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悪気はなくても

 生き返り課の部屋に戻ると、隣の席に白瀬の姿は無かった。先に行ったはずの霧島の姿も無い。霧島は元々、休憩時間終了のぎりぎりにしか戻ってこない。ひよりもそうだ。

 ホワイトボードの白瀬の欄を見ると、『生き返り担当中』と書かれていた。和季の休憩中に行ってしまったらしい。

 すでに席に座っている松下を見る。


「あの、白瀬さんは生き返りの担当ですか?」

「うん。さっき電話があってね」

「そうですか」

「何か用事でもあったかい?」

「い、いえ」

「そうかい?」


 和季が高岡を担当してから数日しか経っていないが、生き返りが起こるサイクルは決まっていない。すぐに次が起こることもあるし、ぽっかりと起こらない期間が続くこともある。

 今は白瀬と顔を合わせないで済んだことにほっとする。

 さっきの霧島との会話を思い出す。

 恥ずかしいことを言ってしまったという自覚がある。勢いだった。本人には聞かれていないとしても、あんなことを言った後で白瀬の顔を見るのは気まずい。

 昼休憩の終わりのチャイムが鳴ると同時に、霧島が部屋に入ってきた。和季のことはちらりとも見ない。余計なことを言ってしまったのはわかる。それでも、白瀬のやり方を否定されて言い返さないなんて我慢が出来なかった。

 今も白瀬は本当に生き返り力になりたくて、現場に向かっているのだろう。

 生き返り課の仕事が生き返りの監視が含まれているとしても、やることに変わりはない。

 それに、白瀬が『監視』などという言葉を使って和季に仕事を教えなかった理由はわかる気がする。

 白瀬自身が、この仕事をそんな風に考えていないからだ。

 きっと、それは和季の思い込みではない。

 霧島の言うとおり決して合理的ではないとしても、和季はそんな白瀬の考え方が好きだと思う。



   * * *



 白瀬が生き返りを担当している間は、ほとんど顔を合わせることはなかった。定時になっても、白瀬は帰ってこなかった。和季も少し残業しているが、それでも白瀬を見ることはない。

 きっと、担当している人のために何か一生懸命頑張っているのだろう。白瀬が仕事をする姿を見ていたのはまだ短い期間だが、仕事に対する姿勢はもう充分知っている。


「ここ、どうしたらいいですかね?」

「ん? ああ、ここは……」


 目の前で、ひよりが霧島に話し掛けている。

 霧島は特に無視する訳ではなく、ひよりに聞かれたことを説明している。

 和季に言ったことも話し方は嫌みっぽかった気がするが、別に悪気があった訳ではないのだと思う。和季自身が感情で受け入れられないというだけの話だ。


「やっぱり、霧島さんの説明はわかりやすいですねっ。さすがあ」

「そうか?」


 ひよりのきゃっきゃとした明るい口調に対して、霧島は眼鏡を直しながら無表情で答えている。


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