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謝罪の言葉

 話し掛けづらい。

 だが、何も言わないのも気まずい。高岡のいるというホテルに着いてしまう前に謝りたい。

 電話での様子だと、車に乗った途端に怒られると思っていたから、その流れで謝ろうと思っていた。だというのに、そういう流れにならない。

 更に、ものすごいスピードを出すスポーツカーに乗っているという緊張感も手伝って喉はからからだ。

 それでも、せめて一言だけは謝っておかなければならないと、和季は唾を飲み込んだ。

 顔を白瀬へと向ける。

 そして、


「ごめん」


 発された言葉は和季のものではなかった。


「え?」

「さっきは電話で怒鳴っちゃって、ごめん」


 前を見据えたまま、顔を動かさずに白瀬が言った。


「あ、えっと……」

「私も気が動転してた。慌てると、ついカッとなっちゃうんだよね。課長に落ち着けって言われたよ」

「僕こそごめんなさいっ! ちゃんと昨日よく確認しなくてっ。白瀬さんが怒るのは当たり前です!」


 和季は思わず、白瀬の方へ身を乗り出す。自分だって悪いのに、謝られてしまうと居心地が悪い。白瀬が怒鳴ったのだってきちんと理由があるからだ。


「ちょっと! あんまり動くと危ないってば! ちゃんと前向いてて」

「あ、はいっ。ごめんなさい!」


 確かにあまり席から身を乗り出すと危なそうだと、きちんと座り直す。


「もう。さっきから謝ってばっかり」


 白瀬がため息と共に吐き出す。


「だって、どう考えても僕の方が悪いじゃないですか」

「それは、きちんと聞かなかったのは悪いけど、すぐに適切な指示が出来なかった私も悪いし」

「あ、えと、聞きたかったんですけど、高岡さんの居場所ってどうやってわかったんですか?」

「ああ。あのね、生き返りの割引ってあるでしょ?」

「生き返った人が特別価格で乗り物とか施設とか利用できたりするやつですよね」

「あれ、どこで使ったか、誰が使ったか調べればすぐにわかるようになってるの。だから、色んなところに導入してもらうために今でも頭を下げて回ってるわけなんだけど」

「ええっ! そうなんですか!?」

「それでもし消息がわからなくなった生き返りがいたら、居場所がわかるってわけ。今回の高岡さんは特急電車とホテルを利用してたからすぐにわかったの。ありがたいことにね」

「……そうだったんですか」

「で、私は萩本君から電話をもらったとき、気が動転してそこまで頭が回らなかったと。自分のことならまだ冷静でいられるんだけどさ。初仕事なのに何かあったら大変だって、慌てちゃって……」

「……いえ」


 それはもしかして、ものすごく心配されていた裏返しなんじゃないかと思ってしまった。


「本当はそういう基本的なことを先に教えておかなくちゃ行けなかったよね。私、そういうの不器用で。だから、ごめん」


 和季のことを謝ってばかりだと言いながら、白瀬だってさっきから何度も謝っているではないかと思うが、口には出さないでおく。きちんと聞かなかったのは和季のミスなのに謝られるのは申し訳ない気持ちになる。


「あの、僕、聞いてたんです、昨日」


 だから、今言わなくてもいいのに口に出してしまった。


「高岡さん、三日間じゃ好きなところにも行けないって。そう言ってて」


 言ってから、やっぱり怒られると思った。


「……そっか」


 だが、白瀬の口調は厳しいものにはならなかった。


「そういうさ、小さなことが大事なんだよ。小さくこぼした呟きとかさ、帰り際に言いにくそうにしてる態度とか。そういうのを見逃さないようにするの。最初はそこまで気付かないかもしれないけど、やってくうちに段々わかってくる。もちろん、慣れだけじゃなくて常に意識はしてないといけないけどね」

「僕、まだまだですね」

「そりゃそうだよ。一回目なんだから」


 少しだけ白瀬の表情が緩んだ。しかし、話しながらでもさっきからスピードは一向に緩まない。


「もう少し、そういう細かいことも一緒にやってるときに説明できたらよかったと今になって思ってるんだけどね。どうにも、その場にならないと思い付かなくて。だから新人を指導するなんて向いてないって言ったのに」


 白瀬が諦めのようなため息を吐く。


「だから、何かあってすぐに電話してくれたのはすごくいい判断だった。自分でなんとか出来るだろう、大丈夫だろうって、勝手に判断しちゃうのが今の時点だと一番怖いから」

 

 怒られるとばかり思っていた。連絡しただけでいいといってもらえるなどと思ってもいなかった。


「高速降りるよ」


 唐突に白瀬がハンドルを切る。がくんと車が揺れて、話が途切れた。


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