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留守!?

 翌日、昨日約束していた場所へ向かう。今日は高岡の自宅で会うという約束だ。昨日一度会っただけだが、高岡はかなり苦手な部類の人だ。二人で会うと思うだけで憂鬱になる。

 辿り着いたマンションは、少々年季は入っているものの綺麗なところだった。部屋の前にはきちんと名前も出ていた。間違いない。

 和季は高岡の部屋の前に立って、チャイムを押す前に深呼吸する。昨日も会っているとはいえ、今日も失敗無く出来るかどうか緊張する。高岡が苦手な部類の人だということも、緊張に拍車をかけている。

 ただ、昨日話した様子ではすぐに用件を済ませたいようだし、今日も短時間で済むに違いない。その方がありがたくはある。

 白瀬に言われた通り、もう一度和季に出来ることは無いか聞いてみるつもりだが、突っぱねられそうな予感しかしない。

 インターホンのボタンに指を添える。息を整えてから思い切って力を入れる。ドアの向こうから、微かにチャイムが鳴った音がした。すぐにインターホンからあの声が聞こえてくると思って身構える。だが、しばらく待っても声は聞こえてこない。聞こえていないのだろうか。あまり聞こえない部屋にいるという可能性もある。和季の実家にも、チャイムの音が全く聞こえない部屋があるのでわかる。

 もう一度息を整えて、ボタンを押す。反応は無い。部屋の中からは全く音が聞こえてこない。午前中だから、まだ寝ていて気付かないのだろうか。それとも、会いたくないからと居留守を使っているのだろうか。

 もう一度、ボタンを押してみる。やはり反応は無い。確かに会うのが嫌だとは思っていたが、出てくれないというのは想定していなかった。

 もうボタンを押すのは四回目だ。それでも出ない。段々と焦りが出てくる。

 和季は貸与されている仕事用のガラケーを取り出した。手が滑って落としそうになる。高岡の電話番号は書類に書いてあったはずだ。その場で鞄の中から取りだした書類をめくって探す。

 電話なら出てくれるかもしれない。

 まずは自宅の電話に掛ける。家の中から電話の音がするのが聞こえた。だが、高岡が出る気配は無い。電話の音なら、さすがに気付いてくれそうなものなのに物音がする様子もない。     

 携帯の番号にも掛けてみる。そちらも反応が無い。

 和季の番号は昨日伝えてあるから、わかっているはずだ。

 携帯を握りしめたまま、和季は立ち尽くす。どうすればいい。ドアノブに手を掛けて回してみる。当たり前だが、鍵が掛かっている。

 控えめにドアをノックしてみる。何も反応は無い。少し強く。それでも、反応は無い。こういうときは名前を呼んでみた方がいいのかもしれない。


「高岡さん?」


 再び沈黙。


「高岡さん!」


 近所迷惑かと思いつつ、少し大きな声で呼んでみる。

 唐突に、ドアが開く音がする。

 だが、高岡の部屋ではない。音のした方を見ると、隣の部屋の住人が顔をのぞかせていた。若い女性だ。持っている荷物を見ると買い物に行くところのようだ。和季を一瞥して、行ってしまおうとする。


「あ、あの、すみません!」


 このまま手がかりが無くなるよりはと、掠れた声で和季は叫んだ。女性が振り向く。


「ここの部屋の方がどこにいるか、ご存知じゃ無いですか?」

「え、知りませんけど」


 女性は困惑した顔で答える。


「そうですか、すみません……」


 頭を下げる。何か聞けるのでは無いかと少し期待してしまった。

 いつもの和季ならここで引き下がる。それでも、


「ええと、少しでも何か知りませんか?」


 これを逃したら多分ヒントは途切れてしまう。


「う~ん、今朝は知らないですけど昨日の夜は留守にしてたと思いますよ。電気も点いていなかったし。いつも夕飯時にはいい匂いがするのにそれも無かったから」

「そ、そうなんですか!?」


 だとしたら、昨日の夜からいなかったということだろうか。


「はい。あの、失礼ですけどあなたは?」


 説明してから不審に思ったのかもしれない。女性は怪訝そうな顔を和季に向けていた。怪しい人だと思われているようだ。


「あ、す、すみません! 市役所から来た萩本と申します」


 首から提げている名札を差し出すと、女性が怪訝そうにのぞき込んだ。


「市役所? 生き返り、課? 私、もう行っても大丈夫ですか?」

「は、はい! ありがとうございました」


 不審そうな顔でこちらを何度か振り返りながら女性は去って行った。

 とりあえず、引きつった愛想笑いを浮かべておく。

 女性の話では高岡はここにはいないことになる。


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