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ドラマのようにはいかないらしい

 どこに行ってしまったのだろう。どうすればいいのだろう。本当にいないのだろうか。

 刑事ドラマなんかだと、こんなとき大家さんに頼んで部屋を開けてもらっている。そこで手がかりを見つけるのだ。そんなことが、出来るだろうか。

 と、そこまで考えてようやく気付く。白瀬に連絡を取るべきだ。何かあったら助けてくれてると言っていたではないか。すぐに連絡してくれた方がいいとも。

 鞄から携帯を取り出す手もおぼつかない。震える手で電話を掛ける。


『はい』


 和季が咄嗟に掛けたのは生き返り課の部屋の電話ではなく、白瀬の仕事用携帯だった。


「白瀬さんっ!」

『萩本君? どうしたの? 何かあった?』

「はい。あの、えっと」


 説明しなければならないのに、言葉が出てこない。


『落ち着いて。ゆっくりでいいから何が起こっているか説明してくれる?』

「わ、わかりました」


 携帯を少し離して深呼吸する。


「今、高岡さんのマンションに来ているんですが。僕、どうしたらいいのか。……ええと、ドアを叩いても反応が無くて、電話しても繋がらなくて……」

『え!? 会えてないってこと』


 和季のたどたどしい説明を黙って聞いていた白瀬が、急に声を荒げる。怒られているように感じて肩が強ばる。


『どこにいるかもわからないの!?』

「は、はいっ」


 目の前にいるわけでも無いのに、姿勢を正してしまう。


『本当にいないの? 中で何かあったとかじゃなくて?』

「隣の人に聞いたら、昨日の夜も留守にしてたみたいだって、そう言ってました。その、部屋の中を見て、確認したわけじゃないですけど……いる気配は無いって」

『そりゃ、出掛けたりするのは自由だけどさ』

「は、はい。あの……、中に入ることって出来るでしょうか? それで手がかりをさがしたりとか……」

『出来るわけないじゃない。そんなことしたら不法侵入だよ。私たちにそんな権利は無い。刑事ドラマじゃないんだからさ』

「……です、よね」


 中に入ることさえ出来れば何かしら手がかりでも見つかるかと、少し期待していた。どこかに行ってしまったとしても、行き先を示したものでもあればと思っていたのだ。

 さすがに、ドラマの中のように上手くはいかないらしい。


『……どうしたの?』


 電話の向こうから小さく白瀬では無い別の声がした。


『あ、課長。萩本君が担当している生き返りの方と連絡が取れないみたいで……』


 声の主は松下だったらしい。白瀬が口早に説明している。一度顔から離しているのか声が遠くなる。

 しばらくして、耳元で白瀬の声がした。


『一旦切るね。すぐ掛け直すから、そこで待機しててくれる?』

「は、はい」


 電話は切れてしまった。

 携帯を耳から離す。耳がじっとりと汗ばんでいる。

 次に掛かってきたときには、状況は好転しているのだろうか。どちらにしても、今はここで待つしかない。

 こんなことになるのなら、昨日もっと話をしておけばよかった。けれど、拒否されているとわかっていながら、あれ以上何かを聞き出すことが和季に出来ただろうか。

 一人でなんでも出来る人に手伝いを申し出るのは迷惑でしか無いような気がしてしまう。和季に出来ることなんてあるとは思えない。

 ドアの横の壁にもたれる。そうでもしていないと足が震えて、床に座り込んでしまいそうだった。

 きちんと話を聞くことが出来るのは、話が出来る人だけだ。やはり、この仕事は和季には荷が重い。

 昨日の会話を思い出す。何度かついていった白瀬が交わしていた会話と比べると、確かに全然なっていなかった。

 だが、ほとんど耳を傾けてくれなかった高岡にも問題があるのではないだろうか。

 ため息を吐く。

 どうしていいのか、わからない。

 開かないドアを見る。

 昨日一度だけ会った、高岡の顔が頭に浮かぶ。意地悪そうな表情しか憶えていない。

 何を話していただろう。必要最低限の説明と、手伝えることはないかと聞いたことと。

 そして、一度高岡が和季から顔を背けたこと。余程早く帰って欲しいのだろうなと思ってしまった。

 その後に何か言っていなかったか。


「……あ」


 三日では行きたいところにも行けない、そう言ってはいなかったか。

 あの時は流してしまったが、実は重要なことではなかったのか。すぐに聞いていれば教えてくれたのかもしれない。

 行きたいところ。

 もしかしたら、高岡はそこに行っているのかもしれない。

 どうしてあの時に気付かなかったのだろう。

 今更思い出したところで、高岡がどこへ行くつもりだったかなんてわからない。

 これは、きちんと話を聞かなかった和季のミスだ。


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