよりの手にあるのは小さいキャラクターのマスコットだ。


「いつも買ってる紅茶に付いてたんですよ~。可愛くないです? 可愛いですよね」


 目をキラキラさせて言われても可愛いもの自体にあまり興味が無いので返事に困る。見たことはあるキャラだから人気ではあるのだろうがよく知らない。大体、コーヒーの話をしていたはずなのに全然違うところにずれている。意外にも突っ込んでくれそうな霧島は不在だ。

 白瀬も困ったように笑っている。


「白瀬さんもこういうの好きですか? あ、これ、マグネットになってるんですけど、うちの冷蔵庫こういうのめっちゃくっつけてあってやばいんですよ。間違えてだぶって買ったりしちゃってて、余ってるやつもあるんですよね。もしよかったらいります?」

「……私は、いいかな。そういうの、あんまり」

「そうですかあ。可愛いのに」


 残念そうにひよりがマスコットを引っ込める。

 きっとまだ困った顔をしているんだろうと思い白瀬の顔を見ると、その視線はしまわれようとするマスコットをじっと見ていた。

 なぜか小さくため息を吐いてから、白瀬はブラックコーヒーに口をつける。すでに冷めているのか、今度は普通に飲んでいた。


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