それでも僕は
「一番に言っておくべきなのにな。……俺たちのもう一つの仕事はな、生き返りを監視することなんだよ」
「……!」
「課長もハッキリとは言わない人だからな。お人好しの集まりだよ。全く。新人にまでそういう教え方をすると後が困るというのに。どちらにしろ、やることに違いが無いとしても、向き合い方が変わってくるだろ」
「それは、どういうことですか?」
「文字通りの意味だ。生き返りが三日間平穏に過ごしてくれるように監視する。ま、サポートとも言い換えられるが、要は問題を起こさないでいてくれるように見張りを付けている、ということだ。死ぬとわかっていて自暴自棄になる人間もいるからな。大抵の生き返りは大人しい。だから、ほどほどに話さえ聞けば問題が無い。時間もそれほど取られることも無い。やりたいことを手伝うなんていうのは、建前みたいなもんだ。そんなもんは本人のやりたいようにやらせておけばいいんだよ」
わざとらしく、霧島が大きく息を吐き出す。
「これも、問題を起こさせないように大人しくさせておくための手段でもあると思ってはいるけどな。白瀬さんはやり過ぎなんだよ。後は割引を普及させてカードを使わせることで社会に見張らせることが出来れば、俺たちも楽できる。その為にいつもそこら中の施設に挨拶に回ってるわけだ」
和季はぽかんと口を開けて、霧島の言葉を聞いていることしか出来ない。
「それなのに、彼女は不合理が過ぎる。真似をするのはおすすめしない。彼女のやり方では無駄に時間を掛けすぎだ。自分の仕事というものがわかっていない。生き返り本人には伝えないにしても、新人に教えないでどうする」
切り捨てるように淡々と、霧島は言う。
だからなのか、と妙に納得した。
霧島と白瀬では仕事への向き合い方が全く違う。
霧島の言うことが本当なら、その考え方も間違ってはいない。それはわかる。
わざわざ嘘を教えるようなことでもない。
白瀬がカードのことを先に教えてくれていれば、高岡のときに和季があそこまで慌てることは無かったかもしれない。生き返り課の業務が監視であると知っていれば、もっと事務的に必要なことだけ話せたかもしれない。
仕事だと割り切ることが出来たかもしれない。
霧島のような考えを先に教えてくれていたら、この仕事に対するイメージが変わっていた。そんな気がする。
白瀬のやり方を見て、やり過ぎだと思ったかもしれない。
急に言われて、頭が混乱する。
けれど、もしも白瀬のような対応をする職員でなかったら、柴田は、高岡は、これまで白瀬が担当してきた人たちは、満足して死に還ることが出来たのだろうか。全てを諦めはしなかっただろうか。
すっと、頭が冷えた。
「説明して頂いて、ありがとうございます」
「ああ」
霧島が頷く。霧島が言っていることは正しい。
それでも。
監視することが、仕事の目的の一つだったとしても。
生き返りの手助けをすることが、建前でしかないとしても。
白瀬のやり方が合理性には欠けるとしても。
「でも、僕は白瀬さんのようになりたいです」
「はあ? 何を言ってるんだ? 今説明したばかりだろう」
「説明して頂いたことは、よくわかりました。仕事をするには必要な話でしたので、とてもありがたいです。これからもわからないことがあったら、また教えてください。でも、僕は白瀬さんのやり方が好きです。白瀬さんに担当された人たちは、幸せだったんじゃないかと思うんです。だから、僕もそうなりたいです」
一息に言った。
白瀬のやり方を否定されるのは嫌だった。子供じみていると思った。それでも言わずにいられなかった。
和季は、白瀬の担当した生き返りたちの姿を見てきた。
だから、あのやり方を否定なんて出来ない。
霧島の顔が歪む。
「そこまで言うなら勝手にすればいい。だが、俺は巻き込まないでくれよ」
言い捨てて、霧島が背を向ける。
その後ろ姿が見えなくなってから、ようやく和季は息を吐いた。
言い過ぎたことはわかっている。それでも、後悔はしていなかった。




