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二人の出会い

「すみません! すみません!」


 由梨が何度も頭を下げる。


「さっきから彼が失礼なことばかり言って、本当にごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよ」


 和季にも大切な人がいる。他の誰も、彼女と同じようには見られない。言われるまでもなく、手など出すわけがない。

 由梨は申し訳なさそうに体を縮こまらせている。


「仲がいいんですね」

「えっ、あっ!」


 社交辞令のようなつもりで言ったのだが、由梨の顔が赤くなる。


「……本当は優しい人なんです。なんか、気が動転しちゃってるみたいで。えっと、彼は汰一君っていうんです。岩崎(いわさき)汰一(たいち)。大学で知り合って、それでずっと付き合ってて。ようやくプロポーズしてくれたのが嬉しくって。社会人になってきちんとやっていけるようになるまではって、そういうとこはしっかりしてて。あ、別にこんなこと言わなくてもいいですよね。私も気が動転してるかな。あ、えと、役所の人って聞いてたので、もっと年配の人が来るのかと思ってたんです。眼鏡を掛けててお固そうなおじさんとか」

「ご期待に添えなくて申し訳ないです」

「違いますよ。むしろ歳が近そうな人が来てくれて嬉しいです。年配の人だとなんだか気後れしちゃって、あんまり話せなかったんじゃないかと思うので。で、話は戻るんですけど、大学に入ったばっかりの頃ってサークル勧誘ものすごくないですか? 毎日お祭り騒ぎみたいで。私、ああいうの苦手で」

「わかります。私も苦手ですから」

「大学入ったときに一人暮らしも始めて、全然知らない土地だったので入学したすぐは知り合いもいなかったんです。だから、友達と一緒にそれについて話すことも出来なくて。勧誘してる人たちの中を通りながら、笑って話してたりする子たちが羨ましくって。実家にいるときは家に帰ったらお母さんに話して笑い話にしちゃえたんですが、帰っても一人じゃないですか。でも、そんなことで連絡したら心配かけちゃうかなって、メールも電話も出来なくて」


 えへへ、と由梨が笑う。


「入学後何日かしたら、ようやく勧誘が沈静化したんです。その日はもう、さすがにそろそろ大丈夫だろうって気を抜いてぼんやりと歩いてて。そしたらまだ勧誘を続けてサークルの男の人に声かけられちゃって。うっかり入るサークルを決めてないって言ったら、お試しでもいいからって強引に迫られてしまって」


 当時を思い出しているのか、由梨はため息をつく。が、次の瞬間ぱっと笑顔になった。


「で、そのときに現れたのが彼なんです!」


 それがこの話のメインらしい。

 好きな人の話を聞いてもらうのは楽しくて幸せだ。それくらいは和季にもわかる。だから、こうして由梨の話を聞いている。

 それが今回の生き返りに対して和季が出来ることだと思っているから。


「しつこく迫ってきて困り果てていたそんな時、ちょうど通りかかったたっくんが待ち合わせをしていたなんて機転を利かせて助けてくれたんですよ! そこから私を落ち着くまで一緒に学食で無料のお茶を飲んで、彼のいるサークルに誘われたんです。でも、そんな調子のいいところも嫌いじゃないんです」


 由梨の顔は幸せそうだ。


「しかも、一目惚した。とか言うんですよ」

「彼氏さん、いい作戦でしたね」

「ですです! すいません。こんな話しちゃって」


 話しすぎたと我に返ったのか、由梨が恥ずかしそうにはにかむ。


「いえ、ごちそうさまです」


 和季は笑って答える。こうやって話してもらえるということは信用されているということで、それはとてもありがたい。元々男女関係なく仲良くなれるタイプなのだろう。

 和季自身はそうでもないのだが、相手がフレンドリーに話してくれれば話を合わせやすいので助かる。

 だが、幸せそうな由梨の顔を見ていると考えずにはいられなくなることがある。


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